第71期ALSOK杯王将戦七番勝負第2局。渡辺明vs藤井聡太

開始日時:2022/01/22 09:00
終了日時:2022/01/23 16:15
表題:第71期ALSOK杯王将戦七番勝負第2局
棋戦:王将戦
戦型:角換わりその他
持ち時間:各8時間
消費時間:98▲415△401
場所:大阪府・山水館
備考:昼休前49手目59分\n2日目昼休前76手目36分\n封じ手時刻:18:22<58手目>\n
先手:渡辺明王将
後手:藤井聡太竜王

*渡辺明王将に藤井聡太竜王が挑んでいる第71期ALSOK杯王将戦七番勝負は、第1局を藤井が競り勝ち、タイトル奪取に前進した。
*続く第2局は1月22、23日(土、日)、大阪府高槻市「山水館」で行われる。藤井が連勝で引き離すか、それとも渡辺がタイに追いつくか。
*本局の先手は渡辺で、持ち時間は各8時間。対局開始は9時で、昼食休憩は12時30分から13時30分まで。封じ手は1日目の18時を過ぎた時点で手番の者が行う。
*立会人は谷川浩司九段、副立会人は稲葉陽八段、記録係は折田翔吾四段、観戦記は関口武史指導棋士五段がそれぞれ務める。
*対局1日目、高槻市は曇り空。昨日は雪がちらついていたが、今朝も凍てつく寒さだ。
*開始20分前、立会席には谷川九段を中心に関係者が座っている。その周囲には一般の将棋ファン。昨年中止になった、王将戦の70周年記念のクラウドファンディングで観戦する予定だった人たちだ。
*8時48分、先に茶色の羽織姿の藤井が入室。その1分後、薄紫色の羽織を着た渡辺が姿を見せた。それぞれ席の右側には飲み物類、左側には脇息と膝掛けが用意されている。
*渡辺が駒袋から駒を出し、両者が交互に初形の位置に並べていく。
*そして8時55分、準備が整うと、ふたり同時にマスクを外し、湯飲みのお茶を口にした。
▲2六歩
*定刻9時、谷川九段が「定刻になりました。第71期ALSOK杯王将戦七番勝負第2局、渡辺王将の先手で始めてください」と告げた。
*対局者、関係者が一斉に一礼。
*渡辺が1分を消費して2筋の歩を突くと、静かな対局室にカメラのシャッター音が鳴った。
△8四歩
*互いに飛車先を突く、相居飛車の出だし。
*それぞれの第1手を指し終え、報道陣や関係者が対局室を出る。
▲2五歩
*◆渡辺 明(わたなべ あきら)王将(名人・棋王)◆
*1984年4月23日生まれの37歳。東京都葛飾区出身。所司和晴七段門下。1994年、6級で奨励会入会。2000年、四段(プロ入り)。2005年、九段。棋士番号は235。
*タイトル戦登場は40回。獲得は王将5期、竜王11期(永世竜王)、名人2期、王座1期、棋王9期(永世棋王)、棋聖1期の計29期。棋戦優勝は11回。
△8五歩
*◆藤井 聡太(ふじい そうた)竜王(王位・叡王・棋聖)◆
*2002年7月19日生まれの19歳。愛知県瀬戸市出身。杉本昌隆八段門下。2012年、6級で奨励会入会。2016年、四段(プロ入り)。2021年、九段。棋士番号は307。
*タイトル戦登場は7回。獲得は竜王1期、王位2期、叡王1期、棋聖2期の計6期。棋戦優勝は5回。
▲7六歩
*王将戦はスポーツニッポン新聞社と毎日新聞社が主催している棋戦。綜合警備保障株式会社のコーポレートブランド「ALSOK」が特別協賛しているほか、囲碁将棋チャンネル、立飛ホールディングス、inゼリーが協賛に加わっている。
*一次予選と二次予選はトーナメント。その予選を通過した3人にシード棋士4人を加えた計7人による「挑戦者決定リーグ戦」を制した者が七番勝負の挑戦権を獲得する。
△3二金
*本局はテレビ放送の囲碁・将棋チャンネル(J:COM、ケーブルTV、スカパー!、ひかりTV)で生中継されている。
*また、インターネットサイトの将棋プレミアム(要有料会員登録)でも動画配信があり、1日目の解説は八代弥七段、聞き手は貞升南女流二段が担当。
*明日の対局2日目は広瀬章人八段、観戦記者の内田晶さんが出演予定である。
▲7七角
*渡辺の通算成績は701勝359敗(勝率0.661)。
*今年度成績は18勝13敗(0.580)。
△3四歩
*藤井の通算成績は260勝52敗(勝率0.833)。
*今年度成績は47勝12敗(0.797)で、対局数、勝数、連勝(19連勝)の3部門のランキングで1位。勝率ランキングは3位。
▲6八銀
*両者の対戦成績は藤井9勝、渡辺2勝。
*タイトル戦で相まみえるのは3度目。2日制は今回の七番勝負が初めてである。
△7七角成
*開始10分、藤井が角交換に持ち込み、第2局の戦型は角換わりに決まった。
▲同 銀
*第2局は地元の高槻市、高槻市観光協会が共催として携わっている。
*山水館で王将戦が行われるのは第68期(2019年)から数えて4回目。渡辺は過去2勝1敗の成績を残している。
△2二銀
*本日と明日の2日間、高槻市立生涯学習センター(多目的ホール)では大盤解説会が行われている。解説は副立会人の稲葉陽八段、聞き手は里見咲紀女流初段。
*こちらの申し込みはすでに締め切られている。
▲4八銀
*▲4八銀のところ、代えて▲2四歩△同歩▲同飛の交換は、△3五角から馬を作られてしまう。
△6二銀
*藤井の王将戦の成績は28勝8敗(勝率0.778)。
*前期はリーグ陥落の憂き目を見たが、今期は二次予選と挑戦者決定リーグ戦を勝ち抜き、初めて七番勝負への挑戦権を獲得した。
*今シリーズで奪取を果たせば、史上最年少で五冠達成である。
▲3六歩
*渡辺の王将戦の成績は67勝43敗(勝率0.609)。
*参加12年目の第62期で初めて挑戦権を獲得し、タイトル奪取に成功した。
*七番勝負は今シリーズが7回目。防衛すれば4連覇、通算6期目の王将獲得になる。
△3三銀
*三冠対四冠、席次1位対2位の頂上決戦は、今月9日(日)に静岡県掛川市「掛川城 二の丸茶室」で開幕した。
*戦型は相掛かりで、終盤まで形勢不明の大熱戦だったが、最後は藤井がねじり合い制して先勝。渡辺は初めて掛川城の対局に敗れた。
*先後を入れ替えて迎えた第2局。開幕戦と違い、事前に先後が決まっているため、それぞれ作戦を立てやすい面はあっただろう。
▲3七銀
*渡辺が3筋に右銀を上がる。先手は「早繰り銀」と呼ばれる作戦だ。
△7四歩
*第2局の開催地である高槻市は大阪平野の北東、大阪と京都の中間に位置しており、鉄道や高速道路など、交通の利便性のよさが魅力のひとつ。
*一方で、市の北部は山間地であり、今城塚古墳や安満遺跡、高槻城跡など、自然と歴史を感じられる観光スポットも多い。
▲7八金
*対局場の「山水館」は摂津峡の上流にある一軒宿。花の里温泉は近畿圏では珍しいラドンの成分を含み、露天風呂では芥川のせせらぎを聞きながら温まることができる。
*王将戦の開催は4期連続4回目。対局は5階の貴賓室で行われており、1階の廊下には過去の高槻対局の写真や揮毫などがたくさん飾られている。
*
△7三銀
*藤井も早繰り銀を選び、盤上は先後同型になった。
▲4六銀
*渡辺が先に居玉のまま右銀を出る。
△9四歩
*まだデータベースでも前例の多い局面。
*藤井は、今期の二次予選で稲葉八段と同じ形を指しており、△9四歩以下▲9六歩△6四銀▲1六歩△1四歩▲6六歩△7五歩と、先に仕掛けている。
▲9六歩
*高槻市と日本将棋連盟は、2018年に自治体で初めて包括連携協定を締結。高槻城三の丸跡からは江戸時代の将棋の駒が多数発掘されている。
*市ゆかりの棋士も多く、明治生まれの(故)中井捨吉八段をはじめ、その弟子の浦野真彦八段は市の教育委員を務めている。
*ほかにも現役最年長の桐山清澄九段や、渡辺の義理の兄の伊奈祐介七段、福崎文吾九段、東和男八段、長沼洋八段、古森悠太五段らが在住等で携わっている。
△6四銀
*そして2023年度には、関西将棋会館が高槻市に移転することが決定。場所はJR高槻駅の近く。将棋のまちは、新たな将棋の聖地として引き継がれる。
*先日、高槻市が建設への支援を募ったクラウドファンディングでは、2000人を超える支援者の力で目標金額を達成した。
▲1六歩
*昨日の移動日、両対局者は検分前に安満遺跡公園で記念撮影を行った。
*安満遺跡は弥生時代の環濠(かんごう)集落跡を含む、およそ72万平方メートルに及ぶ集落遺跡。昨年3月に全面オープンした。
*
△1四歩
*それから山水館に場所を移した両対局者は、15時30分から対局室の検分に臨む。
*立会人の谷川九段が見守る中で、それぞれ盤駒の感触を確認。部屋の明るさなどに特に問題点はなく、検分そのものは数分で終了した。
*その後は、ふたり入れ替わる形で揮毫と主催紙インタビューに対応。揮毫は渡辺が「大望」「勇躍」「新慶」など、藤井は「飛翔」と記していた。
*
▲6六歩
*代えて▲3五歩と先に動いた例もあったが、渡辺は3分を消費し、▲6六歩と突いた。
*データベースの前例は、先述の▲稲葉-△藤井聡戦を含めて20局(▲11勝△8勝、1千日手)。
△7五歩
*9時44分、藤井は自身の前例をなぞり、△7五歩と仕掛けていく。
▲同 歩
*先手は2筋、後手は8筋の飛車先が攻撃目標。
*「後手が△7五歩と仕掛けたので、お互いに居玉がいちばん堅い、ということも考えられますね」と控室の谷川九段。
△同 銀
*ノータイムで銀を出ていく藤井。▲7六歩には引かずに△8六歩がある。
▲2四歩
*▲2四歩は△同歩に▲2五歩と合わせる狙い。「継ぎ歩」と呼ばれる3手1組の手筋だ。
△同 歩 ▲2五歩
*▲2五歩に△同歩と取ると▲同飛が銀桂の両取り。十字飛車の活用で先手が駒得に立てる。
△7六歩
*先手は△7六歩に対し、どちらに銀を引くか。
*先述の▲稲葉-△藤井聡戦は▲8八銀だったが、それまでの前例5局は▲6八銀と右に引いている。
▲6八銀
*渡辺は多数派の▲6八銀を選択。
*代えて▲8八銀と比べると、玉周りは堅いが8筋は薄い。
△8六歩
*どんどん指し手が進む。互いに研究十分の形なのだろう。
▲同 歩
*控室では、稲葉八段が自身の前例を振り返りながら「△7六歩に▲8八銀はやってみたかった手ですが、本譜の▲6八銀のほうが一般的ですね」とコメント。
△同 飛
*△8六同飛で、データベースの前例は1局に絞られた。
*2020年12月に行われた第46期棋王戦▲糸谷哲郎八段-△永瀬拓矢王座戦で、△8六同飛▲8七歩に△8四飛と引いている。
▲8七歩
*昨日、両対局者は「ホテルアベストグランデ高槻」で開かれた前夜祭に出席した。
*今回の高槻対局の記念品は丸大食品のハム「王覇」。丸大食品は高槻市に本社を置き、王覇はモンドセレクション最高金賞を10年連続で受賞した逸品だ。
*壇上のスピーチで渡辺は「第1局の反響が非常に大きかったので、2局目以降もそういった戦いを目指したい」と述べ、藤井は「高槻を『将棋のまち』として盛り上げていけるような熱戦にできれば」と語っている。
△8四飛
*藤井は時間を使うことなく、飛車を四段目まで引く。
*次に△7三桂を跳ねた際に桂頭の守りに役立つ位置だ。
▲2四歩
*継ぎ歩を生かした取り込み。△2二歩と受けさせれば、後手は2筋が壁形になる。
*
△2二歩
*一昨日に発売されたスポーツ総合雑誌『Sports Graphic Number』では、将棋名勝負特集と題し、多くの棋士が登場している。
*表紙は藤井が飾っており、冒頭では今期の王将戦七番勝負第1局の模様が掲載。渡辺も2008年に「永世竜王」を獲得した第21期竜王戦七番勝負第7局のことについて、インタビューに答えている。
▲6七銀
*▲6八銀~▲6七銀が金との連結を強めた立て直し。
*時刻は10時を回った。
△4二玉
*「△4二玉の損得も難しいですね。受けに利いているようでもあり、相手の攻め駒に近づいているようでもありで」(谷川九段)
▲3七桂
*右桂の活用。先手の玉はまだ動かない。
*前例の▲糸谷-△永瀬戦は代えて▲2五飛だったが、本局は別の形に進んだ。
*10時25分頃、控室の盤面モニターに突然影が表れた。どうやら天井カメラに虫が止まっており、関係者が少しざわついている。
*その間に対局者の控室に午前のおやつが用意された。おやつは、渡辺が「しあわせプリン」とホットコーヒー、藤井が「いちご大福」とアイスコーヒー。飲み物のみ対局室に運ばれている。
*10時47分、藤井の考慮が30分を超えた。
*控室では、濱田剛史高槻市長がモニターを見ながら「しかし、藤井竜王は19歳なのに、もうベテランのような風格がありますね」と話すと、谷川九段が「彼は5年でほかの棋士ができない経験をしていますから」と返す。
△4四銀
*11時2分、藤井は45分の長考で△4四銀と出た。
*▲4五桂の当たりを避けながら、次に△3三桂と活用する場を作った一手。
*ここまでの消費時間は▲渡辺21分、△藤井1時間10分。
▲5六角
*11時27分、渡辺が大駒の角を5筋に据えた。
*相手は△4四銀と出たことで3四の歩が浮いている。▲5六角は次に▲9五歩△同歩▲9二歩のほか、▲3四角と歩を取ったあと、▲1五歩△同歩▲1二歩の端攻めを狙っている。
*対局室は、藤井が前傾姿勢で考えており、渡辺は腕組みのあと、立ち上がって部屋を出た。
△5四角
*藤井は相手の離席中に△5四角と打ち返す。
*角打ちは形を決めてしまうため、決断に時間を要することが多いが、藤井の△5四角はわずか3分だった。
*「△4四銀と出れば▲5六角は打ちやすいので、藤井竜王は本譜の△5四角でいけると見て銀を出たのだと思います。先手は次に△8六歩▲同歩△同銀とされると8筋が受けにくいので、この局面で先に動くと思いますが、(1)▲1五歩や(2)▲9五歩では△8六歩のほうが速そうなので(3)▲2五飛は考えられるでしょうか。以下△3五歩には▲2三歩成がありますし、△6四銀なら8筋が緩和されます。指せば攻め合いになるのは間違いないので、この局面で休憩に入るかもしれませんね」(谷川九段)
*△5四角の着手時刻が11時30分なので、渡辺が、このまま指さなければ1時間近い長考になる。
*ほかの候補手として(4)▲6五歩は少し消極的、(5)▲3四角△3六角の取り合いは後手が得ではないかと谷川九段は言う。
*休憩の時刻が近づき、谷川九段が対局室に向かった。渡辺はあぐら、藤井は正座の体勢で考え続けている。
*12時30分、△5四角の局面で渡辺の考慮が59分を記録し、昼食休憩に入った。ここまでの消費時間は▲渡辺1時間44分、△藤井1時間13分。
*昼食は、渡辺が雲海鍋御膳(肉とご飯多め、みそ汁と水菓子抜き)、藤井がカツ煮定食。
*「雲海鍋」は、すき焼きの砂糖の代わりに綿菓子を用いた料理。平鍋に火をつけて綿菓子を溶かすことで牛肉に甘みが絡むという。
*その後、渡辺は13時26分、藤井は28分に対局室に戻った。立会席には折田四段と、スーツに着替えた谷川九段が座っている。
▲2五飛
*渡辺は再開後も扇子を開閉しながら考えていたが、やがて五段目に飛車を浮き、7筋の銀に当てた。
*昼食休憩を挟む1時間8分の考慮だった。
*対局室は、先ほど休憩中に現地のスタッフが虫を払い除け、いまは部屋の片隅に電池式の虫よけ剤が置かれている。
△6四銀
*おとなしく銀を引いておく。
*先手は8筋の危機を回避できたが、今度は2五の飛車が目標になりやすい位置。
*次に△3六角のほか、△1五歩▲同歩△1八歩▲同香△3六角も気になる順だ。
*一方、控室では谷川九段が封じ手用の封筒の準備を進めている。副立会人の稲葉八段は、大盤解説会場(高槻市立生涯学習センター)にいるため、立会人よりも先に署名だけ済ませていた。
▲3四角
*14時2分、渡辺は▲3四角と前に出た。そして羽織の袖を引き上げ、湯飲みのお茶を飲み干す。
*一方、控室の谷川九段は「△3六角にはどうやってバランスを取るのでしょうか」と、モニターを見ながら首を傾げている。
*△3六角▲2六飛△4七角成の局面で(1)▲5六銀と出れば馬は捕まっているが、そこで△3五銀がうまい切り返しで▲同銀なら△3七馬が王手飛車。
*また、途中の△4七角成に(2)▲4八金だと△4六馬と切られ、以下▲同飛△5五銀右▲2六飛△3五銀で大駒2枚の両取りがかかる。
*藤井が左手の扇子を回し、開閉しながら読みを入れている。
*▲3四角までの消費時間は▲渡辺2時間13分、△藤井1時間15分。
*やがて両者とも羽織を脱いで、自身の席の横に置く。特に藤井はシワが入らないよう、丁寧に折り目に沿って畳んでいた。
*その後、谷川九段は継ぎ盤の駒を出し、△3六角以下▲2六飛△4七角成▲5六銀△3五銀▲4七銀△2六銀▲4四歩という順を並べたが、これも角2枚の攻めなので細そうとの見解。
*時刻は15時を回り、それぞれの控室に午後のおやつが用意された。おやつは、渡辺が「あまおういちごのモンブラン」とホットコーヒー、藤井が「幸せのリング(焼きドーナツ)」とアイスティー。
*長考は1時間を超えたが、まだ藤井の手は出ない。
*△3六角以外は浮かびにくい局面だが、相手が▲3四角と突っ張ってきた以上、慎重に先の変化を読みたいところだ。
*「△3六角から読んで、もっと掘り下げるなら先に△8八歩のような手もあるかもしれませんね」(谷川九段)
*△8八歩は▲同金と取らせて8筋を壁にする手筋。取ってくれれば利かしだが、△8八歩には放置で▲2三歩成△同歩▲同角成と踏み込まれる順を警戒する必要がある。
*応手を待つ渡辺はあぐらに崩し、目元を覆うように手を当てながら下を向いている。
*16時2分、ついに藤井の長考は2時間を超えた。これは藤井にとってプロ入り後、最長の熟考になりそうだ。
△8八歩
*16時31分、藤井は△8八歩を打つと、すぐに立ち上がり、対局室を出ていった。
*2時間28分の考慮。
*昨年8月、お~いお茶杯第62期王位戦第5局(豊島将之竜王戦、肩書は当時)では2時間1分(41手目▲7四歩)の長考があったが、本局の△8八歩はそれを超える長さになった。
*▲8八同金は△3六角で、これは単に△3六角と取る変化と比べ、先手の8筋が壁のぶん後手が得をしている。
*控室の谷川九段は「おそらく、この局面で封じ手でしょう。次の一手を指しても、あまり渡辺王将の得にはならないと思いますし」とコメント。
*仮にその言葉通り、18時に渡辺が次の一手を封じれば、両者の消費時間の差はほとんどなくなる。
*時刻は17時を回り、手番の渡辺がいったん席を外す。その間に藤井は棋譜を受け取り、ここまでの内容に軽く目を通した。
*
*※局後の感想※
*代えて△3六角は▲2六飛△4七角成▲5六銀△4六馬▲同飛△3五銀打▲4七飛△3三金が感想戦で並べられた順。
▲同 金
*17時27分、渡辺は指した。
*しかも▲2三歩成の攻め合いではなく、予想の本命から外れていた▲8八同金だった。
*和服に着替え直した谷川九段は意外そうな反応。そして小さな声で「そっかあ」とつぶやいた。
*対局室では、渡辺が脇息にもたれ、記録机のほうをのぞき込んでいる。
*
*※局後の感想※
*「▲8八同金でレールに乗ってしまった」と渡辺のコメント。感想戦では代えて▲2三歩成△同歩▲同角成△8九歩成▲4五銀の変化が検討された。
*以下△3三桂▲同馬△同銀▲2一飛成△3一歩▲5四銀△同歩▲6五歩の変化は先手よし。また、▲4五銀に△7九とは▲5四銀△同歩▲8八金で、そこで△3一桂と受けるようでは先手の駒得が大きい。
*よって▲4五銀には△同銀▲同桂△7九とが有力だが、その局面で先手に厳しく迫る順があるかどうか。
*△7九と以下(1)▲3三銀は△同桂▲同馬△同金▲2二飛成△3二金▲3三桂成△5一玉▲3二竜△5二桂で、次に△2六角の王手が厳しい。
*(2)▲3二馬△同玉▲3四銀は△7八とで後手よし。
*(3)▲3二馬△同玉▲2二歩△3三桂▲2一歩成には△3七角の王手があり、先手は持ち駒を使うと後手玉の詰めろが解け、△3七角に▲4八金は△同角成▲同玉△3七銀▲同玉△2五桂と手順に飛車を取られてしまう。
*(4)▲3二馬△同玉▲2二歩△3三桂▲同桂成△同玉▲3四桂は△2四歩で後手が余しており、途中▲3四桂に代えて▲2一歩成も△2四歩で届かない。
*(5)▲3二馬△同玉▲2一飛成△同玉▲3三桂成は△8二飛▲2三金△2六角で後手よし。
*(6)▲3二馬△同玉▲3三銀△同桂▲同桂成△同玉▲2一飛成は△2四歩。
*結論、感想戦では△7九とに対し、先手はよくなる順は示されなかったが、本譜よりは難しい可能性があった。
*なお、△8八歩に▲6五歩は手抜きで△8九歩成▲6四歩△7九との攻め合う考えだったと藤井の感想。
△3六角
*藤井は角を活用し、歩切れを解消。
*「どこまで指し進めるつもりでしょうかねえ」と谷川九段。
▲2六飛
*先手は居玉で飛車を渡しにくい陣形。
*▲2六飛は馬を作られるが、やむを得ない受けだろう。
△4七角成 ▲5六銀
*17時42分、渡辺の手は止まらない。力強く銀を繰り出し、後手の馬を捕まえた。
*△3五銀に▲同銀と▲4七銀、どちらを選ぶか。
*控室では、谷川九段がゆっくりと歩き始め、対局室に向かった。
*まだ手番の藤井は前傾姿勢のまま。もしかしたら、18時以降もしばらく考えるかもしれない。
*定刻の18時を過ぎ、立会席の谷川九段から「藤井竜王は次の一手を封じてください」と告げられた。渡辺は体を起こして腕組み。そして天井に視線を飛ばす。外はすでに日が落ち、真っ暗になっている。
*考慮が30分を超えた。藤井が次の一手を封じる意思を示さなければ、そのまま消費時間として計測される。
*18時22分、藤井が「封じます」と発し、用具一式を受け取った。
*封じ手の考慮は40分。よって1日目の消費時間は▲渡辺3時間18分、△藤井4時間26分。
*18時27分、封じ手の記入を終えた藤井が戻った。封筒を受け取った渡辺が赤いペンで署名。そして改めて藤井の手から谷川九段に2通の封筒が預けられた。
*対局2日目、高槻市は昨日同様、曇り空で午後には雨との予報である。
*8時40分、立会席には関係者が並んでおり、立会人の谷川九段は、このあと封じ手の開封で席を立つため、端の位置に座っている。
*8時43分、先に藤井が入室。座に着いたあと座布団の前に扇子を置き、ウェットティッシュで丁寧に拭う。
*8時49分、渡辺がきびきびとした足取りで入室。上座に着くと、座布団周りの整理には時間をかけず、すぐに一礼して駒箱に手を伸ばした。
*8時53分、折田四段の読み上げで1日目の手順の再現が始まった。
*封じ手予想は、谷川九段と折田四段が△3五銀、稲葉八段は△7七歩成という別の手を挙げている。
△3五銀
*9時、立会人の谷川九段が2通の封筒にハサミを入れる。
*藤井の封じ手は△3五銀。
*そして改めて全員で一礼し、対局2日目が始まった。
▲4七銀
*渡辺は2分を消費し、馬を取った。
*代えて▲3五同銀は△3七馬の王手が厳しい。
△2六銀
*△2六銀の局面は飛車角交換。
*後手は△8八歩▲同金の2手が入ったことで、△7九飛の王手が期待の一手になる。
▲4四歩
*△3五銀(58手目)と出れば▲4四歩までは予想された進行。
*次に▲4三歩成△同金▲3一角という下段に落とす攻めがあるため、後手は自陣を放置しにくい。
△5二金
*藤井は金上がりで玉頭を手厚くする。
*やがて控室に2日目開始を見届けた関係者が戻ってきた。
*渡辺としては、相手に飛車を渡した以上、攻め足を止めるわけにはいかない。
▲2三歩成
*2筋の歩を成り捨てる。
*
*※局後の感想※
*代えて▲6一角は△5一玉と引かれて届かない。
△同 歩 ▲2二歩
*昨日の△8八歩(52手目)のお返しとばかりに、渡辺も2筋に歩を放り込んだ。
*△2二同金なら▲4三歩成△同金▲3一角が一例。以下△同玉に▲4三角成と進めば、たちまち後手玉は危ない形になる。
*控室では、谷川九段が継ぎ盤を使い、濱田高槻市長に現局面の状況を解説している。
*後手が反撃に転じるとすれば△7九飛、もしくは△7七歩成▲同桂△7九飛の順が有力のようだ。
*藤井が考慮の途中で体を起こし、窓の外に視線を向ける。渡辺はあぐらで腕組みをし、体を前後に揺らしている。
△7九飛
*9時57分、藤井が持ち駒の飛車で、先手の居玉に王手をかける。
*40分の考慮で、残り時間は3時間を切った。
*▲6九角では大駒の働きに差がつくので、先手は▲5八玉か▲4八玉の2択になるか。
▲6九角
*渡辺は辛抱強く、角を合駒で使った。
*「これがいちばん粘れるということだと思いますが、しかし、角を手放すと後手陣への攻めがなくなってしまうので」(谷川九段)
*
*※局後の感想※
*代えて▲4八玉は△5五銀▲同銀△3七銀成の攻めが厳しい。
△7七歩成
*藤井はノータイムで歩を成る。
*(1)▲7七同桂は△9九飛成、(2)▲7七同金なら△7六歩がそれぞれ厳しい。
▲同 桂
*桂で。
*これは△9九飛成に▲8九金で竜を追い払おうという意図だろう。
*相手が何もしなければ、次は▲4三歩成△同金右▲同角成△同金▲8九金打で、飛車を取り返すことができる。
*「△9九飛成もありますが、藤井竜王のことですから△7六歩と一番厳しくいく順を考えているかもしれませんね」(谷川九段)
*時刻は10時30分を回り、午前のおやつが用意された。おやつは、渡辺が「ゴロゴロあまおういちごのタルト」とホットコーヒー、藤井が「はにたん最中」とオレンジジュース。
*「はにたん」は高槻市公認のマスコットキャラクターである。
△3六歩
*10時43分、藤井は30分考え、3筋の桂頭に歩を打った。
*▲3六同銀と取らせておけば4六の銀が浮くため、あとの寄せに効果を発揮しそうだ。
*控室では、谷川九段が△3六歩▲同銀に△7六歩と打つ変化を並べている。以下▲2一歩成なら△7七歩成▲8九金に△6七桂の王手が厳しい。
*まだ渡辺は、持ち時間を半分以上残しているが、うまく持ちこたえられるか。
*後手は▲3六同銀に△9九飛成も有力で、そのあと△9六竜~△6六竜と旋回すれば4六の銀に当たる。
▲同 銀
*11時38分、渡辺は55分を費やし、歩を取った。
*藤井の前傾姿勢は変わらない。渡辺の考慮中からずっと盤上に集中している。
△9九飛成
*端の香を取る。
*金取りのほか、△9六竜~△6六竜の活用、そして新たに△3三香と打つ狙いができた。
▲8九金
*角の利きを生かして金を引く。
△9六龍
*藤井、ノータイムで竜を引く。
▲4三歩成
*玉頭への王手。△4三同金右に▲同角成と切っていくのだろうか。
*4筋の歩が切れると、そのぶん反撃も厳しくなるが、黙っていても好転する可能性は低い。
*控室の谷川九段は△4三同金右▲同角成△同金のあと(1)▲4四歩△同金▲4五銀右という順を挙げた。6九の角を攻めに使おうという狙いだが、「でも△6六竜のほうが速いですかねえ」とコメント。
*また、△4三同金右▲同角成△同金に(2)▲8六金と打つ手も挙げた。これは飛車を手に入れて▲7二飛を狙うプランだ。
*12時26分、渡辺が先に席を立ち、少し早めの休憩に入った。藤井も定刻前に席を立ったが、途中で一度振り返り、渡辺側から盤面を見て控室に戻った。
*12時30分、▲4三歩成の局面で藤井の考慮が37分を記録し、昼食休憩に入った。ここまでの消費時間は▲渡辺4時間42分、△藤井6時間19分。
*昼食は、渡辺がカツ煮定食(みそ汁、水菓子なし)、藤井が牛すじカレーと串カツ。
*12時24分、手番の藤井が先に戻った。着物姿で羽織は席の横に置いたまま。着席すると記録係の折田四段に消費時間を確認した。
*13時30分、谷川九段から再開の合図が告げられた。まだ渡辺は対局室に戻っていない。
△同金右
*藤井は再開してすぐ△4三同金右と応じた。そして手書きの棋譜を受け取って確認。
▲同角成
*藤井の着手直後に戻った渡辺は、勢いよく角を切っていく。
*高槻は、午後になって雨が降り始めている。
△同 金
*今度も金で取る。代えて△4三同玉は▲4四歩の王手が嫌みだ。
▲8六金
*渡辺は、金打ちで竜を取りにいくコースを選んだ。
△9七龍
*ノータイムの応酬で局面が進む。
*先手は△9七竜の局面で▲9八歩のほか、先に▲8五金と出る手もあるという。
*
*※局後の感想※
*代えて△8六同飛▲同歩△同竜の順なら▲7八金△6六竜に▲8二飛の反撃が利くが、本譜の△9七竜が好手で、以下▲9八歩△8六飛▲9七歩に△6六飛が、銀取りと△6八金の両狙いになる。
▲2一歩成
*じっと桂を補充し、力をためた。
*△8八歩なら、そこで▲9八歩と受けるのだろう。
△6七香
*藤井は3分を消費し、角取りに香を放った。
*「代えて△8六飛▲同歩△7七竜という攻めもありますが、単にそれをやると▲7八金の受けがあるので、先に香を決めて角を動かしておけば、次の△8六飛が厳しいということですね」(谷川九段)
▲5八角
*14時14分、渡辺は自玉の真上に角を上がった。
*△8六飛▲同歩△7七竜には▲4八玉の早逃げが手筋。以下△6八香成に▲8五角と逃げておけば、まだ簡単には決まらなそうだ。
△8六飛
*藤井は飛車を切って寄せを目指す。
▲同 歩
*▲8六同歩までの消費時間は▲渡辺5時間20分、△藤井6時間26分。
△7七龍
*14時21分の着手。
*△8六飛▲同歩△7七竜で、飛車と金桂の2枚換え。全体の駒割りは後手が香1枚得をしている。
*対局室では、渡辺が腰を落として考えている間に、藤井がいったん席を外した。
*控室には、副立会人の稲葉八段が大盤解説会場から戻っており、現在は師匠の井上慶太九段が解説役を務めているという。
*しばらくして谷川九段が「(1)▲4八玉△6八香成▲8五角の局面で、後手はどうやって決めるんですか?」と稲葉八段に問い、ふたりで継ぎ盤を動かし始めた。▲8五角には△6七成香が、次の△6八竜を狙って有力のようだ。
*渡辺が扇子をあおいで顔に風を送る。考慮はもうすぐ30分になる。
*15時、午後のおやつが用意された。おやつは、渡辺が「あまおういちごのモンブラン」とアイスコーヒー、藤井がアイスティーとマンゴージュース。
*そして渡辺も残り2時間を切り、両者の消費時間の差が縮まってきた。
*控室では「ノータイムで▲4八玉と上がりそうな局面」と言われていたが、渡辺の長考でついに両者の残り時間が逆転した。
*ほかの候補手として(2)▲6七角△同竜▲7二飛△5二桂▲7八金という順も示されたが、▲6七角には△6八金▲4八玉△6七金と進めておけば、竜の縦の利きが残って後手がよさそうだという。
▲4八玉
*15時35分、渡辺が1時間14分の長考の末に玉を上がった。
*この時点で消費時間の累積は、渡辺のほうが8分多くなっている。
△3四桂
*藤井は3筋に桂を据えた。
*浮き駒の銀を狙った一手。(1)▲3五銀左には△4七歩で迫っていくのだろう。
*(2)▲3五桂△4六桂▲6七角には、△6八竜と入って先手玉が詰む。
▲3五銀左
*ピシッと高い駒音で銀を前に出た。△4七歩には▲3八玉と寄って頑張れるか。
*後手は△6六竜と引きたいが、7筋からそれると▲8二飛の王手に△7二歩が利かなくなる。
*次に▲4四歩の攻めもあるため、藤井は、自玉と敵玉の両方を見なければならない。
△6八香成
*藤井は、香を成って竜の横利きを通した。
*▲4四歩には△同金と取れば、▲同銀に△5八成香▲同金△3七銀成の順で先手玉が詰むという。
*これは△3四桂(88手目)と打った一手が絶大だ。
▲4四歩
*16時9分、それでも渡辺は▲4四歩と取った。
*控室の面々は、終局に向けて動き始めた。
△同 金 ▲同 銀 △5八成香 ▲同 金 △3七銀成 ▲同 玉
△2六角
*△2六角の局面で渡辺が投了を告げた。
*以下▲2七玉△3七金▲1八玉△1七角成▲同玉△3九角▲1八玉△2八角成までの詰み。
*終局時刻は16時15分。消費時間は▲渡辺6時間55分、△藤井6時間41分。
*この結果、七番勝負は藤井竜王の2連勝。第3局は1月29、30日(土、日)に栃木県大田原市「ホテル花月」で行われる。
*
*※局後の感想※
*感想戦は17時7分に終了した。
まで98手で後手の勝ち

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