第69期王座戦五番勝負第1局。永瀬拓矢vs木村一基

開始日時:2021/09/01 09:00
終了日時:2021/09/01 20:18
表題:第69期王座戦五番勝負第1局
棋戦:王座戦
戦型:角換わり腰掛け銀
持ち時間:5時間
消費時間:128▲300△291
場所:宮城県仙台市「ホテルメトロポリタン仙台」
備考:昼休前80手目▲64分△124分\n夕休前93手目▲226分△232分\n
先手:永瀬拓矢王座
後手:木村一基九段

*いよいよ第69期王座戦五番勝負(主催:日本経済新聞社、特別協賛:東海東京証券株式会社)が開幕する。永瀬拓矢王座の挑戦権を獲得したのは木村一基九段。第1局は9月1日(水)に宮城県仙台市「ホテルメトロポリタン仙台」で行われる。9時に対局開始。持ち時間は各5時間(チェスクロック使用)。先後は振り駒で決定する。昼食休憩は12時10分から13時、夕食休憩は17時30分から18時。
*立会人は島朗九段。新聞解説は高崎一生七段。記録係は小高悠太郎三段(所司和晴七段門下)が務める。新聞観戦記は大川慎太郎さんが担当する。
*
*当日の朝を迎えた。8時30分、日本将棋連盟会長・佐藤康光九段ら関係者が対局室に入る。小高三段は駒を磨いている。
*8時42分、永瀬が上座に着く。スーツを身にまとい、目を閉じて木村の到着を待つ。
*8時46分、木村が入室。薄いベージュ色の和服で、涼しさが感じられる。ややあって永瀬が駒箱を開けた。
*8時51分、永瀬の振り歩先で振り駒が行われ、結果は歩が3枚。永瀬の先手に決まった。
▲2六歩
*◆永瀬 拓矢(ながせ たくや)王座◆
*1992年9月5日生まれ、神奈川県横浜市出身。安恵照剛八段門下。2009年、四段。2020年、九段。棋士番号は276。
*タイトル戦登場は8回。獲得は王座2期、叡王1期の計3期。棋戦優勝は2回。
*
*9時、定刻通りに対局が開始された。
△8四歩
*◆木村 一基(きむら かずき)九段◆
*1973年6月23日生まれ、千葉県四街道市出身。(故)佐瀬勇次名誉九段門下。1997年、四段。2017年、九段。棋士番号は222。
*タイトル戦登場は9回。獲得は王位1期。棋戦優勝は2回。
▲2五歩
*【永瀬の公式戦成績】
*通算成績は405勝163敗(0.713)
*昨年度成績は44勝23敗(0.657)
*今年度成績は11勝6敗(0.647)
△8五歩
*【木村の公式戦成績】
*通算成績は693勝410敗(0.628)
*昨年度成績は24勝23敗(0.511)
*今年度成績は14勝7敗(0.667)
▲7六歩
*本局は「Paravi」と「ABEMA」で動画中継される。
*Paraviの放送は17時から終局まで行われる。解説は藤森哲也五段、聞き手は香川愛生女流四段。
*
*ABEMAの放送は8時30分から終局まで行われる。解説は先崎学九段、佐藤和俊七段、井出隼平五段。聞き手は千葉涼子女流四段、室谷由紀女流三段。
*
△3二金
*両者の対戦成績は3勝3敗(2千日手)。タイトル戦で顔を合わせるのは初めて。戦型は相掛かり、横歩取り、角換わり、矢倉、永瀬の中飛車(2012年の初対戦)とバリエーションに富んでいる。対局数が少ないにもかかわらず、2回千日手があるのは興味深いところ。今シリーズでも見られるかもしれない。
▲7七角
*両者とも受け将棋の棋風で共通している。ただ、駒を丁寧に摘み取る永瀬、相手の攻め駒を責める木村と、受けの性質はやや異なる。
*さらに体力にも定評があり、深夜のねじり合いも得意としている。今シリーズも長期戦になる可能性が高そうだ。対照的なのは駒音。永瀬は静かに、木村は力強い駒音を立てて着手する。
△3四歩
*王座戦は日本経済新聞社が主催、東海東京証券株式会社が特別協賛する棋戦。全棋士と女流棋士4名で行われ、一次予選、二次予選のトーナメント戦を行い、二次予選を勝ち抜いた棋士とシード棋士の16名によって、挑戦者決定トーナメントを行い、挑戦者を決める。例年9月初旬に開幕局が行われる。
▲8八銀
*日経電子版では両者の抱負や、対戦相手の印象などが述べられている。また、行方尚史九段、高見泰地七段によるシリーズの展望も見どころだ。
*
△7七角成
*戦型は角換わりに決まった。
▲同 銀
*本日の日本経済新聞の観戦記は第69期王座戦挑戦者決定トーナメントの渡辺明名人-石井健太郎六段戦が掲載されている。上地隆蔵さんによる執筆だ。
△2二銀
*対局場の「ホテルメトロポリタン仙台」は仙台駅から徒歩1分ほどに位置するこの上ない立地だ。
*第60期王座戦五番勝負の開幕局でも同会場で行われた。渡辺明王座に羽生善治二冠(肩書はいずれも当時)が挑戦し、渡辺明王座が勝利。なお、シリーズ全体では羽生二冠が3勝1敗で王座を奪取している。
▲1六歩
*永瀬の本棋戦成績は30勝10敗(0.750)。初参戦は第59期。第67期に当時の斎藤慎太郎王座を3勝0敗で破り初獲得。翌年に久保利明九段との防衛戦を3勝2敗のフルセットで退け、初防衛を果たした。永瀬は3連覇を狙う。
△1四歩
*木村の本棋戦成績は39勝25敗(0.609)。初参戦は第46期。第56期に当時の羽生善治王座に挑戦したが0勝3敗で奪取はならず。今期、約13年ぶりに王座戦五番勝負の舞台に戻ってきた。木村は初の王座奪取を狙う。
▲3八銀
*対局開始時、永瀬のお盆には缶コーヒー(ブラック)2本、スポーツドリンク2本、ミネラルウォーター2本の飲み物が置かれている。木村は緑茶とミネラルウォーターが2本ずつ。永瀬は早くも上着を脱いだ。
△3三銀
*木村は挑戦者決定トーナメントからの参戦。初戦から澤田真吾七段、高崎一生七段、石井健太郎六段に勝ち、挑戦者決定戦で佐藤康光九段を破って挑戦権を獲得した。
▲3六歩
*永瀬の直近10局の成績は6勝4敗。古い対局から順に○●○○○○●●○●。
△6二銀
*木村の直近10局の成績は8勝2敗。古い対局から順に○○○○○●○●○○。
▲3七桂
*スラスラと序盤から手が進んでいる。控室では島九段と高崎七段が検討を始めた。
△4二玉 ▲4六歩
*先手は▲4五桂の速攻を含みにした駒組み。
△5二金
*後手は△4二玉~△5二金と手堅く備える。▲4五桂は△2二銀と応じてすぐには潰れないのが定説だ。
▲7八金
*先手は急戦が難しくなったが、4二玉・5二金型に組ませた主張がある。しばらくは駒組みが続きそうだ。
△6四歩 ▲6八玉
*
△6三銀
*互いに4筋(6筋)の歩を突いたことで相腰掛け銀が濃厚となった。
▲9六歩
*先手から9筋の打診。
△9四歩
*さほど時間をかけずにあいさつを返した。端の関係はこれで互角。ここは9筋を受けずに中央の駒組みを優先する方針もあった。
▲4七銀
*控室では指し手の早さについて言及されている。
*「永瀬王座は先手番になったら角換わりをやろうと決めていたのだと思います。相掛かりもありましたが、2日前(竜王戦挑戦者決定三番勝負第2局・対藤井聡太王位・棋聖戦)に指されたばかりですからね」(島九段)
△7四歩
*「聞くところによると最近の角換わりは研究が進み過ぎていて行き詰まっているそうです。それでも永瀬王座が採用したのは角換わりのスペシャリストたる所以ですね。形が多すぎてすべて把握するのが難しいんです。うろ覚えで指すと潰されてしまいますから」(島九段)
▲2九飛 △7三桂 ▲4八金 △8一飛
*ともに下段飛車に構えた。
▲6六歩 △6二金
*手損になるが6二に金を寄って形を整える。待機戦術が目的なので後手はあまり手損を気にしなくていい戦型だ。
▲5六銀
*9時30分の局面。
△5二玉
*後手は手待ち戦術で千日手を狙いにする方針。控室では先手がどこで仕掛けるかに注目している。
▲7九玉 △4二玉 ▲8八玉
*8八まで玉を深く囲った。
△5四銀 ▲4五桂
*「あっ跳ねた」と検討陣。
*本格的な戦いが始まった。ここでは△4四銀と△2二銀が指されている。
△2二銀
*2二を選択。△4四歩と突いて桂を取ろうとしている。
▲3五歩 △4四歩 ▲3四歩 △4五歩
*後手は桂を手にしたが、▲4五同歩で先手も戦える。後手は歩切れでまとめづらいという主張だ。半ば定跡化された進行で、互いにほとんど時間を使わない。
▲同 歩
*「早い早い」(島九段)
*指し手の早さに検討陣もなかなか追いつかない。現局面の前例は1局。2018年に指された王位戦▲豊島将之八段-△澤田真吾六段(肩書・段位はいずれも当時)戦。以下△6五歩▲同歩△7五歩▲4四歩△8六歩と進んだ。結果は先手の勝ち。
△6五歩
*「面白くなってきました」(島九段)
*島九段は前例の▲豊島八段-△澤田六段戦の進行を見て「さわやかですね」とひと言。検討には佐藤康九段も加わっている。
▲同 歩 △7五歩 ▲6四歩
*この手で前例を離れた。
*「利いていると見たのでしょうね」(島九段)
*検討の継ぎ盤には△7六歩▲同銀△8六歩▲同歩△同飛▲8七金△8一飛▲8六歩△7四歩▲5五銀△同銀▲6三歩成の進行が並べられた。
*木村はあごに手を当てて思案に暮れる。15分を超える考慮。未知の局面に入ったことで、指し手のペースが落ち着きそうだ。
△7六歩
*10時8分の着手。木村は力強い手つきで7筋の歩を取り込む。
*「すごい将棋ですね。前例から離れても手が止まらないのがすごいです」(島九段)
▲同 銀 △8六歩 ▲同 歩
*永瀬はまだ11分ほどしか使っていない。自信がうかがえる。
△同 飛 ▲8七金
*金を上がって7六銀にもヒモをつける。
△8一飛 ▲8二歩
*控室では▲8六歩が予想されていたが永瀬の手は▲8二歩と敵陣に伸びた。
*「いやー」(島九段&高崎七段)
*「決着をつけにいってますね」(佐藤康九段)
*△4一飛と逃げるのは▲7四歩で先手がよさそう。△8二同飛が考えられるが、そこで▲8六歩と8筋を収める狙いか。8二に飛車を呼び寄せれば▲7四歩~▲7三歩成が飛車取りになる。
△同 飛 ▲7一角
*「ええっ」と検討陣。すぐに「角?」と意外そうな声が上がった。
△7二飛
*互いに手が止まらない。
▲6二角成 △同 飛 ▲7四歩 △6四飛 ▲6六歩
*指し手を見守る検討陣。
*「これかー」と高崎七段が6六に歩を打ちつける。
*「ここまで研究しないといけないのか。いやー」(佐藤康九段)
*「▲6六歩まで準備するなんてすごいですね」(島九段)
*控室では△6三飛▲7三歩成△同飛▲4四桂△3一金が示された。これは木村らしいといわれたが、少し苦しそうという。
*「永瀬さんが研究で圧倒してやろうという感じが見て取れますね」(島九段)
△6三飛
*長考するかと思われたが、8分42秒の考慮で△6三飛。検討で示された手だ。
*「第1局から張り合ってるなあ」(島九段)
▲7三歩成 △同 飛
*「1時間半で72手」。検討陣が一斉に腕時計を見る。
*「これお昼前に終わっちゃうんじゃ」との声も。
▲7四歩
*「えっこれもノータイム?」(佐藤康九段)
*もはや継ぎ盤はあまり動かされず、3人は現代将棋の恐ろしさについて語っている。とてもこの手順はノータイムでは指せないとのことだ。
*すぐに検討再開。(1)△8三飛▲8六歩△6四桂▲4四桂△3一金や(2)△7四同飛▲4四桂△3一金▲6五銀右などが並べられている。
*「検討に1時間半かかる」(佐藤康九段)
*木村が手を止めた。扇子を手にし、盤上をじっと見つめる。
△8三飛
*△7四同飛は▲6五銀右とぶつけられる筋が生じた。△8三飛は△8六歩を狙った逃げ場所で自然な一着。木村は腕組み。眼鏡を外し、フェイシャルペーパーで顔を拭いた。永瀬はうつむく。顔を上げると目を閉じたまま動きを止めた。
*佐藤康九段は▲8六歩に△7二歩を挙げる。
▲7三金
*「ええっ」(佐藤康九段)
*「驚愕の……」(島九段)
*検討ではまったく挙がっていなかった手。永瀬の手が敵陣に伸びたので、「▲4四桂か」といわれていた。べったりとここに金を投入していいものなのか。高崎七段が「んんっ?」と首を突き出して考えている。
*検討が進み、△8一飛に▲7二金△4一飛▲7三歩成の進行は先手が手厚いかもしれないといわれている。手順中の△4一飛に代えて△8七飛成は▲同玉△8六歩▲同玉で先手がいいようだ。7三金が手厚く、入玉が見込める。
△8一飛
*11時0分の着手。△8一飛までの消費時間は、▲永瀬22分、△木村1時間37分。
*対局室に昼食の注文表が届いた。盤上は激しさを増す中、両者ともじっくりと目を通す。
▲7二金
*着手して永瀬は席を立った。
*控室ではそろそろ手が止まるだろうといわれている。1時間以上の長考に沈んでもおかしくない勝負どころだ。△4一飛に代えて△3一飛▲7三歩成△4三金▲4六桂の進行も並べられた。結論は出ていない。飛車を攻めに使うなら△8四飛。ただ、▲7五銀の味がよさそうだ。
△3一飛
*3一に逃げた。目標になりそうなので、逃げるならなるべく遠いところに逃げたい。ただ、△3一玉と引く手はなくなった。永瀬がまとまった時間を使う。
*控室では代えて△8四飛の変化を深く検討していた。(1)▲7五銀なら△8五飛▲8六銀△8四飛▲7五銀で千日手になりそうといわれていたのだが、(2)▲7三歩成△8六歩▲8五歩△8七歩成▲同玉が手ごわいようだ。金を見捨てる意表の手順だが、飛車が取れそうで、後手玉は飛車に弱い。
*ABEMAでは井出五段が解説中。「(研究の)確認というより考えていると思いたいです」とのこと。そろそろ研究から外れているのではないかと推察した。
*控室の継ぎ盤は▲7三歩成△4七歩▲同金△4三金の局面で止まっている。そこで▲4六桂が感触のよい一打だ。△4七歩▲同金の交換は先手の得になるかもしれないという。
*「とりあえず歩を成りそうなものですが」(島九段)
*「△4三金を嫌って▲4四歩を考えているのかな。推測ですけど」(佐藤康九段)
▲7三歩成
*11時50分、永瀬の手が動いた。攻防ともに大きなと金を作る。控室ではこのまま昼食休憩に入るのではないかといわれていた。島九段は対局室に向かう。木村は脇息に身をうずめ、額に手を当てる。起き上がったあと、ぶるぶると首を振った。
*12時10分、この局面で木村が20分使って昼食休憩に入った。ここまでの消費時間は、▲永瀬1時間4分、△木村2時間4分。永瀬の昼食注文は、「ホテル特製ビーフカレー(ポタージュ付き)」、「メロンのショートケーキ」、「ホットコーヒー」、「アイスコーヒー」、木村の昼食注文は、「ホテル特製シーフードカレー(ポタージュ付き)」、「フレッシュジュース(オレンジ)」。対局は13時から再開される。
*12時52分、両者とも盤の前に戻って考えている。
△4七歩
*13時になり対局再開。△4七歩とたたいた。永瀬は上着を脱ぐ。
*控室の検討では▲4七同金△6七歩▲6二と△6八歩成▲4四桂△8六歩▲同金△7九角の変化が並べられた。
*「これは後手が面白いんじゃないですかね。角を渡しても後手玉は詰みません」(島九段)
*▲4七同金のほかには、▲5八金とかわすのも自玉に近づけて自然。▲4七同銀は利かされになるとのこと。永瀬はあぐらで盤上を見下ろす。自陣を丹念に見ているようだ。考慮は30分を超えた。
*「午後は長考合戦になってもおかしくないですね」(島九段)
▲同 金
*46分53秒の長考で▲4七同金と応じた。
*「さわやかですね。代えて▲5八金のほうが泥仕合になりそうでした」(島九段)
*▲5八金以下の検討変化の一例は△3八角▲7九飛△8六歩▲同金△4八歩成▲同金△2七角成▲8七玉。最後の▲8七玉は△6八角の両取りを消したもの。双方とも玉を捕まえるのは難しい。
△4六歩
*力強い手つきで4六に歩をねじ込む。14時4分の着手だった。
*▲4六同金は△8六歩が厳しいと高崎七段。▲8六同金に△6八角が金取りと△5七角成の両狙いになる。先手は▲4八金と引くことになるが、圧力をやや緩和できているのが大きく、△4六歩は好手との評判だ。▲4六桂を消している効果もある。
▲4八金
*控室の検討では△6七歩が挙がっている。▲6七同銀右は△4七歩成▲同金△3八角。この歩は取れないので▲4四桂△6八歩成▲6二と(金)の攻め合いが予想されるが、△8六歩▲同金△7九角▲同飛△同とで、後手玉は角を渡しても詰まず、△6八飛~△4八飛成の筋が残っている。
*検討が進み、手順中の△7九角に▲8七玉とかわし、△7八角▲7七玉△8九角成▲8七金と進むと後手が攻め合ぐねているという見解に変わった。現局面で△6七歩は先手がよくなるようだ。
*「先手は曲線的に、入玉も目指す感じなんですね」(高崎七段)
*14時17分、永瀬は消毒液を取り出し、しっかりと手を消毒した。
△6七歩
*14時37分の着手。
*25分58秒の考慮。「筋だねえ」と検討陣。永瀬は6六歩の位置を整えた。
*控室は(1)▲6二金△8六歩▲同金△6四角の変化を検討している。▲6二金に代えて(2)▲4四桂は△4三金▲6二金△3四飛で逃がす恐れがあり、(3)▲6二とは△6八歩成▲4四桂△8六歩▲同金△7九角▲8七玉△7八角▲7七玉△8九角成▲8七金に△7四桂が生じるので先手がまずいようだ。
*戻って(1)▲6二金に△8六歩▲同金△6四角は▲6三と△8六角▲8七歩△6八角成▲5二金△4三玉▲5三と△3四玉▲5四と△2四歩▲4四と△2三玉▲2四歩△1二玉▲3四とで先手がよいとの見解になった。2九飛が攻守に光り輝いている。
*永瀬は眉間にしわを寄せ、ぎゅっと目をつぶる。木村は眼鏡を外し、おしぼりで顔を覆った。午前中から一転、スローペースの難解な中盤戦を迎えている。
*15時2分、おやつが運ばれた。注文は、永瀬が「ホットコーヒー」、「アイスコーヒー」、「フレッシュジュース(オレンジ)」。木村が「シュークリーム」、「アイスコーヒー」。飲み物は対局室、食べ物は控室に提供される。
*15時28分、永瀬の考慮は50分を超え、消費時間が逆転した。
▲4四歩
*15時51分、永瀬が着手。1時間13分24秒を使い、残りは2時間を切った。
*じわりと圧力をかける一着。▲4四桂の筋があっただけに盲点になるが、指されてみると後手は凝り形をほぐすのが難しい。
*永瀬はアイスコーヒーを飲み干したあと、オレンジジュースをひと口。そしてホットコーヒーに口をつけた。扇子をあおぐ。
*
*
*※局後の感想※
*△6八歩成には▲7七玉の予定だったようだ。以下△5九角には▲同飛△同とで清算させてから玉を上に逃げる。
△8六歩
*大きな駒音を立てて△8六歩。着手後に木村は「いやー」と声を漏らした。
*
*※局後の感想※
*「(前手△6八歩成の変化で)▲7七玉が嫌で打ったんですけど、▲7五金がいい手だった可能性が」(木村)
▲同 金
*上部が塞がるのをいとわずに取った。▲7七金なら9七~8六の逃げ道があったが、拠点が残るのを嫌ったようだ。木村は脇息をつかみ、前傾姿勢に。
△6八歩成
*玉のそばにと金を作る。通常は強烈な存在だが、現状は△7九角と打たれてもまだ先手玉は寄らない。
▲7五金
*力強く金を上がった。上部が開けて先手は入玉しやすくなっている。後手の戦力は頭の丸い駒ばかりなのでそう簡単に捕まえられない。△8六歩と垂らす手には▲7七玉の味がよさそうだ。
*ABEMAでは先崎九段が解説している。▲7五金について「この手は間違いなく読んでないですから」とコメント。木村が時間を使うと見ている。
*後手の手段が難しいようで、控室ではあまり気の利いた手が挙がっていない。攻めるなら△8六角だが、▲8五金と寄られると後続が難しい。一例として△5二桂と打ち、△4四桂~△5六桂のルートでどうかと触れられている。「△5二桂が粘りの木村流かな」と島九段。
*
*※局後の感想※
*この手が好手だった。
△8五歩
*「気がつかない……これは気がつかないねえ」(島九段)
*30分を超える考慮で△8五歩。検討では辛抱の手が挙がっていたが、△8五歩はぼんやりとプレッシャーをかけている。▲8五同金は△6四桂の狙いのようだ。
*ここは▲6二金が候補手。高崎七段は「攻めるんですかね」と△7九角▲同飛△同との順を挙げた。しかしそこで▲7四角が厳しく、後手玉の受けが難しいとわかった。
*「(3筋の)壁がたたっていますね」(島九段)
*17時、「Paravi」で藤森五段と香川女流四段による解説が始まった。
*藤森五段「永瀬王座の深い事前研究が盤上に現れており、局面は混沌としているが、王座が手厚く指している印象を受ける。木村九段は3一の飛車が狭く、自玉が壁形でこれがどうなるか。▲7五金は入玉含みで、両対局者の持ち味が出やすい展開になっており、この後も両者の力のこもったねじり合いに期待したい」。
▲7九歩
*23分ほどの考慮。永瀬の手を見て「いま▲7九歩?」と検討陣。島九段が「転ばぬ先の杖」と続ける。控室は意外だった様子だ。木村はぐっと体を前傾させる。
*ABEMAの佐藤和七段は「▲7九歩も本線で読みづらいですよね」とコメント。前手▲7五金に続き、相手の読みを外すかのような一着が出た。永瀬の勝負術。木村はどう応えるか。そろそろ夕食休憩が近づいている。
*
*※局後の感想※
*「▲8五同銀でもわからなかった」と木村。ただ、やりにくいというのが両者の見解。以下△5二桂▲3六桂△6九角▲同飛△同と▲6二金が並べられたが「普通選ばないですか」と木村。
△9五歩
*17時22分、ビシッとした手つきで△9五歩を着手。木村は席を立った。永瀬は記録のタブレットのほうに顔を向ける。
*17時30分、この局面で永瀬が8分使って夕食休憩に入った。ここまでの消費時間は、▲永瀬3時間46分、△木村3時間52分。夕食の注文は、永瀬が「ホテル特製ビーフカレー(ポタージュ付き)」「アイスコーヒー」「ホットコーヒー」、木村がミックスサンドイッチ(ハム・野菜)(ポタージュ付き)」、「アイスコーヒー」。対局は18時から再開される。
*
*
*18時になり対局再開。永瀬はすぐに指さず、盤上を見つめる。控室では△9五歩がうまい手渡しとの評判だ。▲9五同歩は後に△6九角の威力が上がっているという。
*「さすがの勝負手ですよね」(島九段)
*「悩ましいですね」(高崎七段)
*
*※局後の感想※
*▲9五同歩は△6九角でわからなかったと永瀬。
▲6二金
*▲6二金と寄った。いよいよ後手玉の寄せに向かったようだ。▲6三と~▲5二金の自然な攻めが受けにくい。「いやー」と木村。残り1時間を切った。
*控室では非常手段で△3三銀が検討されていた。しかし銀を渡す損失が大きく、先手がよいという見解に。別の手段として△9六歩を検討中。どうやらかなり難解のようですぐに結論は出ていない。一例は△9六歩に▲6三と△9七歩成▲同桂△8一飛。3一に逃げ道を作れば△1三銀と粘る手が生じる。先手玉も△9六桂の筋があるので、簡単ではないようだ。
*「△9六歩と取り込むと面白い変化がいっぱい出てきましたね」(島九段)
*木村は両手で後頭部を押さえ、ゆらりと席を立った。席に戻ると盤上をのぞき込む仕草も。「いやーそっか」と息を吐いた。木村の動作が多くなってきたことに「雰囲気が出ています。△9六歩で読みきろうとしているのではないでしょうか」と島九段。
△9六歩
*控室で声が上がった。「期待に応えるかのように」(島九段)△9六歩と取り込む。形勢は激戦との評判だ。木村は眼鏡を外し、おしぼりで顔を覆う。永瀬は前傾姿勢。ハンカチで口元を押さえる。
▲9五歩
*9五に歩を打った。▲6三との変化を検討していた控室からは「受けるのか」の声。△9五同香に▲8五金と手厚く受けに回る方針のようだ。以下△9七歩成なら▲同香△同香成▲同玉で上が広い。
*「香を持てば▲4三香も厳しいですね」(高崎七段)
*
*※局後の感想※
*代えて▲6三と△9七歩成▲同桂△9六桂▲8七玉△8一飛が示された。以下▲8五桂に△8八角を永瀬が指摘。これは先手が気持ち悪いとされた。
*「どれもあるのでわからないですが」(永瀬)
△同 香
*木村は残り30分を切った。着手してカチリとお茶のペットボトルを開ける。
▲8五金
*8五歩を払って先手玉は再び入玉ルートが見えてきた。
△9一飛
*9筋は清算せず、△9一飛と回って9五香にヒモをつけた。この手は△3一玉と引ける手も作って守りとしても大きな一着。
*ABEMAの解説では▲7七玉が示されている。代えて▲9四歩では△7五歩などがちらつき、やや薄い受けという。
▲9四歩
*6分ほどの考慮。△7五歩がいかにも筋だが、しのげると見たようだ。検討では「1手の価値が低いのでは」という声もある。
△9七歩成
*△7五歩も有力とされていたが、少考で△9七歩成と9筋に手をつけた。
▲同 香 △9六歩
*香を歩で取りにいく。
▲9五金 △9九角
*「あっ」と控室で声が上がった。△9九角はどうやら必殺の一打という。▲9九同玉は△9七歩成▲同桂△7七角が激痛だ。木村が逆転に成功しているとの評判で、急転直下のようだ。控室は慌ただしくなった。永瀬は盤上から視線を逸らさず、ハンカチを口元に当てる。
*「いきなり参りましたね」(島九段)
*永瀬の手が15分ほど止まった。額に手を当ててうつむく。永瀬は受けをひねり出せるか。
▲同 玉
*残り17分ほどまで考えて角を取った。代えて▲8七玉も△6六角成が厳しかった。
*「下で頑張ろうと」(高崎七段)
*
*※局後の感想※
*「まあ、上に逃げてもボチボチいけば、こっち少し1手稼いでますからね」(木村)
△9七歩成 ▲同 桂 △7七角 ▲8八香
*香を合駒する。代えて▲8八歩だと△9五角成が△9八歩▲同玉△8六桂▲8七玉△9六金▲7七玉△7八桂成までの詰めろになった。この手が粘りある一着か。
△9五角成
*金を取って後手は攻めが切れなくなった格好。入玉を懸念していたころが遠い昔のようだ。
▲6三と
*そろりとと金を寄せた。先手玉に詰みはない。次に▲6四角が回れば再逆転だ。
△7七馬
*△9八歩▲同玉△7六馬以下の詰めろ。後手は自玉が詰まないため、詰めろの連続で迫ればよさそうだ。
*控室は▲6四角を検討中。△9八歩▲同玉△7六馬▲8七歩と進み、△8六桂には▲同角を用意している。この手が詰めろ逃れの詰めろでどうか。
▲6四角
*残り9分ほどまで考えて▲6四角。簡単に土俵は割らない。
△9八歩
*ほとんど時間を使わず王手をかけた。
▲同 玉 △7六馬 ▲8七歩
*先手玉に詰みはない。一方の後手玉は▲5三角成以下の詰めろがかかっている。検討では△5一香が示されており、受けに回るのが冷静という評判だ。
△5一香
*受けに回った。木村は席を離れる。永瀬は息を吐き、おしぼりを口に当てた。木村が戻ってくる。永瀬は最後のまとまった時間を使う。
▲6五桂
*永瀬は持ち時間を使いきるまで考えて▲6五桂。自玉のわずかな猶予を生かして後手玉に迫っていく。
*△4一桂は▲9一角成。桂を受けに手放してはいけない。
△同 銀
*桂を取った。控室では△3一玉を予想しており、「あれ」の声。
*
*※局後の感想※
*「△3一玉でしたか」(木村)
*島九段は△3一玉▲5三とに△9四飛を指摘。これは後手が勝勢だった。▲5三とに代えて▲5三桂成にも△9四飛が利き、以下▲5二成桂なら△6四飛と根元の角を取ればいい。
*「ちょっとそれは組み合わせがわかりませんでしたね。それはいかんね。そうか」(木村)
*永瀬も桂を取られると思っていたそうだ。
▲同 銀
*控室では▲5一金なら再逆転だったのではないかといわれている。永瀬の指し手は▲6五同銀。
*「一瞬のチャンスでしたか」(島九段)
*
*※局後の感想※
*▲5一金△同飛▲6五歩なら永瀬が逆転していたようだ。先手玉に詰みはない。▲6五歩に代えて▲6五銀だと△同馬▲同歩△8九銀から先手玉が詰む。永瀬は「歩なんですかー」と天を仰いだ。木村は「そうかー一瞬も見えなかったね私」と話す。
△6七馬
*馬を6七に入る。△8九銀以下の詰めろだ。
*「これははっきりしましたね」(島九段)
▲5三と
*▲8五桂と逃げ道を開けても△9六歩で塞がってしまう。最後の勝負にいった。
△同 香
*永瀬は上着を着る。
▲4三銀 △同 金 ▲同歩成 △同 玉
*この局面で永瀬が投了した。終局時刻は20時18分。消費時間は、▲永瀬5時間0分、△木村4時間51分。投了以下、先手玉は△8九銀以下の詰めろが受けづらく、後手玉に詰みはない。開幕局は木村が制した。第2局は9月15日(水)に愛知県蒲郡市「西浦温泉 旬景浪漫 銀波荘」で行われる。
*
*
*※局後の感想※
*「ちょっと分かれは悪いでしょうね」と木村。▲7五金(89手目)の局面は永瀬がよかったとの見解だったが、△9五歩(92手目)がうまい手で攻め味をつけることに成功した。
*「お互いよくわからんてことですね」(木村)
*「そうですね。けっこう長い気はしましたけど」(永瀬)
*▲6五同銀(121手目)に代えて▲5一金については「一瞬……見えなかったので。うーん」と永瀬は悔やんでいた。
*感想戦は20時49分に終了した。
まで128手で後手の勝ち

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