第34期竜王戦七番勝負第4局。豊島将之vs藤井聡太

開始日時:2021/11/12 09:00
終了日時:2021/11/13 18:41
表題:第34期竜王戦七番勝負第4局
棋戦:竜王戦
戦型:角換わり腰掛け銀
持ち時間:8時間
消費時間:122▲450△475
場所:山口県宇部市「ANAクラウンプラザホテル宇部」
備考:昼休前65手目28分\n2日目昼休前85手目22分\n封じ手時刻:18:00<74手目>\n
先手:豊島将之竜王
後手:藤井聡太三冠

*豊島将之竜王に藤井聡太三冠が挑戦している第34期竜王戦七番勝負は、挑戦者の3連勝で第4局を迎えた。藤井は勝てば竜王奪取とともに、史上最年少での四冠を達成。カド番の豊島は逆転防衛に向け、踏みとどまらなければならない。
*対局は11月12、13日(金、土)、山口県宇部市「ANAクラウンプラザホテル宇部」で行われる。立会人は福崎文吾九段、新聞解説は畠山鎮八段、記録係は徳田拳士三段(小林健二九段門下)、現地大盤解説会の解説は大橋貴洸六段、聞き手は村田智穂女流二段。本局の新聞観戦記は大川慎太郎さんが担当する。
*本局の先手は豊島で、持ち時間は各8時間。対局開始は9時で、昼食休憩は12時30分から13時30分まで。1日目の18時を過ぎた時点で手番の者が「封じ手」を行い、2日目に指し継がれる。
*対局1日目、宇部市は昨晩の雨が上がり、明るい空模様。日中の予想最高気温は14度で、外を歩くと強めの風が肌寒く感じた。
*8時40分、対局室の立会席に関係者が並ぶ。中央には福崎九段、日本将棋連盟専務理事の脇謙二九段の姿もある。
*8時45分、先に藤井が入室した。茶色の着物に若芽色の羽織姿。下座に着くと信玄袋からデジタル時計と扇子を取り出す。竜王の入室を待つ間、福崎九段から「暑くないですか?」と声をかけられ、「大丈夫です」と返す場面もあった。
*8時50分、豊島が入室。鼠色の着物に紺碧色の羽織姿。上座に着くと最初に懐中時計を足元に置く。そして藤井と一礼交わし、駒箱を開けて開始の準備に入った。
*
*
*(棋譜コメント入力=夏芽)
*[棋譜表示の*はコメント付きの指し手。#は局後の感想が追記された指し手]
▲2六歩
*9時、立会人の福崎九段が「定刻になりました」と告げ、七番勝負第4局が始まった。
*対局者、関係者が一斉に一礼。
*豊島は初手に2筋の歩を進めると、一度横を向いて記録係を確認する。
*
△8四歩
*藤井の2手目は△8四歩。予想された相居飛車の出だしだ。
*それぞれの第1手を終え、報道陣、関係者が一斉に対局室をあとにした。
▲2五歩
*◆豊島 将之(とよしま まさゆき)竜王◆
*1990年4月30日生まれの31歳。愛知県一宮市出身。桐山清澄九段門下。1999年、6級で奨励会入会。2007年、四段(プロ入り)。2019年、九段。棋士番号は264。
*タイトル戦登場は16回。獲得は竜王2期、名人1期、王位1期、叡王1期、棋聖1期の計6期。棋戦優勝は3回。
△8五歩
*◆藤井 聡太(ふじい そうた)三冠(王位・叡王・棋聖)◆
*2002年7月19日生まれの19歳。愛知県瀬戸市出身。杉本昌隆八段門下。2012年、6級で奨励会入会。2016年、四段(プロ入り)。2021年、九段。棋士番号は307。
*タイトル戦登場は6回。獲得は王位2期、叡王1期、棋聖2期の計5期。棋戦優勝は5回。
▲7六歩
*代えて▲7八金△3二金の進行なら相掛かりだったが、豊島はノータイムで角道を開けた。
*控室に戻った脇九段が「おっ、角換わり」と発し、畠山鎮八段が「腰掛け銀か早繰り銀か、どちらを選ぶかですよね」と続ける。
△3二金
*竜王戦は読売新聞社の主催で、1987年に十段戦を発展的に解消して設立された棋戦。前身の九段戦まで含めると70年以上の歴史を持つ。
*予選は「ランキング戦」と呼ばれる昇降級制のトーナメントで、1組から6組までクラス分けされており、各組の優勝者、上位者による「決勝トーナメント」で竜王への挑戦者が決まる。優勝賞金は棋界最高額の4,400万円である。
*
▲7七角
*豊島は、参加12年目の第32期(2019年)で竜王のタイトルを獲得。歴代10人目の竜王、史上4人目の「竜王・名人」が誕生した。
*前期は羽生善治九段の挑戦を退け、自身初の防衛に成功。今シリーズで3連覇を目指す。
△3四歩
*藤井は今期の竜王戦が参加5年目。
*ランキング戦2組では阿久津主税八段、広瀬章人八段、松尾歩八段、八代弥七段を破って優勝。決勝トーナメントでは山崎隆之八段、八代七段、永瀬拓矢王座に勝ち、初めて竜王への挑戦権を獲得した。
*本局に勝てば八大タイトルの半数、四冠を保持することになる。
▲6八銀
*読売新聞では、オンラインサイトやTwitterなどで竜王戦の情報をリアルタイムで発信している。昨日の様子も更新されているので、あわせてお楽しみいただきたい。
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△7七角成
*開始8分、藤井が角交換に持ち込み、戦型は角換わりに決まった。
▲同 銀
*豊島の通算成績は530勝249敗(勝率0.680)。
*今年度成績は17勝16敗(0.515)で、対局数ランキング3位。
△2二銀
*藤井の通算成績は252勝47敗(勝率0.843)。
*今年度成績は39勝7敗(0.848)で、対局数ランキング1位、勝数ランキング1位、勝率ランキング3位、連勝ランキング1位(19連勝)。
▲1六歩
*インターネットテレビ「ABEMA」では2日間にわたり、竜王戦第4局の模様を動画で配信している。出演棋士は以下の通り。
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△1四歩
*両者の対戦成績は藤井12勝、豊島9勝(千日手1)。
*初手合いから豊島が6連勝と引き離していたが、今年に入って藤井が12勝3敗と巻き返して逆転。
*現在は藤井の6連勝中である。
▲3八銀
*▲3八銀の着手後、豊島は眼鏡を外し、レンズの汚れを拭う。
△6四歩
*△6四歩のところ、代えて△6二銀だと飛車の横利きが止まり、▲2四歩△同歩▲同飛と交換される可能性があった。
*本譜△6四歩に▲6三角は△7二角と合わせれば大丈夫だ。
▲3六歩
*ここまで3連敗の豊島は残り4戦を全勝するしかない。
*厳しい状況だが、ひとつの白星で流れが変わるケースは多く、竜王戦では第21期(2008年)の七番勝負・渡辺明竜王-羽生善治名人戦で、3連敗後に4連勝という大逆転劇が起きている(肩書は当時、結果は渡辺竜王が防衛)。
△6二銀
*これまで四冠の達成者は、大山康晴十五世名人、中原誠十六世名人、米長邦雄永世棋聖、谷川浩司九段、羽生善治九段の5人。
*その中の最年少記録は1993年に羽生九段が達成した22歳9ヵ月。現在19歳の藤井が竜王奪取を決めれば、その数字を塗り替えることになる。
▲4六歩
*豊島が相手の離席中に▲4六歩と進める。
*この一手で▲3七銀~▲4六銀と組む、早繰り銀はなくなった。
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△4二玉
*△4二玉は14分の考慮。
*先手の作戦は▲4七銀~▲5六銀と進める腰掛け銀のほか、▲3七桂~▲4五桂と跳ねていく急戦策も考えられるので、慎重に駒組みを進めたい。
▲7八金
*第4局の開催地・宇部市は山口県の南西にあり、明治期以降、石炭産業を礎に近代的な工業都市として発展した。
*北は自然豊かな丘陵地、南は瀬戸内海に面しており、現在は市全体で「緑と花と彫刻のまち」を発信している。
*今月1日に市制施行100周年を迎え、今回の宇部対局は、その記念事業の一環として開催されている。
*対局場の「ANAクラウンプラザホテル宇部」の旧名は「宇部全日空ホテル」。竜王戦が行われるのは今回が初である。
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△3三銀
*昨日、両対局者はJR新山口駅に着いたあと、送迎車による移動で宇部市立岬小学校を訪問した。創立100年を超える伝統ある学校だ。
*ふたりは吉田衆一校長にあいさつしたあと、児童たちが待つ体育館に向かう。入場後は児童たちの質問に答え、藤井は「面白いと思える気持ちを大切に、興味があること、自分の好きなことに取り組んでほしい」、豊島は「若いときの一瞬一瞬は大切な時間。何かに夢中になれる時間をたくさん作ってほしい」と、それぞれメッセージを送った。
▲6八玉
*その後、両対局者は場所をクラウンプラザホテルに移し、荷物検査のあと、対局室の検分に臨んだ。
*今回使用されている盤、駒、座布団等は将棋連盟が用意したもの。立会人の福崎九段が「部屋の明るさとか、大丈夫ですか?」と確認したが、特に問題点の指摘はなく、検分はわずか5分ほどで終了した。
*床には畳が敷き詰められているが、部屋そのものは洋風で、天井のシャンデリアがきらびやかだ。立会席の後方には金屏風が立てられている。
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△7四歩
*18時30分からはクラウンプラザホテル3階の国際会議場で歓迎式が行われた。
*今回の宇部対局の記念品は、地元の特産「赤間すずり、利休まんじゅう、小野茶」。さらに両者が事前に興味を示していた「宇部ラーメン」も追加で贈られた。
*「赤間すずり」は800年以上の歴史がある伝統工芸品。「利休まんじゅう」は茶人・千利休が茶会の際に必ず振る舞ったとされる一口サイズの蒸しまんじゅう。宇部市の小野地区はお茶の一大産地として知られている。
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▲3七桂
*■歓迎会での藤井の決意表明
*「本局は宇部市の市制施行100周年の記念事業として開催していただき、そのような節目に対局できることをうれしく思います。私は今回、宇部市に初めて訪れたのですが、地元の方に歓迎していただいて、とてもありがたく思っています。明日から第4局になりますが、第3局までの反省を踏まえつつ、一手一手しっかり考えて、よい将棋にしていければと思っています」
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*■豊島の決意表明
*「宇部市の皆さま、市制100周年おめでとうございます。私の地元である愛知県一宮市もちょうど市制100周年で親近感を持っています。今回は対局なので、なかなか観光はできないですが、地元の食べ物などを楽しめたらと思っています。シリーズは3連敗と苦しい展開になっていますが、一局でも多く対局をして盛り上げられるように、精一杯頑張れればと思っています」
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△6三銀
*控室では脇九段、畠山鎮八段、大橋六段の3人が継ぎ盤を挟んでいる。
*△6三銀では▲4五桂の仕掛けに備える意味で代えて△5二金も考えられた。ただし、ここまでの流れを見る限り、藤井は5二金型に組まないと推察している。
*なお、大橋六段と村田智穂女流二段は、このあと14時から現地「宇部市渡辺翁記念会館」での大盤解説を担当する(すでに申し込みは終了)。
▲9六歩
*記録係の徳田拳士三段は山口県の周南市出身。
*竜王戦の記録は、3年前に山口県「春帆楼」で行われた第31期竜王戦七番勝負第7局▲広瀬章人八段-△羽生善治竜王戦(肩書は当時)以来になる。
△5四銀
*10時ちょうど、藤井が先に腰掛け銀に繰り出した。
*データベースでは、代えて△7三桂、△9四歩、△1四歩と指した例があったが、この△5四銀でいったん件数がゼロになっている。
*着手後、豊島、藤井ともに下を向き、悩まし気な様子。後手は9筋を受けないことで先に仕掛ける方針なのだろう。
*時刻は10時を回り、それぞれの控室に午前のおやつが用意された。
*おやつは、豊島が「季節のフルーツ盛り合わせ」と紅茶(レモン)、藤井が「長門ゆずきちのシフォンサンド」とアイスコーヒー。
*長門ゆずきちは、山口県オリジナルの香酸柑橘である。
*
▲4七銀
*▲4七銀は20分の考慮。
*代えて▲9五歩も考えられたが、豊島は攻め駒の活用を優先した。
△6二金
*タイトル奪取にあと1勝と迫った藤井。
*本局に勝てば、竜王戦史上初めて「ランキング戦から七番勝負まで、負けなしで竜王獲得」の記録を残すことになる。
▲9五歩
*▲9五歩の突き越しは、▲7九玉~▲8八玉と移動した際、端の逃げ場を広くしている価値がある。
△7三桂
*桂を跳ね、次に△8一飛と引くのが主流の形。
*互いに角を持ち合っているため、打ち込みの隙ができないように進めなければならない。
▲2九飛 △8一飛
*角換わり腰掛け銀は、事前の研究が生きやすい戦型。
*最近は2日制のタイトル戦でも、研究範囲であれば1日目から駆け足で進むことが多い。
▲3八金
*豊島の▲3八金を見た藤井は、記録係から棋譜を受け取り、ここまでの内容に目を通す。
△4一玉
*「▲3八金△4一玉はポジショニングで、お互いに最善の形で相手に手番を与えようとしています。以下▲5六銀△4四歩▲4九飛△3一玉▲4五歩と進むと、今年7月の有馬温泉の対局(お~いお茶杯第62期王位戦七番勝負第3局▲藤井聡-△豊島戦)に合流しますね」(畠山鎮八段)
*「△4一玉は研究とは言え、初めて見る人はびっくりしますよね」(脇九段)
▲4八金
*▲3八金~▲4八金が1手パスの高等戦術。
*後手も△4二玉~△4一玉と手損しているため、帳尻を合わせている。
*果たして、どちらが先に動くのか。
△4四歩
*【1日目朝の控室】
*https://kifulog.shogi.or.jp/ryuou/2021/11/post-a070.html
▲7九玉
*豊島は玉の移動で、9筋の突き越しを生かしにいく。
△3一玉
*複雑な駆け引きで、データベースの前例も手順前後による合流、分岐が続いている。
*△3一玉の局面で件数は10局(▲7勝△3勝)。藤井は先手番で1局、豊島は先後で1局ずつ公式戦で指している。
▲8八玉
*豊島が▲8八玉と入城し、いったん離席。その間に藤井はあぐらに体勢を変えた。
*前例の次の一手は△6五桂と△2二玉に分岐しており、先手が▲8八銀と引けなくなったため、△6五桂と跳びやすい面がある。
△6五桂
*10時57分、藤井が△6五桂と跳ねていく。
*「豊島竜王も▲8八玉に△6五桂は織り込み済みで、以下▲6六銀△8六歩▲同歩△同飛に▲8七金と上がろうということでしょう」(畠山鎮八段)
▲6六銀
*前にかわして受ける。
*代えて▲6八銀は△5五角のような筋が生じて危なそうだ。
△4二玉
*11時2分、藤井は飛車先交換を急がず、△4二玉と立った。
*ここまでの消費時間は▲豊島52分、△藤井44分。
*
*「代えて△8六歩▲同歩△同飛は▲8七金と上がられた形が堅いので、本譜は△4二玉と立て直しました。先手も、この局面で▲7七桂とはぶつけにくいですし、▲5六銀は△3五歩の攻めが生じるので、▲5六歩と突いておくのでしょうか」(畠山鎮八段)
*データベースの前例は2局まで減り、1局は豊島、もう1局は藤井の将棋がヒットしている。
▲5六銀
*豊島は16分考え、腰掛け銀に進める。自身の前例は代えて▲5八金と寄っていた。
*後手は、持ち駒に1歩あれば△3五歩▲同歩△3六歩の桂頭攻めが狙えるため、控室では△8六歩▲同歩△同飛の交換が予想されている。
△8六歩
*藤井はノータイムの△8六歩で、飛車先の歩を切りにいく。
▲同 歩
*データベースで唯一残っていた前例は、昨年2月の▲藤井聡-△斎藤慎太郎八段戦(ヒューリック杯棋聖戦)。
*▲8六同歩△同飛▲8七歩△8一飛に、藤井が▲4五歩と反発している。
△同 飛
*△6五桂(42手目)と跳ねれば△8六歩▲同歩△同飛の交換は予想される応酬。
*その前の△4二玉▲5六銀の2手が、どちらのプラスかはすぐには判断が難しい。
▲8七歩
*豊島は金を上がらず、▲8七歩と形よく受けた。
△8一飛
*1日目の午前中から50手まで進んだ。
*後手としては、8筋の歩が持ち駒に変わり、まずまずの進行か。
▲4五歩
*今度は豊島が▲4五歩と仕掛ける。そして再び離席。
*一方、藤井は顔を伏せ、目元を覆うように手拭いを顔に当てている。
△3五歩
*1歩を武器に桂頭攻めを決行。▲3五同歩は△3六歩がある。
*「急に激しくなりましたね。まあ、このあとは指し手のペースも落ち着くと思うのですが」(畠山鎮八段)
*「お互いに想定局面というのが、ちょっと怖いですけどね」(脇九段)
▲4四歩
*前例の▲藤井聡-△斎藤慎戦は代えて▲2四歩△同歩▲4四歩の順だったが、本譜、豊島は単に4筋の歩を取り込んだ。
*(1)△4四同銀には▲2四歩。(2)△3六歩には▲4五桂がある。
△3六歩
*藤井は、強く桂頭めがけて歩を突き出す。
*後手は▲4五桂と呼び込み、受けに回る姿勢だ。
▲4三歩成
*豊島は先に歩成りの王手を入れた。
*控室では、数人の関係者から「早い」との声が聞こえる。
*「(1)△4三同金は▲4五桂で先手がいいので、(2)△4三同銀か(3)△4三同玉か。その比較は難しいですね」(大橋六段)
△同 玉
*控室の継ぎ盤には△4三同玉以下▲4五桂△4四銀▲2四歩△同歩▲同飛△3五角の変化が並んでいる。
▲4五桂
*不安定な三段玉を目標に桂を跳ねていく。
*銀がどこに逃げても▲2四歩と突いていくのだろう。
△4四銀
*桂先に出るのが受けの形。
*後手は、次に△4五銀右▲同銀△同銀の桂得を見せることで、先手の攻めを催促している。
▲2四歩
*控室では、立会人の福崎九段がスーツに着替えて戻ってきた。
*また封じ手の時刻が近づけば、和服に着替え直すのだろう。
△同 歩 ▲同 飛
*▲2四同飛に△2三歩なら▲3四角△4二玉▲2三角成で、先手ペースになる。
△3五角
*飛車取りに当てながら、4四の銀にヒモをつけた角打ち。
▲2九飛
*じっと最下段まで引いておく。
*「ここで△4五銀右▲同銀△同銀と取り急ぐのは、▲4四歩と打たれて先手の攻めを浴びそうです」(畠山鎮八段)
*以下(1)△4四同角は▲4六歩△同銀▲4五銀。(2)△5二玉には▲4三銀の追撃が厳しい。
△2七歩
*△2七歩は▲同飛に△2六歩と打つ狙い。先手の飛車先を止め、次に4五の桂を取ろうとしている。
*手番の豊島は、どこから手をつなぐか。
*控室では▲2五角△4二玉▲2二歩の変化が検討されており、以下△同金は▲6五銀△同歩に▲3四桂の王手が厳しい。
*対局室は、外の日差しが強くなってきたか。盤上にうっすらと駒の影が浮かんできた。
*12時30分、△2七歩の局面で豊島の考慮が28分を記録し、昼食休憩に入った。ここまでの消費時間は▲豊島1時間42分、△藤井1時間9分。
*昼食は、豊島が「地魚の刺身御膳」とアイスレモンティー、藤井が「手毬寿し御膳」とアイスレモンティー。対局は13時30分に再開する。
*その後、藤井は13時28分、豊島は13時30分ちょうどに戻った。立会席には畠山鎮八段、徳田三段、そして作家の芦沢央さんが座っている。対局室は休憩中に窓のカーテンが閉められた。
*再開後も豊島の考慮は続く。控室の大橋六段は▲2五角のほか、▲3三歩や▲2七同飛を候補手に挙げた。
*
▲2五角
*13時46分、豊島は昼食休憩を挟む、44分の長考で角の王手を放った。
△4二玉 ▲3六角
*そしてノータイムで3筋の歩を払い、4五の桂を守る。次に2七の歩が取れれば先手の1歩得だ。
*一方、控室の脇九段はモニターを見ながら「△8六歩▲同歩△8五歩の継ぎ歩が気になりますけどねえ」とポツリ。以下▲同歩に△4五銀右▲同銀△同銀▲同角△8五飛で十字飛車の筋がある。
*藤井が羽織を脱ぎ、茶色の着物姿に変わる。そして脱いだ羽織を丁寧にたたんで席の後方に置いた。
*午前中は駆け足で進んだが、おそらく午後は長考合戦だろう。豊島は両手を座布団に置き、前傾姿勢を保っている。
*控室では、福崎九段と畠山鎮八段が大盤解説会のゲスト出演のため「渡辺翁記念会館」に向かった。継ぎ盤の前には脇九段がひとり。
*その後の検討では(1)△8六歩▲同歩△8五歩には▲同歩と取っておき、以下(A)△8六歩なら▲2七飛。(B)△4五銀右▲同銀△同銀▲同角△8五飛なら▲8七歩△7七桂成▲同銀△4五飛▲4七歩で難しい形勢だという。
*脇九段は(2)△7五歩も候補に挙げ、以下▲2二歩△3三桂▲同桂成△同銀▲5五銀直△7六歩という順を示した。
*藤井の考慮が40分を超えた。右手に扇子を握り、時折マスクを外して喉を潤している。
*現在、宇部市は雨が降ったりやんだり。木々の枝が激しく揺れており、強めの風が吹いているのが分かる。
△7五歩
*14時46分、藤井は1時間近い長考で7筋の歩を突いた。
*△7五歩までの消費時間は▲豊島1時間58分、△藤井2時間8分。
*「普通の人なら第一感そこに手がいきますよね」(脇九段)
*取れば△7七歩が生じ、放置しても△7六歩の取り込みが厳しい、いわゆる「筋」の一手だ。
*時刻は15時を回り、それぞれの控室に午後のおやつが用意された。
*おやつは、豊島が「レアチーズケーキ山口県産ブルーベリーソース」とブルーベリージュース、藤井が「和栗のモンブラン」とアイスレモンティー。豊島のブルーベリージュースのみ直接対局室に運ばれている。
*現在、控室には大橋六段が戻っており、(1)▲7五同歩には△9四歩▲同歩△4五銀直▲同銀△7六桂という順を示した。
*(2)▲3三歩には△同桂▲同桂成△同銀▲5五銀直△7六歩が予想される進行。ただし、(3)▲2二歩と打ち、そこで△3三桂と跳ねるしかないなら(2)▲3三歩よりも得だと話す。
*考慮が40分を超えた。豊島は姿勢を正し、顔を上げ、斜め上方向に視線を飛ばす。
*
*
*※局後の感想※
*67手目▲3六角のコメントにある通り、代えて△8六歩▲同歩△8五歩▲同歩△4五銀右▲同銀△同銀▲同角△8五飛の変化は先手陣が堅くなるため、「それよりは△7五歩のほうが嫌だった」と豊島の感想。
▲2二歩
*15時58分、豊島は本日一番の長考(1時間11分)で駒台の歩を敵陣に打ち込んだ。
*△2二同金は▲6五銀直△同歩に▲3四桂の王手金取りが厳しい。
*藤井は前傾のまま、手に持つ扇子を盤の下で開閉する。
*
△3三桂
*軽く3筋に桂をかわす。
*先手の2二の歩は、次に▲2一歩成でと金を作るほか、△3一玉からの逃走を防ぐ足掛かりになっている。
▲同桂成
*▲3三同桂成までの消費時間は▲豊島3時間9分、△藤井2時間21分。
*
△同 銀
*「▲2二歩(69手目)と打てば△3三同銀までは予想されるので、この局面で考え込むようでは少し変調の感じを受けます。第一感は▲4五銀でしょうか。以下△同銀▲同角△5四銀▲2七角△7六歩▲4三歩で、どちらも迫力のある攻め合いになりますね」(畠山鎮八段)
*
▲4五銀
*39分の考慮で腰掛け銀をさばきに出た。
*代えて▲5五銀直のほうが角筋は軽いが、本譜の▲4五銀は次に▲3四歩や▲3四桂と打つ狙いがある。
*手番の藤井がいったん棋譜用紙を確認。現時点で両者の消費時間は1時間以上の差がついている。
*控室の畠山鎮八段は「▲4五銀に△7六歩は▲3四歩が厳しいので、後手は△4五同銀と取る一手でしょう」と話し、先述の▲同角△5四銀▲2七角△7六歩の進行を予想。先手だけ銀を持ち駒に変えられる点は大きいが、△7六歩の取り込みも相当なプレッシャーだ。
*時刻は17時を回り、封じ手の時刻まで残り1時間を切った。
*藤井が熟考しながら手に持つ扇子を軽く回す。もしかしたら、このまま動かず、封じ手に入るかもしれない。控室には、すでに福崎九段、畠山鎮八段の署名が入った封じ手用の封筒が2通用意されている。
*宇部市は夕暮れ時で、外が少しずつ暗くなってきた。対局室では豊島が腕組み。記録係の徳田三段は、封じ手を記入する図面用紙を作っている。
*17時50分、藤井が置いていた羽織の袖に腕を通した。やがて和服姿の福崎九段、畠山鎮八段が入室。
*そして立会人の福崎九段が18時を告げると、藤井はすぐに次の一手を封じる意思を示した。用具一式を受け取り、いったん対局室を離れる。封じ手の考慮は1時間8分。よって1日目の消費時間は▲豊島3時間48分、△藤井3時間29分。
*18時6分、封じ手の記入を終えた藤井が戻った。豊島が2通の封筒を受け取り、赤いペンで署名する。そして再び藤井の手に戻り、改めて立会人の福崎九段に預けられた。封じ手は明日の9時に開封される。
*控室の福崎九段、脇九段、畠山鎮八段は(1)△4五同銀を予想。徳田三段は(2)△7六歩、大橋六段は(3)△2四桂、村田女流二段は(4)△4四桂と、それぞれ別の候補手を挙げた。
*対局2日目、宇部市は朝の時点で曇り空だが、午後には晴れ間が見えるとの予報。
*8時30分、対局室には福崎九段がいちばん早く入り、立会席で扇子をあおぎながら待機している。続いて徳田三段が入室し、対局用の駒箱を盤上に置く。脇九段と畠山鎮八段が立会人の両隣に座り、あとは対局者を待つのみとなった。
*8時44分、先に藤井が対局室に入った。時計と扇子をいつもの位置に置き、両手をウェットティッシュで丁寧に拭く。
*8時50分、豊島が入室。懐中時計を置き、盆の上の配置を少し変えたあと、一礼して駒箱を開けた。両者「大橋流」の順で駒を並べていく。
*8時56分、徳田三段の読み上げに合わせて1日目の再現が始まった。
*9時3分、立会人の福崎九段が場所を移動。封じ手が未開封であることを両対局者に見せ、2通の封筒にハサミを入れた。
*
*
*※局後の感想※
*代えて(ア)▲5五銀直は△7六歩▲4五桂△8五桂で「後手の攻めが厳しいかと思いました」と豊島のコメント。
*(イ)▲3九飛は有力で、豊島は「飛車を使える形にしておかないといけなかった」と話す。以下(A)△3四歩には▲4五銀△7六歩▲5四銀△同銀▲同角△6三銀▲3二角成△同玉▲3五飛△同歩▲2一角。(B)△2六角には▲3七金△4四角▲3四歩が感想戦で並べられた変化。
△同 銀
*「封じ手は△4五同銀です」(福崎九段)
*その読み上げのあと、藤井が実際に駒を動かす。前日の控室でも予想の本命に挙がっていた一手だ。
*そして改めて全員で一礼し、対局2日目が始まった。
*
*
*※局後の感想※
*豊島は代えて△4四桂▲3四歩△同銀▲同銀△3六桂▲3七金の順でも自信がなかったという。
▲同 角
*豊島のほうも、銀は取る一手と予想していたのだろう。
*▲4五同角はノータイムの着手だった。
△5四銀
*△5四銀が先手を取る受け。藤井は羽織を脱いで着物姿に変わった。
*控室では、再開を見届けた関係者が戻り、早速、脇九段と畠山鎮八段が継ぎ盤に駒を並べ始めている。
▲4三歩
*9時16分、豊島は角を逃げず、歩を王手を一発利かした。
*「このタイミングの▲4三歩は、ちょっと意外ですね」(脇九段)
*「代えて▲2七角では思わしくないと見たのか、本譜の▲4三歩は、より踏み込んだ感じですね。藤井三冠も意表を突かれたと思います。(1)△4三同金▲2三角成△3四銀の順から考えますが、そこで▲4七桂、▲4四歩、▲2七飛など色々あります。(2)△4三同玉▲5五桂△4四玉は『あなたの攻めは無理ですよ』という指し方ですが、この順は一手間違えると負けになるので怖いです」(畠山鎮八段)
△同 金
*藤井は23分考え、金で取る道を選んだ。
*▲2三角成に△3四銀と立てば馬の逃げ場がない。以下(1)▲2七飛には△8六歩▲同歩△8七歩▲同金で守り駒をつり上げれば、△2三銀▲同飛成に△3四角のカウンターが厳しい。
*「▲4三歩(77手目)が踏み込んだ手なので、△同金に▲2七角と引くようでは失敗だと思います。▲2三角成△3四銀に(2)▲4七桂なら△2六角▲2四馬△3三金▲同馬△同玉▲3五歩△4三銀左▲2七飛△4八角成▲4四歩で、この変化は9五歩型が生きるかもしれませんが、少し先手が無理をしている感じがありますね」(畠山鎮八段)
*時刻は10時を回り、それぞれの控室に午前のおやつが用意された。
*おやつは、豊島が「プリンアラモード」と紅茶(レモン)、藤井が「レアチーズケーキ山口県産ブルーベリーソース」とアイスカフェラテ。
*豊島の考慮中に、藤井がいったん席を外す。おそらく控室のおやつを食べに戻ったのだろう。
*
▲2三角成
*10時7分、豊島は相手が戻る前に▲2三角成を指した。
*ここまでの消費時間は▲豊島4時間24分、△藤井3時間52分。
*そして藤井が戻ると、入れ替わるように豊島が対局室を出ていく。
*「△8六歩はいつでも入るので、単に△3四銀と立つと思うのですが、藤井三冠が少し考えていますね」(畠山鎮八段)
*控室の片隅には対局者のおやつと同じ、撮影用のものが運ばれており、プリンアラモードは畠山鎮八段が、レアチーズケーキは村田女流二段が頂いている。
*
△3四銀
*△3四銀は25分の考慮。この一手で先手は馬の逃げ場がない。
▲3九飛
*10時34分、豊島は飛車を1マス寄り、△2三銀に▲3五飛を用意した。
*同じ狙いで、代えて▲2七飛△2六歩▲3七飛という順も考えられたが、▲2七飛には先述の△8六歩が厳しいとの判断だろう。
*「(1)△2三銀▲3五飛△3四銀でよければ明快ですが、このタイミングで(2)△8六歩も考えられます。以下▲同歩△8七歩▲同金△8五歩▲同歩△8六歩▲同金に△7四桂と打つ狙いですが、藤井三冠のほうは先手の9五歩型が生きない順で迫りたいですね。現局面は後手を持って指してみたいです」(畠山鎮八段)
*対局室では、藤井が正座を崩し、低めの前傾姿勢で熟考している。
*時刻は11時を回り、藤井の考慮が30分を超えた。
*その後、控室では(1)△2三銀▲3五飛△3四銀に、▲同飛△同金▲4六桂という順が検討された。以下(A)△4四金なら▲5四桂から攻めが続きそうだが、▲4六桂には「両取り逃げるべからず」の(B)△8六歩で後手が指せそうだという。
*11時34分、1時間超えの長考になった。一直線の斬り合いになる変化もあるため、勝負どころと言える局面だ。
*豊島はじっと腕組みをし、視線を上に飛ばす。
△2三銀
*時刻は12時を回り、藤井は1時間27分の長考で馬を取った。
▲3五飛
*豊島はすぐに角を取り返し、駒台の持ち駒をそろえ直す。
*ここで(1)△3四銀は「優勢を意識した自然な一手」と畠山鎮八段。ほかに持ち駒の4歩を生かして(2)△8六歩▲同歩△8七歩で迫る順もあるという。
△4四角
*12時7分、藤井は△4四角という飛車取りの一手を放った。
*8八の玉を間接的ににらんでおり、次の△7六歩がより厳しくなる価値がある。4四の地点を埋めることで▲4四歩と打たれる筋も消えた。
*豊島が記録机のほうをのぞき込む。先手は飛車の引き場所が難しく、▲3九飛は△2八歩成がある。
*「(1)▲3八飛は△2八歩成が当たるので、(2)▲3七飛と引くのでしょうか。△7六歩と取り込まれた局面で、先手に厳しい攻めがあるかどうか。後手は色々考えられた中で△4四角を打ったので、△7六歩のあと△6六角から寄せにいく順も考えていると思います」(大橋六段)
*12時30分、昼食休憩の時間になった。豊島は席を離れたが、藤井は座ったまま盤面を見続けている。
*△4四角の局面で豊島が22分考えたため、ここまでの消費時間は▲豊島4時間47分、△藤井5時間49分。
*2日目の昼食は、豊島が「高森ハーブ鶏の親子丼」とアイスレモンティー、藤井が「山口名物ふくフライカレー」とアイスレモンティー。
*山口県では魚のフグのことを「ふく」と呼び、福とかけて縁起を担ぐという。
*藤井が13時28分に戻る。羽織は対局室に置いたまま。フェイシャルペーパーで顔の汗を拭う。
*13時30分、徳田三段が「時間になりました」と告げた直後、豊島が対局室に入ってきた。いよいよ、このあとは終局まで休みなく指し継がれる。
*
*
*※局後の感想※
*藤井は局後のインタビューで「△4四角がよくなかった」とコメント。代えて△3四銀と上がり、▲同飛△同金▲4六桂に△8六歩と攻め合う順が有力だった。
▲3八飛
*13時52分、豊島は選んだ引き場所は二段目だった。
*代えて▲3七飛と違って△2八歩成が当たる位置だが、現局面なら▲2八同飛が銀取りになる。
*対局が再開し、「読売新聞オンライン」では現地の大盤解説会の模様をライブ配信している。解説は大橋六段、聞き手は村田女流二段。立会人の福崎九段もゲストで出演する予定である。
*14時3分、藤井は残り2時間を切った。
*宇部市は朝の曇り空から少しずつ青空に変わってきた。対局室の窓からは宇部港が一望できるが、眺める余裕はあるだろうか。
*「普通は△7六歩▲5六桂に(1)△6六角で勝てればよいですが、以下▲同歩△7七歩成▲同桂△7六桂▲7九玉△6八銀▲同金△8七飛成▲7八金△7七竜▲同金△同桂成で、そのときに後手玉が▲3一銀から詰んでしまいます。なので後手も▲5六桂に(2)△2八歩成か(3)△3七歩かを入れて、小技を絡めないと簡単ではないでしょう」(畠山鎮八段)
*
△7六歩
*14時44分、藤井は取った1歩を駒台に置き、押し出すような手つきで△7六歩と進めた。
▲3五桂
*相手の長考中に手を決めていたのか、豊島はわずか2分の考慮で▲3五桂を打った。
*やがて離席していた藤井が戻り、徳田三段が「指されました」と伝える。
*控室の畠山鎮八段は「▲3五桂ですか」と意外そうな反応。4四の角を残したまま攻め合うのは考えにくいという。
*時刻は15時を回り、午後のおやつが用意された。
*おやつは、豊島が「マスクメロンのタルト」とアップルジュース、藤井がブルーベリージュースとジンジャーエール。飲み物は対局室に運ばれ、豊島のタルトは控室に用意されている。
*後手は△2八歩成の利かしが入るかどうか。以下(1)▲同飛に△8五桂と攻め合う狙いだが、飛車を逃げずに(2)▲4三桂成△同銀▲3一銀という強襲もある。指すとしても正確な読みが必要な局面だ。
*
*
*※局後の感想※
*代えて▲5六桂が有力だった。感想戦では以下△7七歩成▲同桂△7六桂▲7九玉△2八歩成▲同飛△6六角▲同歩△6八銀▲同金△8七飛成▲7八金△7七竜▲同金△同桂成▲3一銀△5一玉▲7一飛の変化が並べられ、豊島は「こういう展開になるとは思っていなかったので、▲5六桂では負けなのかなと思いました」とコメント。
△8五桂
*15時5分の着手。△8五桂までの消費時間は▲豊島5時間11分、△藤井6時間59分。
▲8六銀
*持ち駒の銀を使い、7七の地点を補強する。そして、この局面で藤井は残り1時間を切った。
*「お互いに力を発揮して面白い局面になりましたね。▲8六銀に、いきなり(1)△6六角▲同歩△7七銀と踏み込んでもまだ足りないのかな。後手玉も危ない形なので、一回は(2)△3四銀▲4三桂成△同銀右と受けに回っておきたいですかね」(福崎九段)
*「△2八歩成は利かしたいですが、△3七歩▲同飛△3六歩の連打とどちらが得かは難しいです」(畠山鎮八段)
△7七歩成
*15時20分、藤井は先手の飛車に働きかけず、単に△7七歩成と王手をかけた。
*
▲同 桂
*控室の継ぎ盤には▲7七同桂△同桂左成▲同銀左△同桂成▲同金の局面まで並んでいる。
△同桂左成
*藤井の残り時間は47分。
▲同銀左
*先手は4四の角が警戒すべき駒。
*そのため、6六の銀はそのまま動かさずにラインを止めておきたい。
△同桂成 ▲同 金
*この局面でも代えて▲7七同銀では△7六歩の追撃が厳しい。
△6五桂
*もう一度6筋に桂を据え、守りの金をはがしにいく。
*控室では福崎九段と畠山鎮八段が▲4三桂成△同銀▲5五桂△同角▲同銀と進めた局面を考えている。
*「形勢はどちらがいいの?」(福崎九段)
*「いやあ、どちらも数十手先に攻防手があるような局面なので、すぐには判断が難しいです」(畠山鎮八段)
▲4三桂成
*豊島は9分を費やし、先に守りの金をはがした。3八の飛車が攻めに働いてくるか。
△同 銀
*対局室では、両者ともに前傾姿勢。藤井が少し体を前後に揺らしている。
▲5五桂
*銀取りをかけながら角道を止めた攻防手。
*「お互いに足を止めて、すごい殴り合いになりましたね。(1)△5五同角▲同銀△8五桂の攻め合いは、▲3三角△5二玉に▲7四角の攻防手があるので利かないです。あとは(2)△7七桂成▲同玉△7六歩▲6八玉△7七銀▲5九玉△6六銀不成とかですが、それも▲4三桂成△同玉▲3五桂の順でどうなっているか」(畠山鎮八段)
*時刻は16時を回り、豊島がいったん席を立つ。その間に藤井は残り30分になった。
*検討では(3)△7五桂という手も示されたが、▲7九桂の受けや▲9六角の攻防手で、はっきりしないという。
*藤井は残り15分を切ったが、まだ前傾のまま集中しており、指しそうな気配がない。
△7七桂成
*残り10分になるまで考え、△7七桂成を着手。
▲同 玉
*豊島は時間を使わず、指し進める。
△7六歩
*藤井のほうは、残り10分になり、徳田三段による秒読みが始まっている。
▲6八玉
*控室で検討されていた手順で進む。
△8七飛成
*藤井は自玉への反撃を恐れず、△8七飛成と踏み飲んだ。
*控室の畠山鎮八段は▲4三桂成△同玉▲5五桂の順を示し、以下(1)△5二玉は▲4三角で後手玉が詰む。
*「うーん、モニターの藤井三冠は、勝ちを確信している感じには見えないですけどねえ」(脇九段)
*手番の豊島は、右手を頬に当てながら前のめりで考えている。
*検討の中心は▲4三桂成△同玉▲5五桂に(2)△同角▲同銀△7七歩成。以下▲5八玉△6七と▲4七玉と逃走してぎりぎりの攻防だ。
*豊島が途中で一度、記録机をのぞいて時間を確認する。
*(2)△5五同角▲同銀に△5六桂という捨て駒も考えられるが、以下▲同歩△7七歩成▲5八玉△6七と▲4七玉△6六との開き王手に▲5七桂の合駒が攻防だという。
*この難解な局面で、持ち時間を2時間以上残しているのは大きい。藤井はマスクを外し、湯飲みのお茶をひと口。
*16時55分、豊島の考慮が30分を超えた。
*先手は▲4三桂成△同玉▲5五桂△同角の局面で、先に▲3五桂と打つ手もあって悩ましい。
*考慮が50分を超えたところで、豊島がいったん席を立った。藤井は前傾のまま盤上に集中している。
*席に戻った豊島はアイスティーのストローに口をつける。カド番の立場としては、ここは大量の時間を注いででも勝ちを探したい局面だ。
*その後、控室にはABEMAのマルチアングル放送に出演中の杉本昌隆八段、高見泰地七段、藤森哲也五段が立ち寄っている。杉本八段は藤井の師匠。ちょうど本日11月13日が53歳の誕生日だ。
*継ぎ盤では▲4三桂成△同玉▲5五桂(2)△同角▲同銀△5六桂▲同歩△7七歩成▲5八玉△6七と▲4七玉に、△5八とと入る変化が調べられている。以下▲5七桂は△4八と▲同飛△4六歩で危ないため、この場合は▲5七銀の合駒でどうなっているか。
*時刻はもうすぐ18時。ホテルの外はすっかり暗くなっている。
*そして17時54分、ついに豊島も残り1時間を切った。
*「あまり考えすぎると相手にも『簡単じゃないんだな』というのが伝わるので、藤井三冠も元気が出てくるかもしれませんね」(畠山鎮八段)
*
▲4三桂成
*18時5分、豊島の手が動いた。
△同 玉
*残り時間は▲豊島50分、△藤井9分。
▲5五桂
*天王山から桂の王手。藤井が一度顔を上げ、天井に視線を飛ばす。
△同 角
*桂を食いちぎり、手番を取りにいく。
*先手は▲5五同銀か▲3五桂か。
▲3五桂
*控室では「打ちにくい」と言われていた▲3五桂を選ぶ。
*
*※局後の感想※
*感想戦では代えて▲5五同銀の変化が検討され、以下△5六桂▲同歩△7七歩成▲5八玉△6七と▲4七玉△5八と▲5七桂△4八と▲同玉△5九銀▲4七玉△4八金▲3六玉△3五歩で「先手玉がほとんど詰みに近い形なので、負けなのかなと思った」と豊島の感想。
*しかし、△3五歩に▲同玉と取り、(1)△3四銀なら▲2六玉△2五金▲1七玉△3八金▲4四金△5二玉▲3四金。(2)△2四金なら▲2六玉△3四桂▲同飛△同銀▲4四歩△3三玉▲5一角△4二歩▲同角成△同玉▲4三銀で難しかったとされた。
△5二玉
*「これは△5二玉と引かせておくことで、あとで△7七歩成から迫られた際に、玉が攻め駒にならないようにしたんですね」(畠山鎮八段)
▲5五銀
*▲5五銀と角を取り、この局面で藤井に手番が回った。
△5六桂
*ノータイムで桂の捨て駒を放つ。
▲同 歩
*いよいよ局面はクライマックス。果たして勝利の女神はどちらに微笑むか。
△7七歩成
*△7七歩成▲5七玉△6七とで、後手の王手が続く。
▲5七玉 △6七と
*と金の活用で先手玉を寄せにいく。
▲4六玉
*豊島は上に玉をかわし、開き王手の筋を避けた。
*「藤井三冠、残り8分です」(徳田三段)
△3四桂
*継ぎ盤では畠山鎮八段、高見七段、藤森五段が△3四桂に▲3六玉とかわした局面を考えている。
*相当際どい局面なのだろう。駒は動くことなく、口数も少ない。
▲4七玉
*豊島は3分考えて下に引いた。
*代えて▲3六玉は△2四桂▲4五玉△4四歩の順で、先手玉が詰んでいたようだ。
△5八と
*と金を入って開き王手。(1)▲5八同玉は△4六桂打と迫って詰んでいる。
*(2)▲5七桂には△4八と▲同玉に△3六桂の捨て駒があり、▲同飛と取ると△5九銀と下段に落として先手玉は詰む。
*
▲3六玉
*豊島は5分を使い、上に逃げた。
*藤井は顔を伏せて頭の中で読みをまとめる。
△2五金
*どうやら藤井が競り勝ったか。△2五金に(1)▲同玉は△3三桂▲3六玉△2五銀までの詰みだ。
*対局室は、手番の豊島が席を外しており、藤井はすでに読みきっているのか、前傾だった体を起こしている。
*△2五金に(2)▲4五玉なら△3五金▲同玉△2四銀打▲4四玉△3二桂▲4五玉△3三桂▲3六玉△2五銀▲3五玉△2四銀までの詰み。
*豊島は10分を消費したところで、次の手を指さずに投了した。終局時刻は18時41分。消費時間は▲豊島7時間30分、△藤井7時間55分。
*この結果、七番勝負は藤井が4連勝で竜王を奪取。史上最年少(19歳3ヵ月)で四冠を達成し、序列1位の座に着いた。
*
まで122手で後手の勝ち

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