開始日時:2022/02/11 09:00
終了日時:2022/02/12 18:23
表題:第71期ALSOK杯王将戦七番勝負第4局
棋戦:王将戦
戦型:矢倉
持ち時間:各8時間
消費時間:114▲475△444
場所:立川市・ソラノホテル
備考:昼休前62手目11分\n2日目昼休前82手目10分\n封じ手時刻:18:00<72手目>
先手:渡辺明王将
後手:藤井聡太竜王
*渡辺明王将に藤井聡太竜王が挑戦する第71期ALSOK杯王将戦七番勝負は、藤井の3勝0敗で第4局を迎えた。渡辺がカド番をしのぐか、藤井が勢いそのままに王将位を奪取するか。
*対局は2月11日(金・祝)から12日(土)にかけて、東京都立川市「SORANO HOTEL」で行われる。本局の先手番は渡辺。持ち時間は各8時間。対局開始は9時、昼食休憩は両日とも12時30分から13時30分まで。1日目の18時を過ぎた時点で手番の棋士が次の一手を封じ、2日目9時から指し継がれる。
*立会人は中村修九段、副立会人は佐々木慎七段、記録係は鈴木麗音初段(田中寅彦九段門下)、観戦記は関口武史指導棋士五段がそれぞれ務める。
*1日目の朝を迎えた。昨日から降り続いていた雪は、すっかりやんでいる。対局場の付近では自転車に乗っている人の姿もあった。
*8時46分、藤井入室。着座すると、除菌シートで丹念に手指を消毒していた。
*8時49分、渡辺も姿を見せた。懐中時計を手元に置き、鎖をケースに沿ってぐるぐると巻きつける。ややあって渡辺が一礼し、駒箱に手を伸ばして対局準備が進められた。
*
*【主催:スポーツニッポン新聞社】
*【主催:毎日新聞社】
*【特別協賛:ALSOK】
*【協賛:囲碁将棋チャンネル】
*【協賛:立飛ホールディングス】
*【協賛:inゼリー】
▲7六歩
*◆渡辺 明(わたなべ あきら)王将(名人・棋王)◆
*1984年4月23日生まれ、東京都葛飾区出身。所司和晴七段門下。2000年、四段。2005年、九段。棋士番号は235。
*タイトル戦登場は41回。獲得は竜王11期(永世竜王)、名人2期、王座1期、棋王9期(永世棋王)、王将5期、棋聖1期の計29期。棋戦優勝は11回。
△8四歩
*◆藤井 聡太(ふじい そうた)竜王(王位・叡王・棋聖)◆
*2002年7月19日生まれ、愛知県瀬戸市出身。杉本昌隆八段門下。2016年、四段。2021年、九段。棋士番号は307。
*タイトル戦登場は7回。獲得は竜王1期、王位2期、叡王1期、棋聖2期の計6期。棋戦優勝は5回。
▲6八銀
*渡辺の今年度成績は19勝16敗(0.543)。
*昨年度成績は26勝15敗(0.634)。
*通算成績は702勝362敗(0.660)。
△3四歩
*藤井の今年度成績は50勝12敗(0.806)。
*対局数、勝数、連勝(19連勝)の3部門でランキング1位。
*昨年度成績は44勝8敗(0.846)。
*通算成績は263勝52敗(0.835)。
▲7七銀
*両者の対戦成績は藤井11勝、渡辺2勝。今期七番勝負は第1局と第3局が藤井先手で相掛かり、第2局が渡辺先手で角換わりだった。本局は今シリーズ初の矢倉模様となったが、副立会人の佐々木慎七段、記録係の鈴木初段も本命に挙げていた戦型だった。
△7四歩
*中村修九段は「やはり普通の矢倉ではないよね」とポツリ。近年の矢倉はガップリ四つに組み合うのではなく、後手側が急戦含みで駒組みすることが増えてきた。角道が開いている優位性を生かす意味では、理にかなっている。
▲2六歩
*王将戦はスポーツニッポン新聞社と毎日新聞社が主催する棋戦(特別協賛:ALSOK、協賛:株式会社囲碁将棋チャンネル、株式会社立飛ホールディングス、inゼリー)。棋戦参加者は全棋士。一次予選、二次予選でトーナメントが行われ、それを勝ち抜いた棋士とシード棋士4人によって挑戦者決定リーグ戦が行われる。リーグ戦で同率首位の棋士が複数出た場合は、原則として順位上位2人の棋士によるプレーオフとなる。王将とリーグ優勝者は、例年1月から3月にかけて七番勝負が開催される。
*2021年4月から綜合警備保障株式会社のコーポレートブランド、「ALSOK」が特別協賛に加わり、「ALSOK杯王将戦」の棋戦名で行っている。今期七番勝負からは、inゼリーが協賛に加わった。
△7二銀
*渡辺の王将戦成績は66勝46敗(0.589)。初参加は第51期(2001年度)で、王将獲得は計5期(第62期~第63期、第68期~第70期)。今期の七番勝負では4連覇が懸かる。
▲2五歩
*藤井の王将戦成績は30勝8敗(0.789)。初参加は第67期(2017年度)。前期の挑戦者決定リーグでは陥落という結果だったが、今期は二次予選から勝ち上がって挑戦権を獲得した。
△3二金
*対局2日目の12日(土)は、オンライン大盤解説会がライブ配信。
▲7八金
*本局の模様は、テレビ放送の囲碁・将棋チャンネル(J:COM、ケーブルTV、スカパー!、ひかりTV)と、インターネットサイトの囲碁将棋プレミアム(要会員登録・有料)で生中継される。
*
*【第71期 ALSOK杯王将戦 七番勝負|囲碁・将棋チャンネル】
*
*<1日目>
*配信開始:08:40~封じ手まで
*解説者:中村太地七段
*聞き手:和田あき女流初段
*【七番勝負第4局1日目|囲碁将棋プレミアム】
*
*<2日目>
*日 時:08:40~対局終了まで
*解説者:深浦康市九段
*聞き手:矢内理絵子女流五段
*【七番勝負第4局2日目|囲碁将棋プレミアム】
△6四歩
*藤井が本局に勝ってシリーズを制した場合、王将位を最年少で獲得するとともに、19歳6カ月で史上4人目となる五冠が誕生する。これは羽生善治九段が持つ最年少五冠達成の記録を22歳10カ月から19歳6カ月に塗り替えることになる。歴代の五冠達成者は大山康晴十五世名人、中原誠十六世名人、羽生九段。いずれも永世名人有資格者だ。
▲4八銀
*本日は建国記念の日。ちょうど1年前のこの日、両対局者は第14回朝日杯将棋オープン戦準決勝で盤を挟んでいた。その将棋は終盤戦で渡辺に一失があり、藤井が逆転勝ち。藤井は続く決勝で三浦弘行九段を破って3回目の朝日杯優勝を果たした。
△7三桂
*第4局は、本棋戦を協賛している立飛ホールディングスの地元、立川市で行われている。対局場の「SORANO HOTEL(ソラノホテル)」は立川駅から徒歩8分ほどの距離にあり、新宿駅からはJR中央線で約25分と利便性が高い。「SORANO HOTEL」のインテリアデザインは、世界的なデザイナーであるグエナエル・ニコラ氏が手がけた。印象的なのはエントランスやロビーの天井に施された三角形のルーバーで、これはテントをモチーフにしたもの。同氏は、銀座で最大規模となる複合商業施設「GINZA SIX(ギンザ シックス)」などのインテリアデザインも担当した。
▲7九角
*一見、奇異な角引きに映るが、代えて▲5六歩は将来的に△5四歩~△5五歩の仕掛けを誘発する恐れがあった。それを避けているのが本譜の駒組みだ。
△6三銀
*昨日は15時25分頃に対局検分が行われた。検分では使用する盤駒や、窓からの光の入り具合、騒音の有無など、対局環境に問題がないかを確認するタイトル戦の恒例行事だ。渡辺が昨年、同地で王将戦第4局を戦ったときは、午後になって西日が差し込んできたとのこと。本局では適宜、ブラインドを閉めて対応することになった。使用される駒は掬水師作、水無瀬書。検分は滞りなく進み、10分ほどで終了した。その後、両対局者は揮毫や主催紙のインタビューに応じた。
▲3六歩 △4二銀 ▲3七銀 △5四歩 ▲4六銀 △7二飛
*袖飛車に構えた。現局面で▲3五歩なら△同歩▲同銀に△7五歩のカウンターを用意している。以下▲同歩△7六歩▲8八銀△6五桂が一例で、先手に壁銀を強要しつつ、桂をさばくことができる。
▲5六歩 △4四歩 ▲5八金 △5二金 ▲6九玉
*手元のデータベースで現局面を調べると、3局の前例があった。いずれも後手勝ちという結果が目につく。そのうち1局は、2021年7月に行われた第92期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第3局の▲渡辺-△藤井戦。ここから△4三銀▲3五歩△7五歩と進んで攻め合いに突入している。
△4三銀
*藤井は39分使って、自身の前例を踏襲した。後手の陣形は金銀が並列する形から、ツノ銀雁木という呼び名がある。
▲3五歩
*10時30分になり、両対局者に1日目午前のおやつが用意された。メニューは渡辺が「ガトーショコラ、ホットコーヒー」、藤井が「苺大福餅、苺のソルベ、フェアトレードコーヒー(冷)」。スイーツはそれぞれの自室に、飲み物は対局室に運ばれる。
△7五歩
*駒がぶつかったタイミングで反撃。代えて△3五同歩は▲同銀で、次の▲2四歩△同歩▲同銀が受けづらい。
▲同 歩 △4五歩 ▲同 銀 △3五歩
*この手で前例は両者が指した1局に絞られた。
▲同 角 △7六歩 ▲8八銀
*この手で前例のない局面に。前述した▲渡辺-△藤井戦は、▲6六銀△6五歩▲2四歩△同歩▲同角という進行だった。敗れた側の渡辺が改良案を出してきた。
*
*■将棋プレミアム■
*中村太地七段>これが研究ですね。間違いなく。
△4一玉
*前例と別れを告げたばかりだが、藤井はわずか1分の考慮で玉を寄せた。着手後、席を立つ。
*
*■将棋プレミアム■
*中村太地七段>「私も研究してますよ」と。恐ろしいですね、この二人は。渡辺王将の自慢の研究で2時間止まってくれるかと思いきや、すぐ指すところが勝負師ですよね。いやあ、バチバチだ。
*
▲2四歩 △同 歩 ▲同 角 △2三歩 ▲4六角 △6五桂
*早い早い。一日制と勘違いしそうなスピードで指し手が進んでいる。時刻はまだ10時48分だ。
▲3七桂
*▲3七桂の最大の狙いは4五銀にヒモをつけること。△7五飛と走られると、6五桂が7七か5七に移動したときに△4五飛と銀を抜かれる筋が生じる。
△7五飛 ▲6八金右
*自玉右辺が寒い格好になるが、この手を怠ると△7七歩成▲同桂△同桂成▲同銀△同角成▲同金△同飛成で7筋を食い破られてしまうところだった。
△3三桂
*7筋の集中攻撃から一転して、先手の攻め駒に目を向けた。角道を自ら止めるので一長一短な面はあるが、銀や桂を調達できれば、7七にそれを打ち込む手が厳しい攻めになる。
*△3三桂は11時6分の着手。消費時間は、▲渡辺24分、△藤井1時間15分。
▲3六銀 △3四銀
*銀を向かい合わせた。次の△4五歩を見せて、▲3五歩を催促している。控室では中村修九段と佐々木慎七段が継ぎ盤で検討中。まだお互いに研究範囲だろうと話している。
▲3五歩 △4三銀
*▲3五歩と打たせて4六角の移動範囲を狭めたことで、次に△4五歩▲同桂△同桂▲同銀△7七歩成▲同桂△同桂成▲同銀△4五飛の狙いが生まれた。
▲5八金
*再び金を寄り、△4五歩に▲6八角の引き場所を用意した。先の△3三桂(48手目)により2二角の利きが閉ざされたので、7七の地点は左辺の金銀桂で守りきれる。
△7二飛
*いったん飛車を引いて態勢を立て直す。ここで▲6六歩には△7七歩成ではなく、△2五桂というトリッキーな手が成立する。以下(1)▲6五歩は△3七桂成▲同角△7七桂、△2五桂に(2)▲同飛は△6六角で、いずれも後手よしとなる。
▲6八角
*渡辺は、ここまで39分しか使っていない。佐々木慎七段は「今回は大量に時間を残して勝負しようとしていますね」と推測し、中村修九段もうなずいた。
△5五歩
*控室では、△1四歩▲7九玉の交換を入れてから△5五歩が検討されていた。以下は▲6六歩△7七桂成▲同桂△同歩成▲同銀△2四桂▲2六飛△7六歩▲8八銀△3六桂▲同飛が一例として並べられ、難解な形勢とされた。上記の△1四歩は将来の▲1五桂を防いだ意味。
▲6六歩
*素直に▲5五同歩は△5六歩と垂らされて駒損必至。放置しても△5六歩と取り込まれてしまうので、▲6六歩と突く一手だ。
△7七歩成 ▲同 桂 △同桂成 ▲同 銀
*12時18分の着手。
*この局面で藤井が11分使って1日目の昼食休憩に入った。消費時間は、▲渡辺46分、△藤井2時間10分。昼食注文は、渡辺が「鶏もも肉の炭火焼きの親子丼(サラダ抜き)」、藤井が「霜降り和牛の手捏ねハンバーグ(奥多摩山葵と玉ねぎの和風ソース)」。対局は13時30分から再開される。
*14時10分、対局再開から40分ほど経過したが、藤井は盤上を凝視して読みふけっている。まだ指す気配はない。一方の渡辺は窓のほうに目をやったり、うつむいたりとリラックスしている。
△4四桂
*昼食休憩を挟んで1時間4分の考慮で指された。3六銀が逃げれば△3六歩の桂頭攻めが厳しい。また、▲3四歩△同銀に▲4四桂を防いで「敵の打ちたいところに打て」の格言にも沿っている。
▲7四歩
*渡辺は銀を差し出す驚きの一着を放った。通常は▲2六飛△3六桂▲同飛と銀桂交換に持ち込んで被害を最小限に食い止めるところ。しかし、以下△7六歩と押さえられてしまう。それを避けようというのが本譜の▲7四歩だ。さかのぼって、それなら62手目に△7六歩と打てばよかったように見えるが、仮に▲8八銀△4四桂▲4五銀(▲2七銀)と進められたときに△3六歩と打つ1歩がないので話が変わってくる。
*佐々木慎七段は渡辺の時間の使い方から察するに、まだ研究範囲なのではないかと予想している。
*15時になり、1日目午後のおやつが出された。メニューは渡辺が「アップルマンゴーを贅沢につかったマンゴープリン(ブラックタピオカとクコの実入り)、フェアトレードコーヒー(温)」、藤井が「ブルーベリーとバナナのスムージー、アイスアールグレイティー(冷)」。
△3六桂 ▲2六飛
*現局面で△2八桂成(▲同飛なら△3六歩)には、▲2四歩△同歩▲2三歩△3一角▲3四歩△同銀に▲4四桂と金の両取りをかけてどうか。先手は金を入手すれば▲7三金と打ち込む手が生まれる。こういった攻め味があるので、63手目は7六ではなく、7四から歩を打った意味があった。
△6五歩
*15時45分の着手。
*△7四飛と走ったときに飛車の横利きが通るようにした。本譜の△6五歩に代えて△7四飛を急ぐと、以下▲7五歩△同飛▲3六飛で次の▲3四歩が受けにくい。ここまで早いペースで指し続けていた渡辺だが、長考に入った。
*将棋プレミアムで解説している中村太七段は、渡辺の研究範囲から外れたのではないかと予想している。将棋プレミアムのAIの評価値は渡辺にやや振れているが、研究段階では自身の形勢がよくなったあとの局面まで深く掘り下げないのが一般的だ。
*16時過ぎ、谷川浩司九段が現地控室を訪れた。谷川九段は昨年、同地で行われた王将戦七番勝負第4局で立会人を務めた。明日14時からは、オンライン大盤解説会の解説を務める。
▲3六飛
*渡辺は1時間23分の長考で桂を取った。駒割りは銀桂交換で先手の駒損だが、攻めに有用な桂を2枚手持ちにしている。
△7四飛 ▲3四桂
*露骨に桂を打ち込んだ。2二の角取りとともに、△2四飛の転回を封じている。▲3四歩と突けなくなるので重い攻めだが、部分的に佐々木慎七段が挙げていた手段でもある。本譜の▲3四桂では、▲7五歩△2四飛▲2五歩△同桂▲3四歩△同飛▲同飛という激しい展開になる可能性もあった。
△3一角 ▲2二歩
*▲3四桂からの継続手。▲2一歩成からのと金攻めに期待している。谷川九段、中村修九段、佐々木慎七段は、この局面で封じ手になるのではないかと予想している。本命は△7六歩で満場一致。佐々木慎七段は以下の一例として、▲2一歩成△5三角▲7六銀△同飛▲2二とを示した。
*17時44分、谷川九段は控室をあとにした。
*18時を回り、藤井が次の一手を封じる意思を示した。72手目の消費時間は32分。封じ手は別室に移動して書かれる。
*18時6分、封じ手の記入を終えた藤井が戻り、渡辺が封筒に赤いペンで署名。2通の封筒が中村修九段に預けられた。
*1日目の消費時間は▲渡辺2時間53分、△藤井4時間29分。対局は12日9時に再開される。
*2日目朝を迎えた。立川市の天気は晴れ。控室の窓外からは富士山を望むことができた。
*8時44分、藤井が先に対局室入り。渡辺は8時49分に入室した
*。少し間を置いてから渡辺が一礼し、駒箱に手を伸ばした。駒を並べ終えたあとは、鈴木初段の読み上げに沿って1日目の指し手が再現される。
*9時ちょうど、71手目の局面まで進んだ。中村修九段は「それでは封じ手を開封いたします」と発し、封筒を2通持って移動。「開封すると、封じ手は△7六歩です」と読み上げた。
△7六歩
*封じ手の△7六歩が指され、シャッター音が対局室に鳴り響く。関係者が退室したあと、藤井は羽織を脱いで丁寧な所作でたたむと、脇息の隣に置いた。
*局面が激しくなってきたということもあり、控室では早速、谷川九段と中村修九段が継ぎ盤を挟んで検討を始めた。佐々木慎七段も輪に加わって意見が交わされている。
▲2一歩成 △5三角
*佐々木慎七段が一例として挙げた手順に進んでいる。ここで▲7六銀以外にも、▲7五歩が考えられるという。以下(1)△7七歩成▲7四歩△7八と▲同玉△6六歩と進んだら「15時に終わるかも」と中村修九段。後手からすれば飛車を渡すのでリスクが高いようだが、△7五角~△6七銀が速い攻めになる。また、上記の▲7五歩に(2)△同飛なら▲8六銀と飛車取りにかわせるので、駒損を回避しつつ▲2二とを実現させることができる。
▲8八銀
*控室では本命視されていなかった銀引き。前述した▲7六銀や▲7五歩以外の手段で対応した。現局面では△4四銀▲2二と△4三金左として、と金攻めをいなす順が検討されている。以下▲2六飛なら△3六歩が佐々木慎七段の示した一着。この手の評判がいい。▲同飛は1歩で1手稼がれてしまうので、いきおい▲2三飛成としたいが、以下△3七歩成▲3二と△5一玉▲2一竜△6二玉と進むと後手玉の懐が意外に深い。
*谷川九段「(先手を持って)自信がなくなってきました。飛車を成っている場合ではないんですね」
△4四銀
*9時55分、藤井は控室の検討で有力とされていた△4四銀を指した。代えて△6六歩も大きな取り込みだが、▲2二とから▲3二とで金を取られたあとに、▲6五金が生じるデメリットがあった。
*10時30分になり、2日目午前のおやつが運ばれた。メニューは渡辺が「和栗とマダガスカル産バニラのモンブランプリン、フェアトレードコーヒー(温)」、藤井が「黒豆グリーンルイボスティー(冷)、フェアトレードコーヒー(冷)」。
▲2二と
*11時46分、長考に沈んでいた渡辺の手が伸びた。消費時間は▲渡辺4時間59分、△藤井5時間3分。これで残り時間は互いに3時間ほどになった。
△4三金左 ▲7五歩
*75手目のコメントに記したように、一直線の攻め合いは先手の分が悪い。自玉方面にテコ入れして緩急を織り交ぜる。対して(1)△7五同飛なら▲8六角と首尾よく角を活用できる。(2)△7五同角なら▲7七歩と合わせて拠点の歩を排除する展開が予想される。
△同 角 ▲7七歩
*12時19分の着手。
*と金を作って、さあ攻めようという場面で玉形の補修作業に取りかかった。派手さはないが、△7七同歩成▲同銀と拠点を解消できれば思いきった手段にも出やすくなる。
*昼食休憩の時刻になる少し前に、藤井が休憩に入れたようだ。その場合は休憩時刻までの時間を藤井の消費時間に加える。渡辺が真っ先に席を立ち、藤井は渡辺側のほうに回って盤面を眺めてから退室した。
*12時30分、この局面で藤井が10分使い、2日目の昼食休憩に入った。消費時間は、▲渡辺5時間0分、△藤井5時間43分。昼食メニューは、渡辺が「霜降り和牛の手捏ねハンバーグ(グレイビーソース)」、藤井が「国産牛のタンとほほ肉を柔らかく煮込んだハヤシライス、和栗とマダガスカル産バニラのモンブランプリン」。対局は13時30分から再開される。
△6六角
*代えて△6六歩は▲7六歩△5三角▲7七銀が一例で後手が芳しくなかった。6六に拠点を築くよりも、8八銀を活用させないことのほうが重要だ。
▲7六歩 △3九角成
*後手は手の流れに乗って馬を作ることに成功した。
▲8六角
*角が自由になったのは後手だけではない。敵玉をにらむ絶好の位置につけた。
△4九馬
*じわりと馬を寄せて5八金に働きかけた。△3四金▲同歩△6六桂といった寄せや、△2七馬と飛車を狙いにいく手も視野に入れている。局面はもう終盤戦だ。
*将棋プレミアムで解説中の深浦九段は、△4九馬に代えて△5一玉もあったが、それには▲7九玉の早逃げを警戒したのではないかと推測している。以下△4九馬▲6八金右△2七馬▲1六飛△同馬▲同歩△3九飛と進んだときに、▲6九歩の底歩が堅い。だが、△5一玉と▲7九玉の交換を入れずに△4九馬とすれば、上記の変化を避けることができる。深浦九段は「形勢は後手がいいような気がしてきましたね」と話している。
*
▲2六飛
*△2七馬を防ぎつつ、▲2三飛成の侵入を狙った。現局面で△3五銀▲2三飛成△3四飛と根こそぎ駒を取ってくるのは、▲同竜△同金▲3一飛でゲームセットとなる。
*14時40分頃、藤井は「この一手と残り時間を教えてください」と記録係に尋ると、鈴木初段が「この一手は19分と、残りは1時間50分です」と返した。
*14時50分頃、中村修九段はオンライン大盤解説会場に出演するため、控室をあとにした。
△5一玉
*自玉を安全地帯に近づけて、▲2三飛成の威力を緩和した。△3四金~△6六桂は、あとの楽しみに残しておく。
*15時になり、2日目午後のおやつが出された。メニューは渡辺が「フレッシュオレンジジュース、フェアトレードコーヒー(冷)」、藤井が「プレミアムぶどうジュース、アイスアールグレイティー」。
▲2九飛
*▲2三飛成や▲3二との攻め合いでは間に合わないと見て、馬取りに飛車を引いた。
*15時30分頃、対局室に西日が差し込んできたため、関係者がブラインドを下げて対応した。
△5八馬
*部分的には▲5八同玉で角金交換の駒損だが、攻めの手番を握りつつ、先手玉を危険地帯におびき寄せることができる。「終盤は駒の損得より速度」という格言もある。
▲同 玉 △3六歩
*△3六歩は15時51分の着手。
*後手は△6六桂と打ちたいが、藤井は3四ではなく3七の桂を狙いにいった。当然ながら△3四金としたほうが早く入手できる。しかし、本譜は後の△3七歩成が先手玉の逃げ道を狭める駒として働くため、遅いようでも確実な迫り方といえる。
*一方の先手は、現局面で仮に(1)▲2三飛成△3七歩成▲3二と△3四金▲同歩と進めると、△6六桂▲6七玉△5八銀▲7七玉△8五桂以下、詰まされてしまう。単純な攻めでは届かないので、先手は何かひねり出す必要がある。控室で検討されているのは、(2)▲6四歩。対して△同銀なら▲同角△同飛に▲7三角が王手飛車だ。
*16時38分、渡辺は残り1時間になった。
▲8三角
*飛車取りに角を打ち込んだ。(1)△3七歩成の攻め合いには▲7四角成△同銀に▲7一飛で王手銀取りがかかる。(2)△7一飛には▲6四歩△7二銀▲6三桂がピッタリだ。
△7三飛 ▲6五角成
*馬を作って△6六桂に備えた。渡辺としては、後手の攻めが減速したタイミングで反撃に転じたい。
△3七歩成
*△6四歩と受けに徹するのは▲同角△同銀▲同馬で後手が危険だった。上記の▲同馬に△6六桂と打てるようにしたのが△3七歩成の趣旨。
▲3二と △6四歩 ▲6六馬
*前述したように▲6四同角は△同銀▲同馬に△6六桂の王手金取りで先手がしびれる。本譜は辛抱して、次の▲8四馬を狙った。
△8五金
*消費時間は、▲渡辺7時間32分、△藤井7時間8分。
▲9五角
*盲点に入りそうな逃げ場所。△9五同金なら▲8四馬が間接王手飛車だ。
△7五歩
*△7五歩で馬の利きを止められてみると、「▲9五角は不発だったのでは」と控室で声が上がっている。△9五金が残って先手は猛烈に忙しい。藤井がさらにリードを拡大しているようだ。
▲2三飛成
*9五の角取りは放置して、飛車を成り込んだ。
△5四桂 ▲6七馬 △9五金 ▲6九玉 △4七と
*渡辺玉に容赦なくと金が迫ってくる。控室では検討の熱が徐々にしぼんでいき、継ぎ盤になかなか手が伸びない。
▲2二龍
*△4六角▲4二と△同金引▲同桂成△同金▲4三歩△5二金で後続手が難しいと見られている。
*
*■将棋プレミアム■
*深浦康市九段>△4六角は次に△6六桂(▲同馬は△5八銀までの詰み)が厳しいんですね。
△3四金
*△4六角が有力視されていたが、藤井の指し手は△3四金。△6六桂打とつなぐ攻めが強力なようだ。
▲同 歩
*渡辺は腕を組んで盤上を見つめている。
△6六桂打
*中村修九段は継ぎ盤から対局室を映すモニター前に立ち、終局に備え始めた。
▲3三歩成 △5八角
*渡辺はこの局面で1分使い、投了を告げた。終局時刻は18時23分。消費時間は、▲渡辺7時間55分、△藤井7時間24分。
*(1)▲5八同馬は△同と▲7九玉△7八桂成▲同玉△6九角▲8九玉△7八金▲9八玉△8九銀までの詰み。(2)▲7九玉は△6七角成で先手玉は受けなしとなる。
*この結果、藤井はシリーズを4勝0敗で制して初の王将位を獲得。同時に、羽生善治九段が持つ最年少五冠達成の記録を22歳10カ月から19歳6カ月に塗り替えた。
まで114手で後手の勝ち
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