第34期竜王戦挑戦者決定三番勝負第1局。永瀬拓矢vs藤井聡太

開始日時:2021/08/12 10:00
終了日時:2021/08/12 23:36
表題:第34期竜王戦挑戦者決定三番勝負第1局
棋戦:竜王戦
戦型:三間飛車
持ち時間:5時間
消費時間:184▲299△299
場所:東京・将棋会館
備考:昼休前29手目14分・夕休前55手目47分\n
先手:永瀬拓矢王座
後手:藤井聡太王位・棋聖

*第34期竜王戦は豊島将之竜王への挑戦を目指す戦いがいよいよ大詰めを迎える。挑戦者決定三番勝負に勝ち上がったのは、永瀬拓矢王座(1組優勝)と藤井聡太王位・棋聖(2組優勝)だ。タイトル保持者同士の好カード、どちらも三番勝負を制すれば竜王初挑戦になる。対戦成績は永瀬1勝、藤井4勝。戦型は角換わりまたは相掛かりの可能性が高い。
*対局は8月12日(木)、東京・将棋会館「特別対局室」で10時開始。持ち時間は各5時間。第1局の先後は振り駒で決定する。藤井の振り歩先で行われ、と金が4枚出て永瀬の先手に決まった。
▲7六歩
*◆永瀬 拓矢(ながせ たくや)王座◆
*1992年9月5日生まれ、神奈川県横浜市出身。安恵照剛八段門下。2009年、四段。2020年、九段。棋士番号は276。
*タイトル戦登場は7回。獲得は王座2期、叡王1期の計3期。棋戦優勝は2回。
△8四歩
*◆藤井 聡太(ふじい そうた)王位・棋聖◆
*2002年7月19日生まれ、愛知県瀬戸市出身。杉本昌隆八段門下。2016年、四段。2021年、九段。棋士番号は307。
*タイトル戦登場は5回。獲得は王位1期、棋聖2期の計3期。棋戦優勝は5回。
▲1六歩
*いきなり変化球。藤井が手を止めて前傾姿勢になる。手元のデータベースを調べると、永瀬はこれまでに実戦で1局だけ指している。2017年の第30期竜王戦2組昇級者決定戦、中村太地六段(当時)戦がそれで、ここから△6二銀▲1五歩△3四歩▲6八飛と進んでいた。
△3四歩
*朝の2人の入室は早く、開始10分前には駒を並べ終えていた。永瀬は開始時に羽織っていた上着を脱ぎ、半袖のワイシャツ姿になっている。
▲6六歩
*角道を止めた。振り飛車だけでなく雁木模様にもシフトできる布陣でまだ正体が見えない。永瀬は現在でこそ居飛車を主力にしているが、デビュー当時は生粋の振り飛車党だった。
△8五歩
*竜王戦は読売新聞社が主催する棋戦。特別協賛は野村ホールディングス、協賛は東急グループ、株式会社UACJ、旭化成ホームズ株式会社、あんしん財団。1987年、十段戦を発展的に解消して設立された。優勝賞金は棋界最高の4,400万円。十段戦の前身となる九段戦を含めると1950年から続いており、長い歴史を持つ。6組に分かれてトーナメント戦を行い、各組の上位11名による決勝トーナメントで挑戦権を争う。七番勝負の勝者が竜王のタイトルを得る。
▲7七角 △1四歩 ▲7八飛
*永瀬の作戦は先手三間飛車。最近は見ていないだけに驚きの選択といえる。控室も騒然となった。手元のデータベースで角道を止めた先手三間飛車を調べると、2010年の竜王戦6組昇級者決定戦、熊坂学四段(当時)戦が見つかった。当時は永瀬も四段。久しぶりに抜いた伝家の宝刀、切れ味やいかに。
*
*※解説※
*村田智弘七段>滅多に指さない振り飛車を採用。
△4二玉 ▲4八玉
*本局の模様はABEMAで中継。解説は飯島栄治八段、黒沢怜生六段、石田直裕五段。聞き手は竹部さゆり女流四段、飯野愛女流初段が担当する。
△6二銀 ▲6八銀
*永瀬の今年度成績は10勝4敗(0.714)。
*勝数はランキング15位タイ。現在4連勝中。
*通算成績は404勝161敗(0.715)。
△3二玉
*藤井の今年度成績は19勝4敗(0.826)。
*対局数、勝数はランキング1位、勝率は5位。
*通算成績は232勝44敗(0.841)。
▲3八玉
*永瀬の竜王戦成績は54勝17敗(0.761)。初出場は第23期。第24期から第26期にかけて6組優勝、5組優勝、4組優勝と3期連続ランキング戦優勝を成し遂げた。第29期に3組優勝(2組昇級)、第30期に1組昇級。今期は1組ランキング戦で澤田真吾七段、羽生善治九段、稲葉陽八段、久保利明九段を破って初の1組優勝を決めた。
△5二金右
*藤井の竜王戦成績は30勝4敗(0.882)。初出場の第30期から今期にかけて、6組優勝、5組優勝、4組優勝、3組優勝、2組優勝と史上初となる5期連続ランキング戦優勝の偉業を達成している。今期の2組ランキング戦では阿久津主税八段、広瀬章人八段、松尾歩八段、八代弥七段に勝って2組優勝を果たした。
▲5六歩 △3三角
*角を上がる形は持久戦志向。長年、振り飛車の天敵になってきたのは穴熊だが、本局は△1四歩が不急の一手になっているのでやや選びにくい面はある。
▲5七銀
*銀を5筋にこうして使えるのが三間飛車の利点で、四間飛車にはない特徴だ。すべての金銀を玉側に集めやすいので、持久戦に向いている。一方で角頭が手薄になるため、急戦系の対応には工夫が必要になる。
△5四歩 ▲3六歩
*早々に3筋の歩を突く形は現代的。美濃囲いを見慣れているとぎょっとするが、▲3七桂~▲2九玉でトーチカ調の囲いにする選択肢がある。
△4四歩
*4筋の歩を突いて角頭に備える空間を作る。手元のデータベースには同一局面の実戦例が1局ある。2020年8月に指された第79期順位戦B級1組の▲久保利明九段-△丸山忠久九段戦だ。ここから▲4六歩△4三金▲3七桂△5三銀▲5八金左△7四歩▲2八銀△4二銀上▲2九玉△6四銀▲6五歩△8六歩▲同歩△6五銀▲4五歩と進み、互いに囲いが万全とはいえないまま本格的な戦いに入った。結果は先手勝ち。
▲4六歩
*控室に入ってきた上村五段は「先手番でこの戦型は予想できませんでした」と話している。普段は居飛車を指していても、後手番では変化球として振り飛車で対応する考え方は昔からあった。主導権を握りやすい先手番で振り飛車を目指す作戦には意表を突かれる。
△4三金 ▲5八金左
*前例は▲3七桂だったが、桂跳ねを保留して左金を守りにつけた。美濃囲い、トーチカ、穴熊と選択肢を残して手広い。上村五段は「早めに▲4六歩を突くのは珍しい気がします」と話す。4筋の歩を突くのはあとまわしにして陣形整備を進める流れをよく見かけるという。例えば▲6八角と引いた形では、▲4六歩と突いていないほうが遠くまで角の利きを使いやすい。
△7四歩
*11時8分の着手。手薄な角頭に狙いをつけ、桂の活用を見て攻めの態勢作りには欠かせない。序盤は攻めと守りの手をバランスよく指すのが大事なところ。先手は流行に沿って玉形整備を進めるなら▲3七桂~▲2八銀~▲2九玉~▲3九金のトーチカになる。相手が攻める姿勢を見せてきたので、手順の組み合わせは悩ましい。
▲2八玉
*玉を寄る。昔ながらの三間飛車では見慣れた形だが、最近の対抗形の傾向からするとやや意外だ。トーチカの囲い方ではなく、美濃囲いと穴熊を視野に入れている。桂跳ねを保留した意味づけとして穴熊を含みにする流れは一理あるが、具体的にどの手に反応したのかという推測は難しい。新しい序盤だけに定跡化が進んでいない。「一手一手に駆け引きがありますね」と上村五段は見る。
△2二玉
*互いにじりじりと玉を囲う。先手が守りの桂を活用する攻撃的な姿勢を見せていないので、穴熊を目指しやすくなっている。「穴熊を牽制するなら▲3七桂ですが、△1二香▲2五桂△4二角はちょっと無理なんでしょうね」と上村五段。「ただ、▲3八銀と美濃囲いに組むのもつまらないので、穴熊になるんでしょうか」。相穴熊になった際、三段目に金を上がっている居飛車側が囲いを固めにくいという着眼点はある。
*12時、永瀬が14分使って昼食休憩に入った。消費時間は▲永瀬53分、△藤井51分。昼食の注文は永瀬が骨付き鶏もも肉のガーリックローストセットとホットコーヒー(アンフォラ)、藤井が豚しゃぶバンバンジー弁当(鳩やぐら)。対局は12時40分に再開される。
▲1八香
*12時40分、対局再開。香を上がった。穴熊を目指す動きだ。
△1二香
*後手も穴熊を目指す。これは相穴熊のじっくりした戦いになりそうだ。類似の実戦として、△7四歩を△3二金に振り替えた形では、今月5日に指されたお~いお茶杯第63期王位戦予選の▲竹内雄悟五段-△斎藤慎太郎八段戦がある。結果は千日手。先手としては打開ができず作戦失敗といえるが、本局はどうなるか。永瀬は千日手の多い棋士としても知られる。
▲1九玉 △1一玉 ▲2八銀 △2二銀 ▲4八銀
*左銀を引いて囲いに近づける。最終形としては▲3九金~▲3七銀左~▲4八金寄~▲3八金寄の四枚穴熊が目標になる。ただ、実際は自陣の隙との兼ね合いがあるため、一直線に組めるかどうかは難しい。金銀が偏ると、例えば△2四角という揺さぶりも気になってくる。
*
*※解説※
*村田智弘七段>趣向を見せる。普通は▲3九金が多い。
△5一銀 ▲3九銀左
*するすると左銀を引きつけた。これは珍しい囲い方だ。囲いの基本は「銀が上、金が下」で、その逆が好形になるケースは少ない。
△4二銀
*同じように金銀を囲いに集めていく。一段目にいる金の動きを保留することで、△3二金~△3一銀右と固めるか、△3一金と1手で引き締めるか、どちらの含みも残している。
▲5九角
*角を引いて飛車の利きを通した。次は▲7五歩△同歩▲同飛のさばきと、▲3七角~▲4五歩の2つの狙いがある。なるほど、角を転換して使うための▲3九銀左だった。気になる点としては、角の利きがそれたので△8六歩▲同歩△4五歩という仕掛けが生じていること。以下▲同歩△6六角▲7七角△同角成▲同飛△8六飛▲8七歩△8五飛は飛車の身軽さに差があって後手に不満がない。8筋の歩を突き捨てておけば、▲3七角には△8六飛で切り返せるので強く戦える。「ありますね、なるほど」と上村五段。仕掛けるか、見送るか。大きな分岐点だけに長考になりそうだ。
*藤井の考慮中に14時になった。時間は40分以上使っている。対局室に永瀬の姿はなく、藤井が脇息にもたれながら体を前後に揺らして盤面に集中している。
*
*※解説※
*村田智弘七段>△4二角ができないタイミングで攻めを狙う積極的な一手。
△8六歩
*14時2分、藤井が着手。「開戦は歩の突き捨てから」という。積極的に動いた。機敏な仕掛けなのか、誘いの隙なのか。永瀬の対応に注目したい。
*控室にはABEMAに出演する飯島栄治八段が訪れている。飯島八段は上村五段と同じく読売新聞朝刊の観戦記を執筆しているほか、2人で夕刊の『竜王戦見聞録』を担当している。
*
*※解説※
*村田智弘七段>当然の切り返し。簡単に▲7五歩を許すわけにはいかない。
▲同 歩 △4五歩
*弾みをつけてから角道を開けて決戦だ。居飛車穴熊の常套手段。このシンプルな仕掛けが成立してしまうと振り飛車は悔しい。
▲5七金
*金の力で受け止めにかかる。6筋から手が離せないので△4六歩の取り込みは見えているが、▲3八金でいったん辛抱してどうか。控室で飯島八段が予想していた手で、上村五段が「すごくないですか」と感嘆した。
△4六歩
*ずんずん歩が前進。しかもすぐには取り返されないのだから気分がいい。このままなら△4七歩成▲同金△6六角とさばく筋もある。
▲3八金
*陣形を引き締めながら4筋を支えて辛抱する。手の流れは苦しくても、次に▲7五歩△同歩▲同飛とさばく楽しみがある。ところが、控室の継ぎ盤は△3一金を示して止まっている。以下▲7五歩△同歩▲同飛には△8三飛が狙いの切り返しで、▲7一飛成△7三飛▲8一竜△7九飛成とほぼ互角のさばきになれば玉形の差が出るという主張だ。
*
*※解説※
*村田智弘七段>これでバランスが取れていると見たのだろう。一見後手の調子がよさそうなので、驚きの大局観だ。
△6四歩
*14時50分の着手。角の利きを生かして6筋を狙った。腰の入った攻めだが、やや重い印象もある。懸案の▲7五歩には△6五歩▲7四歩△6六歩▲7三歩成△7七歩と対応してどうか。以下▲7七同飛なら△8六飛と走れるし、▲7七同角なら△7三桂が幸便になる。7筋が無防備なように見えて、歩が切れると△7七歩が生じる点が狙い目だ。
▲7五歩
*狙い筋を決行。迎え撃つ策は見えているが、手が出せなくては楽しみがない。後手は基本的に7筋の歩が切れた形で△7七歩を用意して切り返すことになる。例えば△6五歩▲7四歩△7七歩、△6五歩▲7四歩△6六歩▲7三歩成△7七歩といった要領だ。ほかには△6五歩▲7四歩△8三飛と飛車を浮いて受ける案もある。どの変化でも飛車交換に持ち込む権利を先手が持っているので後手は浮き駒の金が気になるが、先手も角が負担になっているため条件としてはほぼ五分といえる。控室では攻め合いの一例として△6五歩▲7四歩△7七歩▲同飛△8六飛▲8七歩△7六歩▲8六歩△7七歩成▲7一飛△3二金▲7七角を調べたが、以下△7九飛は▲8一飛成△8九飛成▲2五桂、△6六歩も▲8一飛成△6七歩成▲3三角成△同金寄▲4六金で後手大変だという。この変化で思わしい順がないと、△7七歩のタイミングをずらす、△8三飛で受けるといった別案を掘り下げることになる。
*
*※解説※
*村田智弘七段>4六歩の存在が嫌な感じだが、▲7五歩も厳しく難解な形勢だ。
△6五歩
*15時58分、藤井が着手。6筋の歩を突いた以上は伸ばすのが継続手になる。
▲7四歩 △7七歩
*焦点の歩で切り返す。7筋の歩が切れた直後、組み合わせとしてはシンプルだ。控室の検討では、▲7七同飛△8六飛▲8七歩△7六歩▲8六歩△7七歩成▲7一飛と飛車を取り合う変化は先手が面白いという結論になっていた。藤井の読みはどうか。
▲同 角
*16時39分、永瀬が着手。飛車ではなく角で応じた。飛車の取り合いになる変化が消えるため穏やかだが、△6六歩▲同金で金が玉の守りから離れていくため一長一短がある。
△6六歩 ▲同 金
*金を使って柔軟に受ける姿勢は振り飛車らしい感覚といえる。形は歪んでも、局面が収まれば歩得が残る。強攻するなら△7六歩だが、▲同金△7七角成▲同金で手になるかどうかは不安がある。控室では△6二飛、△3一金が検討されている。前者は金取りを受けさせて細かくポイントを稼ぐ狙いがあり、後者は陣形を引き締めて△6六角▲同角△8六飛の強襲を視野に入れる。
*17時6分、藤井が25分ほど使っている。さわやかに仕掛けたが、大駒と歩だけの攻めなのでさばけないと急所に手が届かない。
△3一金
*陣形を引き締める。どこかで指しておきたかった手だ。これで△6六角▲同角△8六飛の強襲に出やすくなる。角切りは思いきった攻めだが、このままの形なら△6七金の筋があるのも追い風だ。よって控室では▲4八飛が有力案として調べられている。飛車が目標になりにくく、▲4六飛を見て攻防に働く位置取りになる。こうして備えられると一気に攻める順は難しいため、△6二飛▲6五歩△7二飛といった細かい揺さぶりで対抗することになりそうだ。「急がば回れ」で、以下▲4六飛△7四飛は次に△8八歩が確実な攻めになる。先手は目障りな4筋の拠点を払いたい。後手は拠点を失う前に手を作りたい。じりじりした中盤戦になった。
*18時、永瀬が47分使って夕食休憩に入った。消費時間は▲永瀬3時間21分、△藤井3時間27分。夕食の注文は永瀬が肉豆腐キムチ弁当と納豆オムレツのキムチ入り単品(鳩やぐら)。藤井がハッシュドビーフと半熟卵(Le Carre)。鳩やぐらの肉豆腐は具にきのこか糸こんにゃくを選べる。永瀬はきのこを指定した。対局は18時40分に再開される。
*
*
*※解説※
*村田智弘七段>戦い前の準備で重要な一手。
▲4八飛
*18時40分、対局再開。本命視されていた飛車回りだ。危険地帯から離れつつ、次に無条件で▲4六飛と拠点を払えれば大きなポイントになる。
△6二飛
*飛車のフットワークで金を狙って揺さぶりをかける。上から受ける▲6五歩か、下から受ける▲6七歩か。どちらも一長一短があって悩ましい。
▲6五歩
*上から受ける▲6五歩を選択。飛車を利きを遮断している。
*
*※解説※
*村田智弘七段>ここで△6四歩▲同歩△同飛▲6五歩△7四飛という筋が利けばいいが、△6四歩に対して、▲4四歩がある。以下△4四同金は▲7五金で動きづらく、△4四同角は▲4六飛で▲4四飛△同金▲7一角の狙いがあり面白くない。
△7二飛
*歩を打たせて今度は7筋に。次に△7四飛と歩を払えば、どこかで△7三桂の活用も利くようになる。
▲4四歩
*焦点のたたきで対応を尋ねる。角で取る△4四同角は当たりが強くなって△2四角ののぞきも消えるため、▲4六飛と走りやすくなる。金で取る△4四同金は角の利きが止まるので▲6四歩△7四飛▲6三歩成という攻め筋が生じる。前者は△4四同角▲4六飛△7四飛▲7六歩△7三飛が一例で、互いに隙を見せないように立ち回る渋い展開が予想される。後者は△4四同金▲6四歩△7四飛▲6三歩成△7七飛成▲同桂△5七角▲5二と△6六角成▲4二と△同角と激しい戦いに進む可能性もある。
△同 角
*角で応じた。先手としては歩を捨てて形を乱す効果を得た。どこかで△3三角と引いても再度▲4四歩が利く点は見逃せない。
▲4六飛 △7四飛 ▲7五歩
*飛車の直射を止めておく。控えて打つ▲7六歩とは一長一短で、こちらは▲7五金の余地はない。本譜は飛車当たりなのでどこに逃げるかだが、△8四飛は▲4四飛△同金▲6二角で飛び上がる。縦に逃げるなら▲6四歩~▲6三歩成に備える△7三飛がバランスの取れた位置だ。
△9四飛
*僻地に逃げる△9四飛はハッとする。あえて働きの悪い位置に逃げたようにも見えるが、四段目に横利きを残して頑張っている。気になるのは▲9六歩だが、△3三角▲4四歩△同金で両取りの筋を避けることができる。
*藤井は残り1時間を切った。19時45分、永瀬は残り1時間20分ほどで両者ともずいぶんと時間を使った。しかし、中盤戦が長く続いていてなかなか終盤に入る気配がない。
▲9六歩
*19時55分の着手。飛車を圧迫して次に▲9五歩△8四飛▲4四飛△同金▲6二角を見ている。
△3三角
*ふわりと引いた。飛車を切られないように逃げることで、▲9五歩に△8四飛の逃げ場所を用意している。再び角を誘う▲4四歩には△同金で問題ない。控室では「いい感じの手だ」と評判がいい。なおも飛車の捕獲を狙う▲8五歩は△7三桂▲9五歩△8五桂で切り返せる。角を引いたことで△2四角の筋が復活したことは先手にとって不安材料だ。
▲8五歩
*飛車を圧迫して追いかける。次はもちろん▲9五歩だ。しかし、△7三桂~△8五桂と足場として利用される恐れもある。
△7六歩
*※解説※
*村田智弘七段>△7三桂も有力だった。
▲同 金 △5五歩
*金を中央から引き離して飛車の横利きを開く。素直に▲5五同歩は△2四角▲4七飛△5六歩でいいように指されてしまう。
▲6六金
*離れた金を中央に呼び戻す筋の一着。ただ、再度の△7六歩が見えているので怖い。
△7六歩
*8筋から滑らせるようにして歩を打った。素直に▲7六同金は1歩で1手を稼がれてしまう。しかし角をどこに逃げても浮き駒が増えるので、△4五歩▲同飛△4四飛の決戦策に弱くなる。
▲6八角
*角を逃げて辛抱。後手からは△4五歩、△5六歩と気分のいい手が複数ある。
△5六歩
*角のラインが強烈だ。金が動けないので▲5六同飛と取るよりない。
▲同 飛 △5四飛
*陣形の差を生かして飛車をぶつける。飛車交換は後手に分があるので▲5五歩と拒否するのが自然だ。以下△4四飛にも▲4六歩で辛抱する。ただ、手番を渡すと△8八歩といった確実な攻めが間に合ってしまう恐れがある。
▲5五歩 △4四飛
*飛車交換は回避したが、次は△4九飛成を狙われている。一難去ってまた一難。
▲4五歩
*連打で手番を握りにいった。ここから△4五同飛▲4六歩△4四飛▲3七桂と進めて飛車に▲4五歩までの「詰めろ」がかかる。
△同 飛 ▲4六歩 △4四飛 ▲3七桂
*次に▲4五歩と突けば飛車を捕獲できる。守りの桂を跳ねて玉が薄くなっているので覚悟のいる手だ。ここで△2四角は離れ駒に目をつけたうまい対応に見えるが、▲4五歩△6八角成▲4四歩△同金▲4八飛と露骨に駒得を狙ってくる順があって容易ではない。
*
*※解説※
*村田智弘七段>囲いは弱体化するが、勝負手を放つ。相手をいかにさばかせないかが勝負となっている。
△3五歩
*飛車の横利きを通して退路を確保した。
▲4五歩 △2四飛
*狭い四段目で逃げ回る。手番が回れば△8八歩が確実な攻めだが、その余裕を得られるかどうか。
*
*※解説※
*村田智弘七段>△3四飛▲3五歩△2四角もあった。以下▲3六飛には△3二飛から△3四歩を狙って面白そうだった。
▲3五歩
*じっと歩を取り込む。狙いは▲2六歩~▲2五歩の一本釣りだ。五段目に並んだ歩の圧力がすさまじい。いつの間にか後手が忙しい状況に追い込まれている。
△5四歩
*21時21分の着手。5筋をこじ開けて打開を目指す。
▲同 歩
*堂々と応じた。これは△6六角▲同飛△5四飛の強攻がある。以下▲5五歩△同飛▲5六歩△5四飛と進むと、次に△3六歩で桂を攻める筋が残る。
△8八歩
*歩を自陣に近づけてからそっぽを攻める順はなかなか浮かばない。ただ、5筋に飛車の逃げ場所を作ったので▲2六歩~▲2五歩の捕獲筋は消えている。忙しい状況を解消して確実な攻めを間に合わせるという流れは理にかなっている。
▲9七桂
*逃げて簡単には駒を渡さない。
△8九歩成
*着実な攻め。駒得が見込める形になった。
▲2六歩 △6六角
*ギアを上げて踏み込む。角金交換の駒損でも、▲6六同飛△5四飛▲5五歩△同飛▲5六歩△5四飛で次に△3六歩が残る。
▲同 飛 △5四飛
*飛車が生還して懸念材料が減った。現状は堅さの差が大きい。後手玉が鉄壁なので、少しずつでも先手玉を薄くしていけばペースを握れる。
▲5五歩 △同 飛 ▲5六歩 △5一飛
*下段に引いて当たりを弱めておく。守りにも貢献して後手玉が堅い。
▲4六角
*働きの弱い角を活用する。懸案の△3六歩に備えてもいて攻防だ。次に▲9一角成として馬が受けに利く形になれば頑張りやすさが大きく変わってくる。
△5五歩
*馬を作らせない対応。攻めに目が向きそうな状況で気配りが細かい。次はじっくり△3六歩から駒を取っていけばいい。
*
*※解説※
*村田智弘七段>ここで▲4四歩はあったかもしれない。以下△同金▲6二角△5四飛▲4五歩△4三金▲5五歩△5二飛▲7一角成となれば先手も面白い。
▲同 角
*角の利きを通したままにするため突っ張った。だが、△5五同飛で後手は手駒の大きな戦力増強になる。
△同 飛
*※解説※
*村田智弘七段>駒がさばけ、陣形の差で後手が勝ちやすい展開となった。
▲同 歩
*駒台の戦力は十分、どこから手をつけるか。手筋は△5七歩や△5八歩で、と金攻めは非常に速い。
△9九と
*慌てずに駒を増やしておく。両者残り時間がわずかという状況でようやく終盤戦が見えてきた。
▲6一飛
*飛車を下ろしてファイティングポーズ。後手玉が鉄壁のままでは一方的に攻められてしまう。次は▲8一飛成~▲3四桂で地道に守り駒を削っていく。
△8八角
*再びそっぽ。なかなか攻めが先手玉に近づかない。飛車と桂の両取りで確実な攻めではある。駒を増やしておけば攻めが切れる心配は減る。
▲5六飛 △4八歩
*歩の小技。次の△4九歩成は許せないので払うことになるが、金と銀どちらで取っても形が乱れる。
▲同 銀
*銀で取る。金を浮き駒にして後手がポイントを稼いだ。
△9七角成
*じわじわと遠巻きに迫る。次は△7五馬が絶好だ。
▲4四歩 △同 金 ▲7一角
*金に狙いをつけて攻め合う。攻防手なら▲6四角は一案だった。
△4三香
*金にヒモをつけつつ、間接的に敵陣をにらんで力をためた。
▲4五歩 △同 金 ▲同 桂 △同 香
*後手陣の金を1枚はがしたが、先手陣も桂を失った。後手玉はまだまだ堅い。現状は香が利いてきて受ける必要があるため、実質的に手番を握られているのは痛い。
▲4六歩 △3六桂
*22時35分、ついに先手玉を守る金銀に手が届いた。
▲4七銀 △4八金
*代えて△2八桂成は▲同玉で広い場所に逃げてくる。玉を狭い場所に押さえ込んだまま仕留められればうまい。
▲3七金打
*金を埋めて抵抗。ここから△3八金▲同金△4八金▲3七金打……と進めば千日手模様になる。
△3八金 ▲同 金
*123手目と同一局面。2回目だ。4回目で千日手が成立する。
△4八金 ▲3七金打 △2八桂成
*銀を取った。決断の打開。
▲同 玉 △3八金
*清算して守り駒を削る。自玉に余裕があるうちに△7五馬を起点にして寄せの構図を描きたい。
▲同 金 △3六歩
*手がかりが減ったので地道に増やす。安い駒から使っていくのは無難な方針といえる。素直に▲3六同銀は金銀の連結が切れて守りが弱体化する。
▲同 銀
*拠点を残さない。永瀬はこの手の考慮中に一分将棋に入った。
△7五馬
*端でくすぶっていた馬が絶好の位置についた。次は△2四桂や△4九銀で守りの金銀を狙っていけば自然に攻めが続く。
*
*※解説※
*村田智弘七段>待望の一手が実現した。
▲4七金打
*金を投入して抵抗。藤井も一分将棋に入った。
*
*※解説※
*村田智弘七段>容易には崩れない、鍛えの入った一手。
△5二銀
*敵陣ではなく自陣に銀。大駒を狙って自玉を安全にする戦い方だ。振り飛車が得意にする寝技を思わせる。
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*※解説※
*村田智弘七段>一分将棋に入ったことにより、攻め合いになりそうな△2四桂や△4九銀は選びにくかった。
▲6四飛成 △同 馬 ▲同 歩 △2四桂
*飛車を消してより安全にしてから、拠点になる駒を打って先手玉に迫る。
▲4五歩
*銀を逃げなかった。盤上から攻め駒が消えたほうがさっぱりして受けやすいという見方もできる。
△6五金
*安易に清算せず、攻め駒を増やして包囲網を狭めていく。
▲5九飛
*飛車を目標にしながらの攻めは効率がいい。ここから△3六桂▲同金△5六飛と守り駒を減らしながら攻めが続く。
△3六桂 ▲同 金 △7八飛
*浮き駒を狙って押しつける△5六飛ではなく、平凡に△7八飛と側面から迫った。次は△4七銀が厳しい。受けに駒を足しても△4七歩と歩で数が足せるので非常にやっかいだ。
▲2七玉
*飛車のにらみから逃げて頑張る。だが、これにも△4七歩がきつい。
△4七歩
*痛打。歩の攻めは切れない。
▲4九香
*数を足して懸命の受け。しかし後手玉が手つかずでめまいがする。後手は攻めが続く形さえ意識すればいい。
△5八銀 ▲9九飛
*端によろける。しかし△8八飛成で飛車の逃げ場がない。
△8八飛成
*※解説※
*村田智弘七段>飛車を捕獲してはっきりしてきた。
▲3四桂
*受けがないので攻め合う。少しでも後手玉を薄くして重圧をかけたい。
△9九龍
*飛車を取って寄せが一歩前進。次は△4九銀不成が詰めろで入りそうだ。
▲2二桂成 △同 金
*永瀬は額を押さえる。
▲3四桂
*おかわりの桂打ち。しかし後手玉が詰めろになっていない。
△4九銀不成
*先手玉は△3八銀不成▲同玉△4八飛以下の詰めろ。
▲3九金
*受けて辛抱する。
△4八歩成
*銀が1枚増えても後手玉は詰めろにならない。よって▲4九金は△同竜で受けがなくなる。
▲2二桂成 △同 玉 ▲4八金 △2九飛
*厳しい王手。合駒を出さず▲3七玉は△3九飛成と追いかけられて困る。
▲2八銀 △8八龍
*銀合いなので落ち着いて詰めろをかけられる。先手玉は△2八飛成▲同玉△4八竜以下の詰めろ。
▲3九金 △2八飛成 ▲同 玉
*後手玉は桂さえ渡さなければすぐに危険が及ぶことはない。竜のにらみを生かして△4七歩で十分に間に合う。
△4七歩 ▲4四角成
*永瀬は着手して横を向き、扇子ではたはたとあおぐ。
△3三歩 ▲5四馬
*永瀬がペットボトルの水を飲む。後手玉は▲3二飛以下の詰めろ。しかし△4三銀打と受けて続かない。
△4三香
*銀を温存して香をバリケードに使った。これでも後手玉は寄りつかない。
▲6五馬
*金を取りながら馬を自陣に利かせて頑張る。
△4八歩成 ▲6六角 △3九と
*竜を外す▲8八角に、△3八金▲2七玉△2八金打▲1七玉△2七銀で受けがない。
▲8八角 △3八金
*藤井は体を小さく前後に揺らしている。永瀬はマスクをつけ、天を仰いだ。
▲2七玉
*永瀬は着手して上着を羽織る。
△2八金打
*藤井が駒台から金を手に取って打つ。秒を読まれた永瀬が頭を下げた。終局時刻は23時36分。消費時間は両者4時間59分。藤井が長手数の熱戦を制し、挑戦まであと1勝とした。第2局は8月30日(月)、東京・将棋会館で行われる。
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*※解説※
*村田智弘七段>△8六歩(40手目)から激しくなるかと思われたが、うまいしのぎで膠着状態になり、両者堅陣に囲いながらも、先手は押さえ込みに、後手は切り込んでいこうとする構図となった。一手一手が重く、そして隙を見せない攻防、中盤での後手の飛車を巡る攻防など見どころがとても多い素晴らしい将棋だった。△5五同飛(104手目)で飛車がさばけたあたりで藤井王位・棋聖が抜け出したかと思われたが、永瀬王座の粘りもすさまじく、大変見応えのある大激戦だった。次局も大変楽しみな対局となりそうだ。
まで184手で後手の勝ち

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