第69期王座戦五番勝負第4局。木村一基vs永瀬拓矢

開始日時:2021/10/05 09:00
終了日時:2021/10/05 20:11
表題:第69期王座戦五番勝負第4局
棋戦:王座戦
戦型:相掛かり
持ち時間:5時間
消費時間:122▲300△282
場所:兵庫県神戸市「ホテルオークラ神戸」
備考:昼休前49手目▲129分△60分\n夕休前81手目▲222分△236分\n
先手:木村一基九段
後手:永瀬拓矢王座

*永瀬拓矢王座に木村一基九段が挑戦する第69期王座戦五番勝負(主催:日本経済新聞社 特別協賛:東海東京証券株式会社)は、永瀬の2勝、木村の1勝で第4局を迎えた。防衛か、フルセットか。第4局は10月5日(火)、兵庫県神戸市「ホテルオークラ神戸」で行われる。持ち時間は各5時間(チェスクロック使用)で、使いきると1手60秒未満の秒読み。先手は木村。対局は9時開始。昼食休憩は12時10分から13時、夕食休憩は17時30分から18時まで。
*立会人は桐山清澄九段、新聞解説は服部慎一郎四段、記録係は宮田大暉三段(杉本昌隆八段門下)がそれぞれ務める。
*対局当日、神戸の朝は雲が多いながらも晴れ。最高気温は27度の予報。
*8時41分、桐山九段ら関係者が席に着く。42分、永瀬が対局室に入った。扇子や除菌スプレーなどをかばんから取り出し、対局の用意を整えて木村の到着を待つ。
*44分、木村は一礼してから入室した。信玄袋から懐中時計や扇子を取り出し、駒台の位置を微調整して姿勢を正した。やや間を空けて両者が一礼を交わし、永瀬が駒を散らす。あまり駒音を立てずに駒を並べる永瀬と、高い駒音を立てる木村が対照的だ。48分、駒を並べ終え、対局開始を待つのみとなった。
▲2六歩
*定刻の9時、桐山九段が対局開始を告げ、両対局者が「お願いします」と礼を交わす。しばらくして木村が盤上に手を伸ばした。
△8四歩
*木村の着手を見て、時間をかけずに△8四歩と飛車先の歩を突いた。
▲2五歩
*◆木村 一基(きむら かずき)九段◆
*1973年6月23日生まれ、千葉県四街道市出身。(故)佐瀬勇次名誉九段門下。1997年、四段。2017年、九段。棋士番号は222。
*タイトル戦登場は9回。獲得は王位1期。棋戦優勝は2回。
△8五歩
*◆永瀬 拓矢(ながせ たくや)王座◆
*1992年9月5日生まれ、神奈川県横浜市出身。安恵照剛八段門下。2009年、四段。2020年、九段。棋士番号は276。
*タイトル戦登場は8回。獲得は王座2期、叡王1期の計3期。棋戦優勝は2回。
▲7八金
*金を上がって角頭を備え、相掛かりの将棋になった。本局の戦型は、矢倉や角換わりを予想する声があるなか、最も人気が高かったのが相掛かり。まだまだ未知な部分が多く、先手が先攻する形になりやすい、との見解が多かった。
△3二金
*代えて△8六歩▲同歩△同飛は、▲2四歩△同歩▲2三歩と角を取られて後手がまずい。先手と同じく金を上がって、角頭を補強した。
▲3八銀
*主流となった銀上がり。これまでは▲2四歩から飛車先の歩の交換を急いでいたが、いまは保留する傾向にある。保留する狙いとして、このあと▲3六歩~▲3七桂~▲2九飛の下段飛車を目指すことが多く、先に▲3六歩~▲3七桂の形を作ってから▲2四歩と交換を仕掛けたほうが手得になる点や、△3四歩や△6四歩を見て▲2四歩と突けば、横歩を狙いやすいなどの理由が挙げられる。
△7二銀
*本局は、インターネットテレビサービス「Paravi」と、「ABEMA」で動画配信される。
▲9六歩
*端歩を突いて様子を見た。服部四段は「ここは後手の手が広い局面。△9四歩や△1四歩、△5二玉などが考えられます」と話す。
△5二玉
*近年、流行している形になった。前例は66局で▲36勝、△30勝。
▲4六歩 △9四歩
*時間差で△9四歩と端を受けた。
*「▲4六歩を見て△9四歩を突き、次に△8六歩▲同歩△同飛で横歩を取る変化を見せています。代えて急いで△8六歩▲同歩△同飛は、▲4七銀△8七歩▲9七角△8二飛▲8六歩で△9五歩がなく、後手がうまくいきません」(服部四段)
▲2四歩
*王座戦は日本経済新聞社が主催する棋戦。全棋士と女流4名が参加。一次予選、二次予選のトーナメントを行い、二次予選を勝ち抜いた棋士とシード棋士によって挑戦者決定トーナメントを戦い、挑戦者を決める。
*第67期から王座戦の全対局が、チェスクロックを使用した秒単位での計測に変更となった。
△同 歩
*対局地の神戸市は、兵庫県の県庁所在地で県内最大の人口を誇る。空港や新幹線の駅を有しており、東京や九州との中間地点。また、明石海峡大橋を介して四国にも通じており、関西交通の要の地でもある。
▲同 飛
*神戸という地名の由来は古く、平安前期の書物『和名抄』で見られる。地名の由来は諸説あり、代表的なものとして、現在の生田神社周辺に特定の神社の祭祀を維持するため、神社に属して租税を収めた集落である神戸(かんべ)が、神戸(こうべ)に呼び名を変えて地名の由来になったとする説がある。
△2三歩
*対局場であるホテルオークラ神戸は、1989年に開業した地上35階、地下2階のホテル。周辺には、神戸ポートタワーや、神戸港クルーズが楽しめる船乗り場、大型ショッピングモールのumie MOSAIC(ウミエモザイク)、神戸アンパンマンミュージアムなどがあり、神戸観光やショッピングをするのに便利な立地である。
▲2八飛
*同地での王座戦開催は、昨年の第4局に続いて3年連続5回目。以下は各対局の成績(肩書は当時のもの)。
*第54期と第67期は、番勝負の決着局になっている。
*
*第50期第2局 羽生善治王座○-●佐藤康光棋聖・王将
*第54期第3局 羽生善治王座○-●佐藤康光棋聖
*第67期第3局 斎藤慎太郎王座●-永瀬拓矢叡王
*第68期第4局 永瀬拓矢王座●-○久保利明九段
△8六歩
*本局の観戦記は池田将之さんが執筆し、後日の日本経済新聞紙上に掲載予定。今日の日本経済新聞朝刊には、挑戦者決定戦▲佐藤康-△木村戦の第一譜が掲載されている。こちらの執筆は野月浩貴八段。
▲同 歩
*日本経済新聞電子版では「将棋AIの読みは万能か? 」と題した記事を掲載しており、将棋ソフトの開発者や藤森哲也五段への取材を交えて最新の動向をリポートしている。
△同 飛
*1983年に王座戦がタイトル戦に格上げされて以降、最も獲得期数が多いのは羽生善治九段の24期で、次に中原誠名誉王座の6期(一般棋戦時代を含めると16期)、永瀬の2期と続く。そのほか、塚田泰明九段、谷川浩司九段、福崎文吾九段、渡辺明名人、中村太地七段、斎藤慎太郎八段もそれぞれ1期ずつ王座を獲得した。
*名誉王座は王座位を連続5期、または通算10期獲得で資格を得られ、中原名誉王座と羽生九段が資格を持つ。
▲7六歩
*現局面の前例は2局あり、先手の2勝。どちらも先手を藤井聡太三冠が持っており、後手を永瀬と木村がそれぞれ持っていたのが興味深い。そのどちらの将棋も△7六同飛▲8二歩△9三桂▲9五歩まで進み、△同歩と△8五桂に分岐している。
△1四歩
*この端歩で前例がなくなった。服部四段は「△7六同飛はすぐに優劣がつきやすいですが、それに比べると穏やかになりそうです。△1四歩は角の逃げ場を作って、▲1六歩△7四歩▲2四歩△同歩▲同飛に△7三銀や△7六飛で、7四の歩を守れます」と話す。
▲1六歩
*先手も端歩のあいさつをした。桂の跳ね場所を作って価値が高い。
△7六飛
*約8分の少考後、横歩を取った。▲8二歩が見えているだけに強気な一手だ。
*現地を訪れている日本将棋連盟常務理事の井上慶太九段は「決戦ですか。しかし、▲1六歩に代えて▲4七銀だったら△7六飛と取ったのかな」と疑問の様子。▲4七銀なら4六の歩にはひもがついており、△7六飛のあと△4六飛がない。
*服部四段は「先手として妥協しづらい局面になりました。▲4七銀は△8六飛と戻られて1歩損になりますので、▲8二歩と踏み込んでいくと思います」と見解を述べる。
▲8二歩
*桂取りに歩を打った。
*「▲8二歩を打ちましたね。これはもう収まることはなさそうです」(服部四段)
△9三桂
*永瀬は第67期で斎藤慎太郎王座を破ってタイトルを奪取し、前期は久保利明九段の挑戦を退けて2連覇を達成した。
*対して木村は今期、挑戦者決定トーナメントからの出場で、順に澤田真吾七段、高崎一生七段、石井健太郎六段、佐藤康九段を破って挑戦権を獲得した。タイトル戦の登場は昨年の第61期王位戦七番勝負以来となる。
▲8一歩成
*木村の今年度成績は15勝12敗(0.556)。
*今年度、対局数ランキング4位タイ、勝数ランキング12位タイ。
*通算成績は694勝415敗(0.626)。
△同 銀
*永瀬の今年度成績は16勝10敗(0.615)。
*今年度、対局数ランキング7位タイ、勝数ランキング8位タイ。
*通算成績は410勝167敗(0.711)。
▲9五歩
*桂の弱点を狙った歩の突き出し。△9五同歩は▲2五飛と浮き、次の▲9四歩の桂取りを狙う。
△8五桂
*ほとんど時間を使わず、桂を跳ねて先逃げした。時間の使い方を見ても、事前準備は十分なのだろう。
*▲9四歩の取り込みに△9八歩や△9七歩を用意した。1筋の交換がなければ、前述した▲藤井聡-△木村戦と同一の局面になる。端の交換は、今後にどのような影響をもたらすのか。
▲2五飛
*飛車を浮いて跳ねてきた桂を狙った。
△8四歩
*桂を守るこの一手の受け。代えて△8六飛は▲8七歩で飛車の移動を促されて困る。
▲8七金
*金を上がって飛車に当て、後手の対応を問う。▲藤井聡-△木村戦では、木村が△7九飛成と威勢よく踏み込んでいる。
△7四飛
*永瀬は時間を使わずに指し進める。切り込まず、穏やかに飛車を引き揚げた。
*「1筋の交換を省けば、これで以前の将棋(▲藤井聡-△木村戦)と離れましたか」(桐山九段)
*「飛車を引かずに切って(△7九飛成)▲同角△7八銀に▲7四歩が好手やった将棋ですね」(井上九段)
▲6八玉
*対戦成績は永瀬の5勝、木村の4勝(2千日手)。永瀬から見た星の並びは古い順に、千●○●千○○●●○○。最近では流行の相掛かりが多く指されている。
△2四歩
*中段でいばる飛車に働きかけた。モニターに△2四歩が映ると、桐山九段は「角頭に空間が生まれてキズができるだけに突きにくいですが、いかにも研究しています、という一手ですね」と笑顔を見せる。
*「横に逃げるのは難しいか」(井上九段)
*「(1)▲6五飛△3四歩▲2二角成△同銀▲8三角は△5四角がピッタリになります。(2)▲2八飛は△9五歩▲8六歩△9六歩▲8五歩△同歩が一例で、このときに飛車が五段目からいなければ▲8五同飛がありません。(3)▲2六飛もあるかもしれません。不安定な位置なので怖いですが、△3四歩に▲4五歩と突いて飛車の横利きを通せば△4四角もありませんし、2八飛型に比べて受けやすく景色が違います」(服部四段)
▲6五飛
*飛車を引くのは消極的だったか。6筋に逃げて五段目の利きを維持した。後手はゆっくりとしづらく、△9五歩~△9六歩は間に合わない可能性がある。
△3四歩
*角道を開けて交換を迫った。後手は角を手持ちにしたほうが、前線で働く先手の飛車に迫りやすく、技をかけやすい。
*「角交換する変化は先手がだめなのかな。▲2二角成△同銀▲8三角△5四角に▲6六飛とかわして」(桐山九段)
*「△8七角成▲6一角成△同玉▲6三飛成△7一玉で。確かに後手が怖い局面ですが、次に△7九飛成と取れるので」(服部四段)
*「そうか、確かに。なるほど、踏み込んでくるのか。いやあ、激しい将棋だ」(桐山九段)
*桐山九段と服部四段が口頭で意見を交わした。桐山九段はとても楽しそうに読み進めている。
▲8六歩
*桂を捕獲して先手の桂得は約束された。△8八角成に▲同金と応じれば、△5四角が間接的な両取りにならない。
△8八角成
*ノータイムで角交換に踏み込んだ。
*木村は背筋を伸ばして後頭部に手を当て、再び前傾姿勢に戻った。目の前の相手はほとんど時間を使わない。さぞかし不気味だろう。
▲同 金
*金で応じる自然な対応。
*「代えて▲8八同銀は△5四角▲6六飛△8七角成▲同銀△7七金で先手がまずかったように思います。露骨な攻めなのですが、8七の銀を取られると先手は受けが難しくなります」(服部四段)
*
*※局後の感想※
*代えて▲8八同銀には、△5四角▲5六角△6五角▲同角△7八飛打▲6九玉△7五飛引成が示された。
*「まあ、選びませんよね」(木村)
△4四角
*後手は桂を取られる前に動く必要がある。角を打って△8八角成▲同銀△7八金を用意した。現局面から▲8三角の攻め合いには、△7九飛成▲同玉△7二銀でどうか。以下、▲8二飛も△7一銀で受かる。
*永瀬は着手後に席を立った。木村は額に手を当てる。しばらくして対局室に戻ってきた永瀬は、スーツの上着を脱ぎ、傍らに置いた。木村は記録係に声をかけて棋譜用紙を受け取り、時間をかけてじっくりと眺めた。
*「これは次の一手が注目です」(桐山九段)
▲6六角
*約40分の熟慮だった。1歩でもあれば▲7七歩で簡単に受かったが、現状はその1歩がない。角には角で対応する。継ぎ盤を動かす井上九段と服部四段も候補に挙げていた角打ちで、△6六同角▲同飛の局面で後手からの有効手が見えづらい、と見解が一致した。一例として▲同飛以下、△4四角▲8五歩△6六角▲同歩△7二銀が並べられている。
*「後手の手が難しい局面やね」(桐山九段)
*「やっとペースが落ち着きましたね。先ほどまでは永瀬さんが自信満々に見えましたけど」(井上九段)
*木村は眼鏡を外して目頭を押さえた。永瀬は左手で額を押さえ、悩ましげな様子を見せている。
*11時ちょうど、関係者が昼食の注文を取りに部屋に入った。
*11時20分、永瀬の考慮が30分を超えた。36手目の△2四歩や3手前の△8八角成など、永瀬が決断よく指し進めて誘導しただけに、現局面の長考は変調を思わせる。
*
*
*※局後の感想※
*代えて▲8三角は△7九飛成▲同玉△7二銀で後手よし。
*「これはだめですね」(木村)
*「△7二銀の局面は、少しいいかなと思っていました」(永瀬)
△9五歩
*11時30分頃、△9五歩までの消費時間は、▲木村1時間33分、△永瀬57分。
*永瀬も40分を超える長考で、じっと端歩を取って歩得を主張する。桂を渡しても先手に有効な手がないと見ているのか。しかし、継ぎ盤では▲8五歩のあと、なかなか手が進まない。井上九段は「後手は攻めるのではなく、辛抱するんでしょうねえ」と予想した。
▲4四角
*検討では▲8五歩と桂を取るのが有力視されており、先手からの角交換は候補になかった。
△同 飛
*飛車で角を取った。先手玉のアキレス腱である銀のにらみは外れたものの、次に△4六飛と走って△8六飛や△2六飛を見せられる。また、▲8三角を事前に避けた意味もありそうだ。先手の歩切れを突いて、飛車を縦横無尽に働かせる展開が後手の理想といえる。
*永瀬は盤から視線を外し、外に視線を送った。
▲8五歩
*駒音高く着手。桂を取って先手が桂得になった。着手の様子から、局面に対する自信をうかがわせる。
△9六歩
*後手は駒損の解消を図りたい。端歩を伸ばして攻め合いの姿勢を示した。次に△9七歩成▲同香△9六歩で駒損を取り返せる。
*控室の検討では現局面から、▲6六飛△9七歩成▲同香△9六歩▲同香△9五歩▲7四歩△同飛▲8三角△7二銀▲7四角成△同歩▲7三歩を一例として挙げ、先手よしの結論を出した。
*「これは思ってもないような変化に進みましたね。現局面は桂得が大きく、先手に指したい手が多そうです」(桐山九段)
*12時5分頃、木村が席を離れ、しばらくして永瀬も部屋を出た。少し早めの休憩に入ったようだ。
*12時10分、この局面で昼食休憩に入った。ここまでの消費時間は、▲木村2時間9分、△永瀬1時間ちょうど。昼食は、永瀬がビーフカレーとアイスコーヒー、木村はシーフードカレー。対局は13時ちょうどに再開する。
*12時50分、木村が部屋に戻ったあと、すぐに永瀬も入室した。
▲5五角
*昼食休憩明けの一着。飛車取りと▲7三角成を見せつつ、△4六飛を防ぐ攻防の角打ち。服部四段は「激しくなりそう」とつぶやき、控室から離れた。
*継ぎ盤に桐山九段が座り、先手を持って検討している。現局面で「後手の手がわからない」と険しい表情。調べたのは△9七歩成▲同香△9六歩▲同香△同香▲5六桂△5四飛▲1一角成△9八香成▲同金△7六角▲6六香△6五角▲同香の順。途中、飛車と金の両取りをかけられるものの、▲6六香が返し技。飛車にひもをつけながら後手玉の急所である6三の地点に利きを足して反撃できる。
*「その変化は後手が苦しそうですね」(桐山九段)
*木村は洗顔シートを取り出し、眼鏡を外して顔を拭いた。
*
*
*※局後の感想※
*代えて▲6六飛のほうがまさったか。その局面は後手の手が広く、△8五歩▲5五角は本譜に比べて後手が損をしている可能性がある、と永瀬。
*木村は「▲6六飛は候補手に挙がっていましたか」と服部四段に尋ね、服部四段はうなずく。
*「だとすると辛抱が足りなかったですか。確かに、角打ちは結構引っかかっていました。本譜の順がうるさかったです」(木村)
△9七歩成
*後手は攻めるなら端からだろう。40分の考慮で歩を成った。
▲同 香
*予定の一手だったか、永瀬の着手から間を置かずに▲9七同香と応じた。
△同香成
*△9六歩よりも迫力とスピードを重視して香を取った。▲9七同桂は△9六歩で桂が捕まる。
*
▲同 金
*香を取り返した。どちらも少しずつ、戦力が整いつつある。先手は大駒を中央に配して後手陣を脅かすも、前線に繰り出す大駒は当たりが強く、反撃を受けやすい点に注意が必要だ。
*「金が自然な対応です。ここで△9六歩と打つかどうか」(桐山九段)
△9六歩
*先手の対応を見るたたきの歩。金を上ずらせれば、△9八角と飛車と桂の両取りに打てる。
*「▲9六同金に△8七角の両取りも見えますが、▲6六飛で受かりそうです」(桐山九段)
*「▲9六同金と取って△9八角を打たせて▲7七桂は考えられるかもしれません。以下、△6五角成▲同桂△9八飛▲7八歩△9六飛成に▲5六香の反撃があります」(服部四段)
▲8七金
*14時ちょうど、▲8七金までの消費時間は、▲木村2時間26分、△永瀬1時間43分。
*金が上ずるのを嫌って真横にかわした。△5四角や△9八角の両取りが見えるだけに、逃げづらい場所に見える。
*「△5四角に(1)▲7七桂は、△6四歩▲同角△6五角▲同桂△6四飛で後手よしです。ですので(2)▲6六香と受けて、(A)△6四歩なら▲同角△6五角▲同香で角にひもがつきます。(B)△6四香と飛車を取りにこられても、▲7七桂とさらに利きを足せます。先手は6五に桂を跳ねる形を目指したいです」(服部四段)
*
*※局後の感想※
*木村は本譜と▲9六同金△9八角▲7七桂△8七角成▲6六飛△7六香▲7八銀△7七香成▲同銀△6五桂の順の比較に悩み、本譜を選択した。
△9八角
*金の裏側から角を打って、飛車と金、桂を射程に入れた。
▲7八銀
*金と桂に同時にひもをつける銀上がり。同じ意味でも▲7八玉は危険地帯に近づくだけに、指しづらい。
*桐山九段は△9七歩成▲同桂△9六歩▲9九歩△8七角成▲同銀△9七歩成の進行を、一例として挙げた。
*木村は膝元の扇子を手にして顎に当てて考える。しばらくして、扇子を広げて、ハタハタと自身に風を送った。永瀬は飲料に手を伸ばす。
*14時25分、永瀬の消費時間が木村を上回った。
*服部四段は継ぎ盤を動かして、検討を進めている。有望視していた△9七歩成は、▲同桂△9六歩▲4四角△同歩▲9一飛で後手が難しいのではないか、との見解を示した。
*「△9七歩成を難しいと見れば、△8六香になりそうです。以下、▲6六香△6四歩▲同飛△同飛▲同香△8七香成▲6一香成△7八成香の変化は、一気に終盤戦です」(服部四段)
△9七歩成
*40分近い考慮で歩成りを決めた。▲9七同金は△6五角成で飛車を素抜いて後手優勢。
*部屋が暑いのか、木村は羽織を脱いでいる。
▲同 桂
*時刻は15時になり、対局室におやつが運ばれた。永瀬はコーヒー(ホットとアイス)、オレンジジュース。木村はアイスココアとチョコレートを頼んでいる。
△9六歩
*金が動けない弱みを突く。桂取りに歩を打って、攻めに拍車をかけた。
*▲4四角に(1)△同歩▲9一飛の変化以外にも、(2)△9七歩成▲5三角成△同玉▲4五桂△6二玉▲9一飛△8七との攻め合いも有力で、どちらもしのぎを削る戦いになりそうだ。
▲4四角
*15時30分頃、木村が3時間を消費したと同時に飛車を取って、大駒交換に踏みきった。
*検討では△4四同歩も△9七歩成も有力で、どちらも激しい変化になると予想されていた。果たしてどうなるか。
*
*※局後の感想※
*代えて▲9九歩△8七角成▲同銀△9七歩成▲7六銀△6四香▲4四角△同歩▲5五飛△7七金▲同玉△8八角▲6八玉△5五角成▲9一飛△7二銀の変化も並べられた。しかし、木村はその変化を勝ちづらいと判断して見送っている。
*「攻めているかどうかよくわかりません。こんなことだったら(49手目)▲5五角に代えて、▲6六飛を選んだほうがよかったなど、対局中は余計なことを考えました」(木村)
△同 歩
*角を取って手順に4三の地点が空き、玉の逃げ道が広がった。感触がよさそうな一手。
*
*※局後の感想※
*永瀬は△4四同歩に代えて△9七歩成と桂を取りたかったが、▲5五桂△5一桂▲6六香の変化に自信が持てず、本譜を選んだ。
▲9一飛
*駒音高く、銀取りに飛車を打ち込んだ。△7二銀には▲9六飛成を用意している。
*木村は着手後に席を離れた。
△9二角
*9一の飛車を封じ込め、銀取りを受けながら6五の飛車に当てる角打ちで、受けながら反撃する。
▲6六飛
*飛車を引いてかわす。2枚の角のにらみを避け、8七の金が動きやすくなった。次に▲9六飛と歩を払えば、後手の攻めは切れ模様になる。
△8七角成
*▲9六飛と歩を取られる前に、角を切り飛ばす。▲8七同銀△9七歩成の2枚換えの順に踏み込んだ。
▲同 銀 △9七歩成
*桂を取って、駒割りは▲飛車△金の交換になった。角が4七の地点に利いて、先手玉の逃げ道を塞ぐ役割も果たすうちに、挟撃形を築きたい。
▲7八銀
*当たりの銀を逃げた。先手は▲9三歩を楽しみに、しばらく後手の面倒を見る時間になっている。
*服部四段は先手を持って受けてみたいとしながらも、△6四香▲7六飛△8八と▲6九銀△5五桂の順に難色を示した。
*時刻はまもなく16時。関係者が夕食の注文を取りに、対局室に入った。王座戦の番勝負の夕食休憩は、17時30分から30分間とやや珍しい時間設定がなされている。
*
*※局後の感想※
*「銀は変でしたか」(木村)
*「いやあ、自然だと」(永瀬)
*「そうですよねえ」(木村)
△6四香
*飛車取りに香を打って、手順に先手の玉頭をにらんだ。▲8六飛と逃げられても△8八との押し売りが成立する。以下、▲同飛は△7六桂が王手飛車取り。
*服部四段の検討に、桐山九段が加わった。現局面から▲7六飛△8八と▲6九銀△5五桂▲5九桂△6五角▲7三飛成△7二銀と進めている。
*「△7二銀まで進むと、1筋から4筋の歩が突いてあるのが大きく、後手玉が広いように見えます」(桐山九段)
▲7六飛 △8八と
*先手玉を守る銀をはがすべく、と金を侵入した。
*「これはもう、終盤戦です」(服部四段)
▲6九銀
*銀をはがされては、さらに守りが薄くなって心もとない。
△5五桂
*先手の玉頭に戦力を集中させた。先手は押され気味で、手段が限られている。
*「▲5九桂が自然に見えますが、木村先生の棋風なら▲5八銀もあるかもしれません」(服部四段)
▲5八銀
*手持ちの桂を使わず、下段の銀を活用して6七の地点を受けた。桂を手持ちにして▲5六桂の反撃を残す。
*木村は眼鏡を外して脇息に肘を突いた。永瀬は正座からあぐらに姿勢を変え、しばらく考えそうな雰囲気を醸す。
*「△6五角▲7三飛成に(1)△7二銀▲8二竜の変化は、少し後手が指しづらいかもしれません」(桐山九段)
*しばらくして、(2)△3八角成と時間差で角を切る順が示された。以下、▲同金に△8二銀打で、竜と飛車の両取りがかかる。先手玉は飛車の打ち込みに弱く、無理矢理にでも飛車を取れば寄せやすくなる。その順を聞いた桐山九段は「角の途中下車ですか、面白い手順ですね」と驚いた様子だ。
*時刻は17時を回った。動画中継サイト「Paravi」で、深浦九段と飯野女流初段による大盤解説が始まった。
*
*※局後の感想※
*代えて▲5九桂は△7九金でよくわからなかった、と木村。
*「結構嫌らしいんだよね。この手の感触がよかったのですが、これでだめならすでに一本取られていますね」(木村)
△6五角
*17時15分頃、永瀬の手が盤上に伸びた。銀のひもを外し、飛車取りに角を飛び出す決断の一手。
*「▲9六飛寄は△8七角成▲9三飛上成△6九金▲同銀△6七香成▲5九玉△5七成香で寄り形です」(服部四段)
*
*※局後の感想※
*「そうか、△6五角で悪いのか」(木村)
▲7三飛成
*横に逃げてはいられない。▲7三飛成と敵陣を突破した。
△3八角成
*時間差で角を切って銀を手に入れた。▲3八同金に△8二銀打で竜と飛車の両取りがかかる。
▲同 金 △8二銀打
*竜と飛車の両取りがかかるのは珍しい。後手玉は懐が深く、▲8二同竜△同銀▲4一銀は△4三玉で容易に寄らない。▲8一飛成△7三銀は、次に△7八飛▲5九玉△6八金から押していく寄せがわかりやすい。
*木村は正座で太ももに両手を突き、両肩を上げて盤をにらむ。しばらくして額に手を当て、首を左右に何度か振った。
*17時30分、この局面で30分の夕食休憩に入った。ここまでの消費時間は▲木村3時間42分、△永瀬3時間56分。夕食の注文は、永瀬がアメリカンクラブサンドイッチとアイスコーヒー、木村は海の幸と野菜のピラフ。対局再開は18時ちょうど。
*対局再開から20分が経過しても、まだ木村に着手の気配はない。18時20分頃、木村の残り時間が1時間を切った。
*「木村さんの苦しい時間が続いています。夕食も喉を通らなかったのではないでしょうか。▲3六角のような手が攻防に利けばいいのですが、現状ではそれも難しいです」(桐山九段)
*
*※局後の感想※
*「本譜ではだめですね。じゃあ、負けなのか」(木村)
▲4一角
*対局再開の一着。夕食休憩を挟んで、約47分の考慮だった。角を捨てて王手をかける勝負手を放った。△4一同玉は▲8二竜と銀を取り、△同銀なら▲6一飛成△4二玉▲5一角△4三玉▲5二銀△5四玉▲6三竜△6五玉▲6六金までの詰み筋が生じる。
*18時40分、永瀬も残り時間が1時間を切った。
△4二玉
*勝負手をかわす玉寄り。▲8二竜△同銀▲6一飛成で後手玉に詰めろがかかるものの、△7八飛▲5九玉△6八金▲4八玉△5八金▲3九玉に△4八金の押し売りが成立する。以下、(1)▲同金は△同飛成▲同玉△4七銀▲3九玉△3八金までの即詰み。(2)▲2八玉も△3八金▲1七玉△2六銀▲同玉△2五歩以下の詰みがある。長手数ながら複雑な紛れはなく、読みやすい。
*「代えて△4三玉と上がって▲6三竜に△9一銀と飛車を取ると、▲5四角△4二玉▲3二角上成△同銀▲5四桂△3三玉▲5三竜以下、詰み筋に入っていました。4二と4三のひとマス違いですが、大きな差があります」(服部四段)
▲5四桂
*木村は勝負と迫る。さらに歩頭桂を打って王手を続けた。
*「△5四同歩は▲6三竜と横歩を取り、△9一銀なら▲3二角成△同銀▲5三角△3三玉▲4四角成以下の詰み筋を狙っています」(服部四段)
△3三玉
*読みきりか、永瀬の着手が早い。すべての王手をかわし、一目散に玉を逃げる。
▲6三龍 △9一銀
*飛車を取って、△7八飛以下の寄せを見た。
▲5九玉
*玉を逃げて危険から遠ざかる。代えて▲5三竜の王手は(1)△4三金打なら先手玉の詰めろが消え、▲6四竜と香を取って立て直せるが、(2)△4三金と節約して受けられると、手に窮していた。
△7八飛
*いよいよクライマックスが近づいている。飛車を打って寄せの網を絞った。
▲6九香
*香を打って△6八金を受けた。
*「△6七香成には▲6八歩の鬼辛抱でしょうか。代えて▲6七同銀は△3八飛成で受けがありません」(服部四段)
*
*※局後の感想※
*「一本道に飛び込んで、変化のしようがありません」(木村)
△6七香成
*香を成って先手玉に襲いかかる。
▲6八歩
*歩を打って飛車の利きを止め、詰めろを解除した。
△5八成香 ▲同 玉 △5二銀
*手にした銀を打って、竜と角の両取りをかけた。▲5二同角成△同金▲同竜は△7六角▲4八玉△4九金までの詰み。▲5二同竜は△同金に▲同角成が詰めろでなく、△6七歩が間に合う。
*「自陣に手を戻す冷静な一着です」(服部四段)
▲同 龍
*角を渡すと先手玉に詰めろがかかる。
△同 金
*※局後の感想※
*「少しずつわかりやすい局面にされましたね。紛れがなくなってしまいました」(木村)
▲同角成 △5四歩
*桂を外して自玉を安全にした。永瀬の棋風である「負けない将棋」の指し回しだ。
▲5六角
*角を打って▲3四馬△2二玉▲2三金以下の詰めろ飛車取り。
△2二玉
*この手で100手に達した。△2二玉までの消費時間は、▲木村4時間39分、△永瀬4時間21分。
*詰めろをかわして玉を逃げた。▲3四馬にも△2三金打と手堅く受けて、後手玉が堅さを増す。
▲3四馬
*馬を引いて詰めろを継続した。
△2三金打
*玉頭に金を打つ金冠で詰めろを外した。同じようでも△3三金打は▲1二金△同香▲同馬で、五番勝負の行方は第5局に持ち越しとなる。
▲4四馬
*先手は角を渡すと△7六角が生じて受けにくい。馬を寄って王手をかけた。このあと5筋の歩を払って桂を取れば、先手玉の逃げ道も広がって受けやすくなる。
△3三歩
*「いやあ、後手玉が堅いですね。先手がつらい局面ですが、まだまだ頑張るでしょう」(桐山九段)
▲2五歩
*鉄壁の後手陣に嫌みをつける合わせの歩。先手は玉が薄く駒を渡さずに攻める必要があって、制約が多い。
△7九飛成
*角の当たりを避けて飛車を成った。△6六桂▲4八玉△6九竜や△7八となど、後手は攻めの手段に困らない。
*19時45分頃、木村の残り時間が10分を切った。木村は読みをまとめるかのように中空をぼんやりと見つめ、席を立った。席に戻った木村はグラスに茶を注いでひと口飲んだあと、がっくりと肩を落とす。
▲2四歩
*木村は持ち時間を使いきるまで考え、2筋の歩を取り込んだ。ここからは1手60秒未満での着手になる。
*
△同 金
*考えはまとまっているのだろう。永瀬はノータイムで歩を払った。
▲2五歩
*歩をたたいて金を上ずらせる。△2五同金なら▲3四銀と被せて▲2三金△同金▲同銀成までの詰めろがかかる。
△6六桂
*▲2五歩は詰めろでない。満を持して、永瀬は先手玉の寄せに着手した。
*木村はうつむく。
▲4八玉
*木村は諦めず、最後まで指し続ける。
△6九龍
*香を取って△4九飛や△5八桂成までの詰めろをかけた。
▲3六歩 △2九龍
*桂を取って駒を補充しつつ、玉頭に竜の利きを足した。攻守にわたって竜が働く手厚い寄せ方。▲2四歩は△5八飛▲3七玉△2五桂の詰み筋が生まれる。
▲2八金打
*金を打って竜を弾いた。手番が回って▲2四歩と金を取れれば、たちまち局面はわからなくなる。終盤は何が起こっても不思議ではない。
*しばし、永瀬が手を止める。ここで残り時間が20分以上残っているのは大きい。
△5八飛
*5分考えて△5八飛と打って王手。▲3七玉に△5七飛成が王手角取りになる。
▲3七玉
*控室にはモニターからの駒音が響く。関係者はモニターを見つめて、勝負の行方を見守る。
△5七飛成 ▲4七香
*角を見捨てた。香を打って王手を防ぐ。
△5六龍 ▲2九金 △3四金
*歩を取らず、馬に当てて金を逃げた。(1)▲5三馬には△2五金と出て、次の△4七桂成▲同金△2六角▲同馬△同金▲同玉△4七竜の寄せを狙える。(2)▲2六馬も△2三香で、玉頭を守りながら要の馬を攻める味がいい。
*この局面で木村が投了した。終局時刻は20時11分。消費時間は、▲木村5時間0分、△永瀬4時間42分(チェスクロック使用)。この結果、永瀬が3勝1敗で王座防衛を果たし、3連覇を達成した。
*
*
*※局後の感想※
*感想戦では、49手目の▲5五角に代えて▲6六飛のほうがまさるとされた。最後に木村は「▲5五角のほうが積極的だと思ったのですが、積極性が裏目に出て、最後まで響いたということですかね。そうか、夕食休憩のところは負けなのか」と話し、感想戦が終了した。
まで122手で後手の勝ち

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