第3期大成建設杯清麗戦挑戦者決定戦。鈴木環那vs加藤桃子

開始日時:2021/07/14 10:00
終了日時:2021/07/14 14:54
表題:第3期大成建設杯清麗戦挑戦者決定戦
棋戦:清麗戦
戦型:雁木
持ち時間:3時間
消費時間:62▲154△99
場所:東京・将棋会館
備考:昼休前35手目▲87分△32分\n
先手:鈴木環那女流三段
後手:加藤桃子女流三段

*里見香奈清麗への挑戦を目指す第3期大成建設杯清麗戦(主催:大成建設株式会社)。挑戦者決定戦に勝ち上がった鈴木環那女流三段と加藤桃子女流三段の対局は、7月14日10時に東京・将棋会館「特別対局室」で指される。
*持ち時間は各3時間(チェスクロック形式)。使いきると、1手60秒未満の秒読み。鈴木の振り歩先による振り駒で先後を決める(振り駒で歩が多いときは鈴木の先手となる)。
*鈴木は9時45分前に対局室に到着。水のペットボトルを3本お盆に載せている。加藤は9時50分過ぎに入った。振り駒の結果は歩が4枚出て、鈴木の先手に決まった。
*【大成建設株式会社】
▲7六歩
*◆鈴木 環那(すずき かんな)女流三段◆
*1987年11月5日生まれ、千葉県富津市出身。(故)原田泰夫九段門下。2002年、女流2級。2020年、女流三段。女流棋士番号は29。
△8四歩
*◆加藤 桃子(かとう ももこ)女流三段◆
*1995年3月9日生まれ、静岡県牧之原市出身。安恵照剛八段門下。2019年、女流三段。女流棋士番号は67。
*タイトル戦登場は16回。獲得は女王4期、女流王座4期の計8期。
▲7八銀
*鈴木の本年度の成績は11勝2敗(0.846)。
*勝数ランキング1位。勝率も高く、好調である。
*通算成績は194勝155敗(0.556)。
△3四歩
*加藤の本年度の成績は10勝5敗(0.667)。
*対局数ランキング2位。
*通算成績は62勝26敗(0.705)。
▲6六歩
*大成建設杯清麗戦は2019年に創設された女流棋戦。第1期から第2期はヒューリック株式会社が主催した。ヒューリックが2020年に第1期ヒューリック杯白玲戦・女流順位戦の創設と主催を発表。それに伴い、第3期からは主催が大成建設株式会社に交代した。
*現役女流棋士が6勝通過、2敗失格の予選で本戦進出の4枠を争う。その4人による本戦トーナメントを勝ち抜いた者が清麗保持者に挑戦する。
*第1期は里見香奈女流五冠(当時)が清麗を獲得し、史上初の女流六冠を達成した。里見清麗は第2期でタイトル防衛して2連覇中。
*優勝賞金は700万円。
△8五歩
*大成建設は1873年に大倉喜八郎氏が大倉組商会を設立したことを起源としている。1946年に大成建設株式会社と改称した。
*「人がいきいきとする環境を創造する」をグループ理念に掲げ、建設や不動産などの事業を展開している。
*近年では、東京オリンピック・パラリンピックの会場である国立競技場の設計施工、今年3月に開通した熊本県の新阿蘇大橋を施工など、大規模な事業を手掛けている。
▲7七角
*本日は7月14日。東京オリンピックの開会式が行われる7月23日に10日を切った。聖火リレーは3月25日に福島県を出発、全国各地をめぐって7月9日からは東京都にて実施されている。
*将棋界では聖火ランナーとして、佐藤康光九段が5月26日に京都府亀岡市「京都府立京都スタジアム」、羽生善治九段が7月6日に埼玉県所沢市を走った。
△6二銀
*過去の対戦は4局あり、鈴木1勝、加藤3勝。初手合いは2018年4月の第40期女流王将戦本戦で加藤勝ち。この対局当時、加藤は奨励会に所属していた。そのため、女流棋士になったあとの加藤から見た対戦成績は2勝1敗となる。
*今年4月の第48期岡田美術館杯女流名人戦以来の対局。
▲2六歩
*鈴木は清麗戦に第1期から参加。本棋戦の成績は11勝5敗(0.688)。
*今期の本棋戦成績は以下の通り。
*【予選トーナメント】
*貞升南女流初段(現女流二段)○
*野原未蘭女流2級(現女流1級)●
*【再挑戦トーナメント】
*加藤結李愛女流初段○
*藤井奈々女流初段○
*山口恵梨子女流二段○
*石本さくら女流二段○
*伊藤沙恵女流三段○
*【本戦】
*中井広恵女流六段○
△6四歩
*加藤は清麗戦に第2期から参加。本棋戦の成績は11勝3敗(0.786)。
*今期の本棋戦成績は以下の通り。
*【予選トーナメント】
*武富礼衣女流初段●
*【再挑戦トーナメント】
*相川春香女流初段○
*長沢千和子女流四段○
*甲斐智美女流五段○
*室谷由紀女流三段○
*竹部さゆり女流四段○
*山根ことみ女流二段○
*【本戦】
*香川愛生女流四段○
▲2五歩
*鈴木は2008年の第30期女流王将戦と2013年の第6期マイナビ女子オープンで挑戦者決定戦進出の経験があるが、いずれも敗れている。3度目の正直なるか。
*昨年6月に開設された森内俊之九段のYouTubeチャンネル「森内俊之の森内チャンネル」で鈴木はアシスタントを務めている。チャンネルの企画「鈴木環那 タイトル戦への道」では、森内九段が鈴木をコーチングしている。チャンネル開設からおよそ1年。夢にあと一歩のところまできた。
△3三角
*加藤は今年1月から2月に行われた第47期岡田美術館杯女流名人戦五番勝負以来のタイトル戦出場を目指す。2017年の第10期マイナビ女子オープンで防衛して以来、タイトル獲得から遠ざかっている。2020年度は上記の女流名人戦を含めてタイトル戦に3回出場したが、いずれも敗退した。今度こその思いは強いだろう。
▲4八銀
*今日の東京は曇りのち時々雨と予報されている。予想最高気温は28度。ジメジメした一日となりそうだ。
△6三銀
*先手の雁木模様に、後手は△6三銀と繰り出して、腰掛け銀含み。本戦1回戦の▲鈴木-△中井広恵女流六段戦もそのような序盤戦だった(モバイル中継局)。
▲5六歩
*里見清麗は今日、第15回朝日杯で村田智弘七段と対戦している(モバイル中継局)。
△5四銀
*鈴木は本戦1回戦の対中井女流六段戦に続いて先手、加藤は本戦1回戦の香川愛生女流四段戦に続いて後手番となった。
▲5七銀
*対局開始から10分でここまで進んだ。互いにある程度予定してきた展開のようだ。
△3二銀
*先手は▲6七銀から▲7八金とすれば雁木になる。ほかにも▲5八金から▲6七金の左美濃も有力だ。鈴木は体を小さく横に揺らしながら考えている。
▲6七銀
*鈴木の選択は▲6七銀。雁木を目指した。
△4二玉 ▲7八金
*指し手の組み合わせは異なるが、14手目コメントで触れた▲鈴木-△中井戦と同じ局面になった。
△7四歩
*加藤は6手目△8五歩に時間を使っていたが、それはお盆を取りにいき、ペットボトルを載せる時間も含んでいる。それ以外の指し手は1手十数秒のペースで進めている。
▲3六歩 △6二飛 ▲1六歩
*「居玉は避けよ」で▲6九玉を急ぎたくなるが、鈴木は▲3六歩から▲1六歩と様子を見ている。居玉のほうが後手の6筋攻めから遠かったり対応しやすかったりと判断しているのだろう。
*10時20分ごろ、常務理事の鈴木大介九段が控室へ。「雁木で流行の形ですね。ただ、▲3六歩から▲1六歩が工夫の指し方です」と話す。
△1四歩
*「これは珍しい手だと思います」と鈴木九段。先手からすると、1筋の突き合いは0手で△1五角と出る筋が消えて得という見方もあるためだ。加藤はほかの手を指すと、▲1五歩と間合いを詰められるのを気にしたのかもしれない。
*10時30分、係が対局室に入って、鈴木、加藤の順に昼食の注文を取る。
▲3七桂
*「あーーーー」と鈴木九段が驚く。対中井戦を踏まえて▲5八金を予想していたためだ。「相手の先攻を警戒して、攻め合い含みですね。ありそうでない局面と思います」という。
*右四間飛車側がカニ囲い系の囲いなら、5月に指された第79期名人戦七番勝負第5局▲斎藤慎太郎八段-△渡辺明名人戦に似ている。その将棋は雁木側が後手で飛車側の端の位を取っていた。本局は加藤が△1四歩と受けているため、少し状況が異なる。
△7三桂
*▲3七桂に△7三桂は予想されるところだが、鈴木は再び時間を使っている。▲5八金や▲4六銀など手が広い。
*鈴木の考慮中に11時になろうとしている。早くも消費時間に30分以上の差がついた。先ほどと違って、体を前後に揺らして読みを入れている。まだ序盤だが、雰囲気はすでに大決戦の最中のように険しい。
▲4六銀
*11時5分の着手。▲4六銀までの消費時間は▲鈴木50分、△加藤13分。
*▲4六銀は▲4五銀や▲4五桂から▲7五歩を絡めて攻める筋を見ている。また、△6五歩▲同歩△同桂の仕掛けをかわしている。ただ、△6五歩▲同歩△同銀から薄くなった6筋を狙われて不利になってはひどい。後手から攻められても大丈夫と見極めるために鈴木は長考したのだろう。
*今度は加藤が時間を使う。11時15分ごろ、加藤は水を飲む。
△6五歩
*11時23分、加藤は果敢に仕掛ける。
▲同 歩 △同 銀
*△6五同桂は▲3三角成△同桂▲6六歩で、「桂の高跳び、歩のえじき」の典型例になる。そこで△6五同銀。後手は△7七角成▲同桂△6五桂という攻め方は考えられた。
*この△6五同銀に▲6六歩だと、△同銀▲同銀△同角▲同角△同飛と先手の駒が足りていない。次いで▲8四角は△6三飛で飛車桂両取りが受かるし、▲5五角と反撃するのも△5六飛から暴れられてしまう。
*結局、先手は6六で受け止めるのが容易ではない。鈴木が攻め合いに出ることは十分考えられる。
▲3三角成
*鈴木は18分使った。攻め合いの気持ちを固めたのだろうか。時刻は11時40分になった。
△同 桂
*体を揺らして考える鈴木とジッと身動きしない加藤。動と静。
*ここで鈴木が17分使って昼食休憩に入った。消費時間は▲鈴木1時間27分、△加藤32分。対局者の昼食は、鈴木が「ゴーヤチャンプルー弁当」、「納豆オムレツ+キムチ」(いずれも鳩やぐら)。加藤の注文はなかった。
*二人は12時30分過ぎには対局室に戻って局面を考えている。
▲8四角
*12時40分に対局が再開されると、鈴木は▲8四角と打った。攻め合いに出ている。△7二金なら▲7七桂の要領だ。
△7二金
*12時50分過ぎ、加藤は△7二金で受けに回る。攻め合うなら△6六歩だった。(1)▲5八銀はそこで△7二金で後手が得。(2)▲7三角成△6七歩成▲同金の変化がどうか。銀桂交換ながら、馬も大きい。
▲7七桂
*鈴木は間髪を入れずに桂を跳ねた。居玉のまま戦うのだから強気だ。
*加藤は午前中に買い出しを頼んでいたようで、午後からは大きめの水のペットボトルがお盆に置いてある。その水をコップについで飲んだ。
*ここで(1)△6六歩は▲6五桂△6七歩成▲7三桂成と直線的な攻め合いが予想される。すると、将来の▲2六桂が厳しいため、後手はリスクが高い。ただし、▲7七桂に(2)△5四銀だと、▲5五歩△6三銀も利かされてしまうだろう。駒が下がってしまうことをどの程度許容できるか。
△4四歩
*30分の長考だった。銀を放置するのは駒損するので意外ではある。
*鈴木も手を止めた。残り時間は1時間30分を切った。加藤の残り時間は1時間47分。
▲6五桂 △同 飛 ▲2四歩 △同 歩 ▲3五歩
*桂頭はどの場合でも常に弱点。加藤は脇息を少し斜めにして、そこに両肘を乗せて考えている。
△4五桂
*ここで38手目△4四歩の狙いが明らかになった。この桂跳ねの土台作りだったのだ。
▲同 銀
*△4五同歩が駒に当たらないようにした。これで駒の損得はなくなった。
△同 歩 ▲6六角
*角は8四にいても働かないので方向転換。ただし、▲1一角成から▲4四香、▲3四歩から▲3三銀、いずれも手数のかかる攻め方だ。つまり、現局面は後手が反撃の手段を組み立てられる場面と見ることもできる。先手としては不安というか、怖い局面ではある。
△4六歩
*筋、といった突き出し。▲4六同歩は△4七歩や△4八歩の攻めが生じて、大きな利かしだ。かといって、先手は4七にと金を作らせるわけにいくまい。先手は9九に玉がいる穴熊ではなく、5九の居玉。4七のと金は、あまりにも自玉に近い。
*14時ごろ、控室を訪れた鈴木大介九段は、ここまでの進行を並べて45手目▲4五同銀に意外そうな反応を示した。「少し焦ったかもしれません。黙って▲2四飛から歩交換して先手まずまずだったと思います」と鈴木九段。
*14時過ぎ、鈴木は残り1時間となった。
▲1一角成
*14時08分の着手。▲1一角成までの消費時間は、▲鈴木2時間4分、△加藤桃1時間23分。
*鈴木九段が▲4六同歩で自信がない場合の勝負手として▲1一角成を示していた。
△4七歩成
*「5三(5七)のと金に負けなし」といわれる。と金の威力を示す言葉だ。本局は4七だが、先手の玉は5九。鈴木にとって脅威だろう。
▲4三歩
*鈴木九段は△5二玉を示す。以下▲6六香には、△4六角▲6五香△同桂とあえて飛車を見捨てる。4六に打った角が先手陣や後手陣によく利いているし、4七とや6五桂が活躍できるため、お釣りがくるという読みだ。
△5一玉
*加藤の選択は5一。▲5五馬△同飛▲6四桂と迫られるのを警戒したようだ。
*△5一玉にも▲6六香は有力だ。△5二玉と違って、先手が飛車を持てば▲8一飛が王手になる。
▲6六香
*加藤は前傾姿勢で考えている。△3五飛と逃げるのが普通だが、4三に歩のくさびが入ったうえで6六香の利きが6一まで通るのは怖い。
△5七桂
*終盤は金を狙うのが寄せのコツ。金を攻める手段としては△4八歩も魅力的だった。
*30手目△6五歩で中盤戦に入った本局。54手目の現局面はすでに終盤戦といえる。囲いもそこそこに攻め合ったため、守りが薄く、双方の玉に王手がかかりやすい状況だ。激しい乱打戦。
*鈴木は手段を探して熟考している。
*鈴木九段は▲6八玉を示して、仕事に戻った。次に▲7九玉と安全地帯に逃げ込むつもり。4九金はとかげのシッポというわけだ。
▲5五馬
*▲6五香は△4九桂成▲6八玉△6五桂と駒を取られるのが嫌だったか。▲6五香△同桂▲同馬となればうまい。
*また、△5五同飛▲同歩なら▲6一飛からの攻めが残る。
△9五角
*スナイパー参上。単純な王手だが、▲6九玉と逃げられない(5七に桂がいる)ため非常に厳しい。鈴木九段が55手目で▲6八玉を示したのは△9五角を察知した意味もあった。▲6八玉に△9五角なら▲7九玉とかわして問題ない。
▲7七桂
*やむを得ないが、▲4四桂や▲6四桂の筋がなくなったのは痛い。
△4九桂成 ▲同 玉 △4八歩
*これはただの王手ではない。飛車の横利きを断ち切って、先手玉が弱体化している。具体的には▲5九玉なら△5七銀▲6九玉△7七角成▲同金△6八金までという攻め筋がある。4八に歩がなければ、△6八金を飛車で取れるのだが。
*歩の攻めなのに効果は抜群。これは鈴木が厳しくなったか。
▲5九玉
*鈴木は玉を逃がして席を外す。残った加藤は「いやぁ」と声を漏らし、手で読みのリズムを取る。
△5七銀
*鈴木が対局室に戻ってきたころ△5七銀が指された。この局面を少し見ていた鈴木が「負けました」と告げながら右手を駒台に置いて投了の意思表示をした。終局時刻は14時54分。消費時間は▲鈴木2時間34分、△加藤1時間39分。
*投了の局面は次に△5八金の頭金が受けにくい。▲6九玉と逃げても△7七角成と追手がきて、しのぎきれない。
*激しい打ち合いを加藤が制して挑戦権獲得。五番勝負第1局は9月23日に東京都港区「ホテルオークラ東京」で指される。
まで62手で後手の勝ち

コメント