第69期王座戦五番勝負第3局。永瀬拓矢vs木村一基

開始日時:2021/09/22 09:00
終了日時:2021/09/22 20:16
表題:第69期王座戦五番勝負第3局
棋戦:王座戦
戦型:相掛かり
持ち時間:5時間
消費時間:131▲289△300
場所:神奈川県秦野市「元湯 陣屋」
備考:昼休前33手目▲102分△86分\n夕休前64手目▲216分△242分\n
先手:永瀬拓矢王座
後手:木村一基九段

*永瀬拓矢王座に木村一基九段が挑戦する第69期王座戦(主催:日本経済新聞社 特別協賛:東海東京証券株式会社)五番勝負は、1勝1敗で第3局を迎えた。どちらが先に2勝目を挙げるか、天王山の一戦だ。立会人は塚田泰明九段、新聞解説は深浦康市九段、記録係は広森航汰三段(中座真七段門下)。
*対局は9月22日に神奈川県秦野市「元湯 陣屋」で指される。持ち時間は各5時間(チェスクロック方式)。対局開始は9時、昼食休憩は12時10分~13時、おやつは15時、夕食休憩は17時30分。第3局の本局は永瀬の先手番で行われる。
*22日朝、永瀬は8時41分に入室。木村は8時43分に対局室入りした。ともにやや早めの入室だ。しばらく気息を整え、8時48分ごろ駒を並べ始めた。
▲2六歩
*定刻9時、対局開始。
*
*◆永瀬 拓矢(ながせ たくや)王座◆
*1992年9月5日生まれ、神奈川県横浜市出身。安恵照剛八段門下。2009年、四段。2020年、九段。棋士番号は276。
*タイトル戦登場は8回。獲得は王座2期、叡王1期の計3期。棋戦優勝は2回。
△8四歩
*◆木村 一基(きむら かずき)九段◆
*1973年6月23日生まれ、千葉県四街道市出身。(故)佐瀬勇次名誉九段門下。1997年、四段。2017年、九段。棋士番号は222。
*タイトル戦登場は9回。獲得は王位1期。棋戦優勝は2回。
▲2五歩
*永瀬の本年度の成績は13勝9敗(0.591)。
*対局数ランキング8位、勝数ランキング12位。
*通算成績は407勝166敗(0.710)。
*(未放映のテレビ対局を除く)
△8五歩
*木村の本年度の成績は15勝10敗(0.600)。
*対局数ランキング3位、勝数ランキング9位。
*通算成績は694勝413敗(0.627)。
*(未放映のテレビ対局を除く)
▲7八金
*王座戦は日本経済新聞社が主催する棋戦。1952年に優勝棋戦として創設され、1983年の第31期からタイトル戦に昇格した。一次予選から挑戦者決定戦までトーナメントで挑戦権を争う。現在のタイトルホルダーは永瀬拓矢王座で現在2連覇中。
△3二金
*5手目▲7八金の局面で関係者が退室する。東京都立大学教授で憲法学者の木村草太さんが対局開始に立ち会い、控室を訪れている。後日、シリーズ全体について寄稿するとのこと。
▲3八銀
*第2局に続いて相掛かりとなった。以前は▲2四歩が主流だったが、最近は歩交換を保留することが多い。
△7二銀
*本局はABEMAで動画中継されている。解説・聞き手は中村修九段、佐藤慎一五段、高野智史五段、甲斐智美女流五段、香川愛生女流四段。高野智五段は木村の弟子だ。
*マルチアングル放送では、屋敷伸之九段、青嶋未来六段、和田はな女流1級が出演する。青嶋六段は永瀬と同門(安恵照剛八段門下)。
▲9六歩
*第2局では、後手の永瀬が▲9六歩に△5二玉と指した。ほかに△1四歩、△3四歩、△8六歩、△9四歩なども指されている。
*
*本局は17時からParaviでライブ配信される。解説・聞き手は黒沢怜生六段、貞升南女流二段。
△5二玉
*永瀬と木村は2日前の20日に対局を行った。
*永瀬はJTプロ公式戦2回戦で糸谷哲郎八段に勝利。
*木村はB級1組順位戦で藤井聡太三冠に敗れた。
*直近の対局は本局に影響があるだろうか。
▲4六歩
*本局の観戦記は上地隆蔵さんが担当する。現在、王座戦主催の日本経済新聞紙では、野月浩貴八段の執筆による2回戦の木村一基九段-高崎一生七段戦の第5譜が掲載されている。局面が佳境を迎えている。
△7四歩
*秦野市は神奈川県の中西部にある、人口16.2万人の市。北や西に連なる丹沢山地のふもとにある。丹沢山地は都内からアクセスしやすく、登山者に人気がある。湧水が豊富で、秦野盆地湧水群は名水百選に選ばれている。秦野市の水はペットボトルで販売されている。
▲2四歩
*12手目△7四歩の局面は、二人とも公式戦で先手を持って経験があった。ともに▲4七銀としていたが、永瀬は3分で▲2四歩と歩交換に出た。
*永瀬はすでにスーツの上着を脱いでいる。木村は脇息に手ぬぐいを置いている。
△同 歩
*秦野市は古くからたばこの産地として知られていた。しかし、1984年に生産が終了。現在も盛んなのは落花生。陣屋でもロビーで落花生を使った商品が売られている。
▲同 飛
*「元湯 陣屋」は神奈川県秦野市の鶴巻温泉にある旅館。源頼朝の側近だった和田義盛の別邸跡にあり、一万坪の自然豊かな森や庭園は四季折々の景色を楽しめる。映画監督の宮崎駿さんは、陣屋の経営者の親族で、敷地内に『となりのトトロ』のイメージの元になった「トトロの楠」がある。
*将棋や囲碁の対局が数多く行われ、陣屋のホームページによると300局を超えるという。タイトル戦の昼食に対局者や関係者に出される「陣屋カレー」は将棋ファンによく知られている名物だ。対局のときにのみ出されるものだったが、現在はルームサービスでカレーを食べられるようになった。
△3四歩
*「木村さんの研究でしょうね」と深浦九段。手元のデータベースでは公式戦での同一局面はなくなった。永瀬も手を止めた。ABEMAのマルチアングル放送を担当する屋敷九段が控室に顔を見せた。
*
*陣屋は「陣屋事件」の舞台となった。1952年(昭和27年)、第1期王将戦七番勝負第6局で升田幸三八段が木村義雄名人に香を落とす対局が行われる予定だった(肩書はともに当時のもの)。しかし、升田は陣屋に着いて玄関のベルを押しても迎えにこなかったことを理由に、対局を放棄したのだった。それが「陣屋事件」と呼ばれる。升田は1年間の出場停止処分を受けたが、棋士や文化人が猛反発し、最終的に木村が升田の処分を解除することで解決した。香落ち戦は升田の不戦敗になった。
*後日、升田は「強がりが雪に轉んで(ころんで)廻り(まわり)見る」と色紙に書いた。陣屋では陣屋事件のあと、来客があると陣太鼓を鳴らすようになった。
▲7六歩
*▲2二角成△同銀▲5五角、あるいは▲2二飛成△同銀▲5五角打が見えている。
*
*本局が行われている対局室の「松風」は、明治天皇が宿泊するために黒田藩が大磯に建てた建物を、三井財閥が現在の場所に移築したものだ。タイトル戦が数多く指されてきた。本局は今年4回目となるタイトル戦の対局となる。
△7三桂
*鶴巻温泉は秦野市の東部に位置する。新宿からは小田急線を利用して1時間程度でくることができる。温泉の湯は、北西にある丹沢山地の地下水源から湧き出たもの。カルシウムの含有量は世界有数で、リウマチや神経痛などに効果がある。陣屋の庭には神奈川県飲泉許可第1号の温泉が湧き出ており、飲むことができる。
▲7七角
*9時30分ごろ、永瀬は▲7七角とした。この局面で▲4七銀と△9四歩の2手の交換があれば、今年1月の第70期王将戦七番勝負第2局の▲永瀬-△渡辺明王将戦と同一になる。先手が類例よりも右銀が出遅れているようにも見えるが、形の違いがどう影響するか。
*9時45分ごろ、木村は前傾姿勢で考えている。ABEMAのマルチアングル放送に出演している青嶋六段が控室へ。青嶋六段は第65期で挑戦者決定戦に進んだこともある。
*
*本局の立会人は塚田泰明九段、新聞解説は深浦康市九段。二人とも陣屋に縁深い棋士だ。
*塚田九段は1987年に行われた第35期五番勝負第3局▲塚田七段-△中原誠王座戦を陣屋で対局。2連敗スタートで出足が悪かった塚田七段は第3局を攻め倒して快勝。以降も3連勝で王座獲得となった。
*深浦九段は王位戦や全日本プロトーナメントで対局し、初タイトルの王位を獲得したのが陣屋だ。そして、木村と対戦した第50期王位戦七番勝負で、3連敗後の4連勝で王位3連覇を果たしたのも陣屋。
△同角成
*過去の対戦成績は4勝4敗。相掛かりや角換わりなどが指されている。
▲同 桂 △2二銀
*前日の21日は移動日。17時47分から検分を行った。盤駒は2種類用意され、永瀬が静山師作の菱湖書の駒を選んだ。
*空調や照明を確認し、数分で終了した。
▲7五歩
*19手目に記した▲永瀬-△渡辺明王将戦と部分的に同じ進行だ。前にも書いたように▲4七銀△9四歩の交換がないのがどう影響するか。急戦形なら、3八銀型が駒の連結がよくてプラスになる可能性もある。
△8四飛
*永瀬はあぐらで熟考している。しばらく考えそうだ。
*
▲5六角
*30分近く考えて永瀬は▲5六角と打つ。すると、木村は上体を起こして扇子であおぎ、記録係の広森三段から棋譜を借りた。そして、脇息に左ひじをのせてうつむく。
*後手は7三桂の頭をどう受けるか。ABEMAで佐藤慎五段と高野智五段が、先手の成功例として△8三銀▲7四歩△同銀▲3四飛の進行を示す。これは金銀両取りが決まって先手優勢だ。
△7五歩
*歩を高く持ち上げて力強い手つきだった。▲7四歩は生じるが、△7六歩の反撃筋に期待している。
*※局後の感想※
*ここで△2三銀なら、先手の飛車の引き場所を2八に限定できた。
▲7四歩
*11時05分の着手。▲7四歩までの消費時間は、▲永瀬59分、△木村1時間5分。
△2三銀
*11時10分になった。日本経済新聞の担当記者が対局室に入って、昼食の注文を取る。対局当日にその都度注文を取るのが王座戦流。ほかの棋戦では前もって注文を決めることが多い。
▲2五飛
*立会人の塚田に現局面を聞いた。
*塚田九段「類例の▲永瀬-△渡辺戦は、▲5六角に△2三銀▲2八飛としてから△7五歩と歩を取っていました。本譜は木村さんがあとから△2三銀としたので、永瀬さんは▲2五飛としたのですね。△2四歩なら▲7五飛と味よく歩を取れますから(先に△2三銀とすれば▲2五飛△2四歩のときに▲7五飛はない)。つまり、△7五歩から△2三銀は手順前後ではないですか、というのが永瀬さんの▲2五飛です。私は少しだけ先手が得をしたように感じます」
*木村は▲2五飛とされても大丈夫とみているだろう。読みや駆け引きがぶつかっている。
△7六歩
*まだ30手目だが、局面の流れは激しい。玉の守りにほとんど手をかけていないため短手数で戦いになったのだ。相居飛車でも、がっぷりした相矢倉なら、30手目の局面はまだ駒組みが続いているところ。どの程度、玉を囲うかで中盤に入る手数が変わってくる。
▲7三歩成 △同 銀
*11時50分の着手。青嶋六段は、ここで▲8五桂なら△6四銀と予想する。△6二銀とすると▲7五飛と回れるため先手の飛車が楽になる。▲6五桂が検討の本線。このほうが駒を中央に使えるし、飛車と角で支えているため桂の負担は軽い。
*昼食休憩は12時10分から。ここで休憩に入るか、指し手が進むかどうか。休憩数分前に永瀬は上着を着る。指すことはなさそうだ。
*ここで永瀬が19分使って昼食休憩に入った。消費時間は▲永瀬2時間1分、△木村1時間26分。昼食は両者とも陣屋カレー(ビーフ)。永瀬のみ抹茶とアイスコーヒーを追加した。さらに休み明けの対局室に永瀬は抹茶とアイスコーヒー、木村はアイスコーヒーのみを注文した。対局は13時再開。
*陣屋カレーは、15手目の棋譜コメントで記したように陣屋の名物。タイトル戦の昼食に対局者や関係者に出される、将棋ファンによく知られている。長年、対局のときにのみ出される特別なものだったが、現在は宿泊客のルームサービスでカレーを食べられるようになった。
*永瀬は12時50分前には対局室に戻っていた。木村は12時59分に対局室へ。席に着くと、盤と座布団の間に懐中時計を置いた。
▲8五桂
*13時、対局再開。永瀬は再開後も4分ほど考えてから▲8五桂と指した。歩切れを解消できるが、△6四銀から△3三桂などと飛車を追われたときに桂を取られやすい懸念がある。その負担をどう補うか。
△6四銀 ▲9三桂成
*「ん?」、「ん?」、「はぁー」と控室でいくつもの声が上がった。予想しにくい手。取られそうな桂を▲8五桂と助けた直後に▲9三桂成と突っ込んでいくのは意表を突く。
*放置すれば▲8三角成、△9三同香なら▲9二角成で▲9三馬から飛車を目標にする。受け将棋の永瀬や木村は、攻め駒を責める着想は得意だ。
*ABEMAでは、佐藤慎五段が▲9二角成に△7七角や△6五桂、△7七歩成▲同金△6五桂、△2四歩を示している。▲9二角成の局面は後手の手が広い。
*
*
*※局後の感想※
*「▲3四角もあると思った」と永瀬。以下、△3四同銀▲2一飛成△3一歩▲2四桂△2三金で攻めが続くかどうか。
△2四歩
*13時50分ごろ、木村は小さく首を傾げて△2四歩と打った。しばらくして、顔におしぼりを当てる。
*このタイミングでの△2四歩は控室では予想されていなかった。控室的には二人とも意外性のある手を指しているが、対局者はどうとらえているだろうか。ここ数手、双方が時間を使っており、難所であることはうかがえる。
*(1)▲9五飛と逃げる手は△7七角▲同金△同歩成の強攻でどうか。(2)▲8三成桂は△2五歩▲8四成桂で飛車の取り合いになる。「もう終盤の入り口が近いですよ」と塚田九段。
*14時、担当記者がおやつの注文を取りに対局室に入る。14時7分、木村は目薬を差す。永瀬は盤に近づいて考えている。
*※局後の感想※
*△9三同香は▲9二角成△7七角▲6八桂△9四香▲8八銀が示された。
▲8三成桂
*14時15分の着手。▲8三成桂までの消費時間は、▲永瀬2時間23分、△木村2時間0分。
*永瀬はスッと音もなく成桂を寄せた。△9四飛なら大きな利かし。▲8五飛と逃げて先手がいい。とすると、△2五歩と飛車を取ることになり、一気に終盤戦に入る。
*
*※局後の感想※
*永瀬は▲8三角成! を考えていたという。以下△8三同飛▲同成桂△2五歩で角損だが、そこから▲2四歩△1四銀▲8二飛△4一玉▲7二成桂と攻めるのが厳しい。先手の駒損が大きいが、かなり有力だったかもしれない。木村は「後手の代案が見えない」という。
*「▲8三角成と▲8三成桂の2択で考えていた。▲8三角成以下の手順で勝ちに見えなかった。勝ちと思えば▲8三角成だが…」と永瀬。
△2五歩 ▲8四成桂 △7七歩成
*いやはや、大変な将棋になった。20手目あたりで中盤戦、そして40手目でもう終盤戦だ。双方が強い手を指し続けた結果といえる。時刻はまだ14時19分である。
*この△7七歩成は▲同金とさせてから△8九飛を銀取りで打つつもり。単に△8九飛ではぬるいと見た。「とりあえず終盤戦ですね。どちらが倒れれば(終局時刻は)早いですね」と塚田九段。
▲8二飛
*王手を決めた。△7二歩なら▲7七金と、と金を取りやすい。△8九飛▲7八金のときに△7七歩が二歩なので後手は追撃しにくくなるからだ。よって、控室では△4一玉が示されている。▲8一飛成には△5一金でさらに頑張る。
*ABEMAでは高野智五段が「見れば見るほど玉引き(△4一玉)は怖いですね」。▲2四歩や▲2二歩、▲7四角と攻めの手段が多いという。
△7二歩
*後手が7筋に歩を打つと、先手は▲7七金と手を戻しやすい。△4一玉よりは幾分穏やかといえる。
*
*※局後の感想※
*(1)△7二飛なら▲8一飛成△7一飛▲同竜△同金▲7四飛が永瀬の読み筋。
*木村は(2)△4一玉だと▲2四歩△同銀▲8一飛成を嫌った。
▲7七金
*14時34分の着手。14時45分ごろ、深浦九段がABEMAにゲスト出演。陣屋事件について話している。
*ABEMAのマルチアングル放送担当の屋敷九段と青嶋六段が控室で△8九飛▲7八金△9九飛成の進行を調べている。次に△5四香(角が逃げたら△5七香成)が嫌な攻めだ。二人の検討の一例は△9九飛成以下、▲4八玉△7六香▲7三歩△7一金▲8三飛成△7八香成▲7二歩成△9二角▲7一と△8三角▲同角成△7九竜▲2二歩というもの。後手が勝ちそうだが、詰めろがかかるかどうか。先手は△5四香を打たせる指し方、後手も△9二角を打たない順も有力だという。
*木村の考慮中に15時になり、おやつが出された。永瀬が抹茶、ホットコーヒー、アイスコーヒー、グレープフルーツジュース。和洋、温冷、自在に4種類。木村はチョコレートケーキ、グレープフルーツジュース。
*木村が1時間近く考えている。塚田九段は木村が変調なのではないかという。「▲8二飛がいい手だったと思います。△7二歩から△7一金▲8三飛成△8二歩▲7四竜と後手が竜を追えるんですけど、この竜は守りにも利くので遊び駒にならないんです」と塚田九段。
△8九飛
*15時33分ごろ、木村は力を込めて飛車を8九に打ちつけた。
▲7八金 △7一金
*△9九飛成が検討されていたが、木村は飛車を追い払う順を選んだ。
*△9九飛成は▲8一飛成△5四香▲7四成桂△5六香▲6三成桂△4二玉▲6一竜△5七香成▲6九金(△6八角▲同金△7九竜の詰めろを受ける)という進行が控室で調べられていた。▲6九金で後手に攻めがなければ、先手の攻めが間に合う。
*
*※局後の感想※
*△9九飛成もあった。▲8一飛成△7六香▲7四成桂△7八香成▲6三成桂に(1)△4二玉は▲6一竜△7九竜▲4八玉がどうか。
*▲6三成桂に(2)△同玉▲6一竜△6二歩▲7四金△5四玉▲6四金△4四玉▲2一竜(▲3六桂からの詰めろ)に△3六桂▲同歩△2八角が木村の読み筋で、後手玉の詰めろを消しながら△3九銀からの詰めろになる。「(△3六桂の筋で)勝てればヒーローだけど、負ければ間抜けだから怖くてできなかった。結構考えたんですけど」と木村。
▲8三飛成 △8二歩
*さらに追う。これは▲7四竜とさせることで、▲7四成桂の活用を阻んだ意味。△9二角も見えるが、▲同竜△同香▲同角成で▲7四成桂が厳しそうだ。▲9二同角成に△9九飛成は▲6六角の竜香両取りがある。
▲7四龍 △9九飛成
*飛車を追い払ってから香を取る。ただし、先手の竜が受けに利いているので、△7五香としても▲7六歩と受けられてしまう。そこは難点。現状は後手が歩損かつ歩切れなのが気になるところでもある。
▲4八玉
*△5四香▲4五角△5七香成の筋を受けながら9九竜の利きから外れる。味のいい手だ。先手は▲4八玉の一手により、玉の安定度がグッと増した。これなら、ガンガン攻めるように作戦変更もしやすい。木村の考慮中に16時になった。
△5四香
*▲4七角と引かせて先手の攻撃力を削るつもり。1時間ほど前は、直線的な変化がよく検討されていたが、局面の流れが前よりも緩やかになってきた。「双方の玉形が安定しました」と塚田九段。
*16時6分ごろ、永瀬の考慮中に担当記者が夕食の注文を取りに対局室に入る。
▲4七角
*永瀬はおやつで頼んだ飲み物を随分飲んでいる。緊張や考えているときに水分が欲しくなる。
*控室で深浦九段が「(先手の)竜の制空権が大きいですね」という。
△6二金
*放っておくと▲7三歩△同歩▲同成桂の攻め筋があった。それを受けている。△7三歩とさらに押し返す手も出てきた。
*永瀬が熟考している。屋敷九段に局面の見解を聞いた。
*屋敷九段「一手一手の価値が高いですね。形勢は先手が指せていると思います。玉が安定していますから。後手も△4二玉から玉を2二に移せば銀冠になります。
*先手は何を指すか。▲2二歩は流れが速くなります。▲5六桂や▲6六桂もありますね。▲6六桂は▲5四桂△同歩▲6六香の狙いです。▲6八銀は中央を厚くしますが、9九竜の利きが通ってくるのがどうか。手の選び方が難しいです。後手も△2八角と攻めるのがどれくらい厳しいか難しいです」
*
*
*※局後の感想※
*「悪いと思っていた」と永瀬。ただし、木村も8四成桂と9一香の働きの差を気にしていた。
▲6六桂
*屋敷九段が示していた手。▲5四桂△同歩▲6六香とし、次いで▲6四香△同歩▲7三歩と一つずつ駒をはがして着実に攻めるつもり。
△2六歩
*△3五桂を見せて▲5四桂を牽制している。
*永瀬の考慮中に17時になった。Paraviでの実況中継が始まった。解説・聞き手は黒沢怜生六段、貞升南女流二段。「現局面は互いにらしさが出ている」と黒沢六段が話している。
▲2八歩
*控室で「おぉぉ」という声が聞かれた。△2六歩▲2八歩の交換は、(1)2筋が壁になる、(2)▲2二歩や▲2四歩と攻められなくなる、の2点が先手にとって悔しいので▲2八歩は打ちにくいのだ。しかし、先手陣に憂いがあってはよくないと永瀬は判断した。
*40手目あたりで「終盤戦」と書いたが、少しずつ中盤に戻ってきたように見える。時計の針が逆回転しているかのよう。
*
*
*※局後の感想※
*「ほかに適当な手がわからなかった」と永瀬。
△9六龍
*控室では△4二玉が予想されていた。銀冠の弱点である銀頭を▲2四歩と攻められないので、玉を安定させやすいという意味だ。
*△9六竜は歩切れ解消で大きな手だが、▲6四竜△同歩▲7四角で強引に飛車を取りにいく順が生じている。
▲9七歩 △9五龍 ▲8五成桂
*「金は引く手に好手あり」という。ならば、成桂を引いていくのも悪くないだろう。▲7五成桂と寄せる手もある。
△9七龍
*成桂を引かせてから△9七竜。▲5四桂△同歩▲6六香に△7三銀と引きやすい。芸が細かい。
*ここで▲8八銀は△9八竜▲5四桂△同歩▲9九香△8九竜▲7九金と竜を捕獲できるが、△9九香成▲8九金△同成香で、飛車と金香の2枚換えかつ遊び駒がないので後手が指せそうだ。
▲7六龍
*▲7六竜に木村は一瞬、眉間にしわを寄せた。渋いが狙いがわかにくくもある。
*ここで木村が3分使って夕食休憩に入った。▲7六竜までの消費時間は、▲永瀬3時間36分、△木村4時間1分。対局は18時から再開される。
*夕食は永瀬が陣屋カレー(ビーフ)。再開時にホットコーヒーとアイスコーヒーが出される。木村は天ぷらそばの天ぷら抜き。通常メニューに単品のそばがないため、このようなオーダーをした。再開時にアイスコーヒーが出される。対局は18時再開。ともに17時42分には対局室に戻った。
△2七歩成
*18時に対局が再開されると、木村はすぐに軽手を放った。▲2七同歩は△2八歩や△2八角がある。よって、先手は▲2七同銀と応じることになる。
▲同 銀
*夜戦に入った。昨日、21日は「中秋の名月」を迎えた。今年は満月で、月見にいい条件だった。なお、明日、23日は秋分の日。
△9八龍 ▲7四成桂 △5五銀 ▲6五角
*目標になりそうな角をさばく。▲5四桂とすれば△4六銀を防げるが、今度は△5四同歩から△3五桂が生じる。後手の立場で見れば、△2七歩成の小技がピリリと利いているわけだ。
△9七角 ▲9九歩 △同 龍
*「難しいですけど、木村さんのほうが指す手がわかりやすくなりましたね。後手玉は4筋方面が広いですし」と塚田九段。
▲8六歩
*9七角の利きを止めた。渋い。そして、狙っている。後手が放置すれば▲9八歩△同竜▲6三成桂が痛快な攻め。△同金に▲7二竜が王手竜取りだ。直前に▲9九歩△同竜としたばかりで、▲9八歩△同竜とする攻めなので後手はうっかりしやすい。
*控室では△4二玉の早逃げが示されている。▲9八歩△同竜に▲6三成桂が王手にならなければ、△7九角成と銀を取って後手の勝ち筋だ。
△4一玉
*控室と違って、木村は△4一玉と一段目に早逃げした。やはり、先手の▲9八歩△同竜▲6三成桂に備えている。
*
*※局後の感想※
*▲8六歩に△8九竜も考えられたが、「▲5四桂△同歩▲同角の進行が判別できなかった」と木村。
▲6八銀
*「△3一玉、△1四歩、△2四歩、何を指しましょう」と深浦九段。何だか序盤に戻ったかのような指し手だ。ただ、深浦九段は、先手は▲7九歩から▲8五竜として▲8二竜を狙う攻めがあるという。後手はゆっくりしすぎるのは禁物。
*木村は考慮中に残り40分を切った。
△8九龍
*ジリッと。△8六角成を狙っている。
*先手が強引に指すなら▲8七竜だ。飛車を持てば、▲8一飛の王手が厳しいとみたもの。数手前の△4一玉の弱点を突く意味がある。ただ、これはギアをグッと上げる手で、ここしばらくの渋い進行とは反する。
▲8七金
*※局後の感想※
*永瀬は▲8七竜も考えていたが、利かなそうと判断して▲8七金になった。
*▲8七竜は△同竜▲同金△3一玉▲8一飛△2二玉▲9一飛成△7八飛▲5八金△7九角成となると先手大変。
△7三歩
*18時46分、引っ張り込む木村流の手が出た。▲7三同成桂△7五歩▲同竜△6四銀となれば、竜と成桂の両取りで後手成功。ただ、△7五歩に▲8五竜とされた場合はどうか。そこで△7三金と成桂を取るのは▲8二竜と潜り込まれてしまう。
▲7五成桂
*粘り強い。負けない将棋を目指しているのか。
△3一玉
*ここ数手は後手が利かしたとみて△3一玉。10手前と比べて、後手玉の安定度がグッと増した。玉が戦場から遠ざかったうえに、△7三歩▲7五成桂の交換で先手の攻め駒を追い払っている。
▲5九金
*40手目までの進行を見て、80手目から△3一玉▲5九金と手入れすると予想できる人がいるだろうか。タイプは違えど、受け将棋の二人。急戦調の将棋でも息の長い手順を進めている。
△6四歩 ▲3八角
*深浦九段は「局面は後手が勝ちやすそうです」という。玉の堅さに差がついたことを評価している。ただ、具体的な攻めをどうするかは課題だ。△4六銀は▲5四桂が金銀両取りでまずい。
△8八角成
*角金交換を催促して、局面を動かす。▲8八同金△同竜の局面は△7八金の攻めが生じているため、先手は受けを用意する必要がある。
▲同 金 △同 龍
*永瀬の手が盤上から離れた瞬間に木村は手を伸ばして△8八同竜。間髪を入れず、という表現がピッタリだった。王座戦はチェスクロック方式なので、1秒でも惜しい。
*
*※局後の感想※
*「いい勝負か苦しいと思っていた」と木村。
*永瀬も玉が堅くならないため、苦しめに形勢を判断していた。
▲7九歩 △9七香成
*△7八金を防ぐ▲7九歩に、それも読んでいたとばかりに十数秒で△9七香成。後手は遊び駒がなくなった。
*後手の攻勢、先手の守勢だが、後手は△8七成香から△7七金のように手がわかりやすい。
▲7七角
*徹底的に受ける。
△9八龍
*19時7分、永瀬はマスクを外す。
▲5四桂 △同 歩
*木村は間髪を入れずに5四の桂を取り、歩を5二に打ちつけて5四まで滑らせた。気合の入った手つきだった。
▲6四成桂 △8七成香 ▲5五角
*間髪を入れずに▲5五角。
△同 歩
*間髪を入れずに△5五同歩。
▲6五角
*間髪を入れずに▲6五角。91手目▲5四桂からこの97手目▲6五角まで1分20秒ほどで進んだ。二人のほとばしる気合が盤上で表現された。モニターで対局室の様子を見ているだけで気圧される感じがした。
*ここ数手のやり取りで流れが急に激しくなってきた。ただ、これは後手の望むところ。80手目△3一玉と囲った手が生きているからだ。現局面は△5六歩が有力か。▲同竜なら△7七角と打って、△6八角成と△5五金を見せる。先手の竜を働かせるが、▲5一竜と入られても△4一金と弾いて自信があれば、そうした踏み込みは考えられる。
△3五桂
*木村は玉頭に狙いをつけた。玉頭はどの戦型、どの場合でも弱点になる。
*
*※局後の感想※
*△5六歩▲同竜△7七角は有力だった。▲7八香なら△3三角成が▲5一竜を防いで幸便。馬ができれば大きい。
*「△5六歩は見えなかった」と木村。永瀬も△3五桂を予想していたという。
▲3六銀
*「桂先の銀、定跡なり」の形で受ける。
△2七歩
*この手で100手に達した。時刻は19時20分。△2七歩までの消費時間は▲永瀬4時間17分、△木村4時間41分。
*残り20分を切った木村は挟撃を狙う。▲2七同歩なら△2八歩だ。
*
*※局後の感想※
*「ひどいね。そこに手が伸びるかね」と木村が悔やんだ手。次の先手の指し手との交換は後手が損をした。
*代えて、△1四角が有力。木村は▲2五香を示したが、それには△同角▲同銀△4七香▲同角△7七金という好手順があって後手が指せていた。この変化を調べた木村は、ゴンゴンと右手で頭をたたいていた。
▲5八玉
*一瞬、竜に近づいて指しにくい手だが、2筋から遠ざかっている。△2八歩成と後手が指せば、▲8七竜△同竜▲同角と清算して、あとで▲2四歩のカウンターが生じる。このときに▲5八玉の早逃げが利いてくる。互いに力を出し合った進行だ。「混沌としています」と深浦九段。
△9四龍
*木村は力を込めて竜を引く。そして、席を外した。
*▲5四成桂なら△6四歩で角の逃げ場が難しい。永瀬は左手に持ったハンカチで口元を押さえる。
▲7三成桂 △7五歩
*▲7五同竜なら△6四金が竜角両取りだが、そこで▲7六角と竜取りにかわすことができる。化かし合いのような変化。
▲8五龍
*互いに粘り強いが、84手目△8八角成以降は少しずつ終盤に向かっている。
*一つの問題は残り時間で、木村はここで残り10分を切った。永瀬は約35分残している。
△6四龍 ▲8七角 △7三龍
*先手の左桂は10回動いた末に、後手の竜に取られた。その代償に貴重な手番を握れたのも大きい。
▲2六香
*100手目△2七歩をとがめた香打ち。その意味で木村にとって気分はよくないところだ。
*19時40分、永瀬は体を小さく揺らしながら考えている。「(和服に)着替えてきます」といって、スーツ姿の塚田九段が自室に戻る。塚田九段は対局開始時は和服だった。まだ先は長そうだが、着替えておいて損はない。
*
*※局後の感想※
*「▲2六香と打たれるのはひどい」と木村。
*永瀬は「本譜でいいという気はしていなかった。形勢はわからなかった」という。
△2四桂 ▲同 香 △同 銀 ▲2六香
*もう一回。
*局面を見ると、駒の損得はほぼない。細かいやり取りが続いている。
△8四金
*飛車を取れば△3八飛や△3九飛が楽しみ。
*永瀬の体が盤に近づいている。
*
*※局後の感想※
*本譜は先手の攻めが厳しかった。代えて、△1五銀が有力だった。▲2一香成△同玉▲4五桂には△4四香で、先手が攻めをつなぐのも大変だ。「そうか、粘りを欠いていたのか。まだ大変だった。そんなに悪くなかったのか、(100手目△2七歩と▲5八玉の交換をして)悲観しすぎた。もう少し楽観していればハッピーだったか」と木村。
▲2四香
*しばらくうつむいていたが、やがて永瀬は決断した。竜を見捨てて攻めに出た。
△8五金 ▲2一香成 △同 玉 ▲2四桂
*8五の金に目もくれず、急所に迫った。放置すると、▲4四桂(△同歩は▲3二角成まで)や▲4一銀が厳しい。△7六金も▲同角△同歩▲2三銀△同金▲3二金の筋がある。
*こうなると、玉の堅さが逆転している。また、101手目▲5八玉が玉を安定させるのに大きく働いている。4八玉型のままだと、△2八歩成が詰めろになる、△4七香が王手になるなど、状況が違っていただろう。
*深浦九段は現局面を先手優勢と判定する。
△3八飛
*木村は合駒を使わせようとする。少しでも先手の攻撃力を減らしたい。
*永瀬が決めに出るなら合駒を使わない▲4八金だ。
*永瀬はここで時間を投入。30分近く持ち時間を残しているのは大きい。
▲4八金
*合駒請求を拒否。永瀬は決めに出ている。それは竜を見捨てた115手目▲2四香から一貫した方針だ。
*木村は一分将棋に入った。
△同飛成
*この手で持ち時間を使いきった。
▲同 玉 △4七香
*永瀬はコップに水をつぐ。先手玉は広いので詰まない。紛れが少ない応じ方を考えている。
▲同 銀
*清算してさっぱりさせる。
△同桂成 ▲同 玉
*△1四角は攻防手だが、その角を王手で打つために先手に飛車桂香を渡したのは代償が大きすぎる。形勢がはっきりしてきた。
△2八歩成
*△3八銀からの詰めろだが、先に▲3二桂成から後手玉に王手が続く形だ。
*20時10分、和服に着替えた塚田九段が控室に戻ってくる。
▲3二桂成
*永瀬は慎重に4分使って金を取り、左手で口元を押さえる。
△同 玉
*木村は首を傾げて成桂を取る。
▲4四桂
*この局面で木村が投了した。以下は△2三玉▲1五桂△1四玉▲2五銀△同玉▲3六銀△2四玉▲2三飛△1五玉▲2五飛成までの詰み。
*終局時刻は20時16分。消費時間は、▲永瀬4時間49分、△木村5時間0分(チェスクロック方式)。
*勝った永瀬が2勝目を挙げて、3連覇にあと1勝となった。第4局は10月5日に神戸市「ホテルオークラ神戸」で指される。
*※局後の感想※
*感想戦は1時間ほど行われた。難しい進行だったが、終盤で後手にチャンスがきていた。98手目では△5六歩、100手目では△1四角が有力。101手目▲5八玉で木村は悲観していたが、114手目△8四金で△1五銀から受けていれば、まだ難しかった。
まで131手で先手の勝ち

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