第71期ALSOK杯王将戦七番勝負第1局。藤井聡太vs渡辺明

開始日時:2022/01/09 09:00
終了日時:2022/01/10 19:27
表題:第71期ALSOK杯王将戦七番勝負第1局
棋戦:王将戦
戦型:相掛かり
持ち時間:8時間
消費時間:139▲479△479
場所:静岡県掛川市「掛川城 二の丸茶室」
備考:昼休前42手目6分 2日目昼休前59手目34分 封じ手時刻:18:05<47手目>
先手:藤井聡太竜王
後手:渡辺明王将

*第71期ALSOK杯王将戦七番勝負が開幕する。渡辺明王将は名人と棋王も持つ三冠。挑戦者の藤井聡太竜王は、王位、叡王、棋聖をあわせて四冠。三冠と四冠のタイトル戦は史上初である。渡辺が4連覇を果たすか、藤井が五冠に輝くのか。注目のシリーズだ。
*第1局は2022年1月9、10日(日、月祝)に行われる。対局場は静岡県掛川市「掛川城 二の丸茶室」。持ち時間は各8時間。昼食休憩は12時30分から1時間。両日とも9時から指し始め、9日18時以降の指し手を封じ手とする。
*立会人は森内俊之九段、副立会人は神谷広志八段、記録係は福田晴紀三段(中川大輔八段門下)。スポーツニッポンの観戦記は関口武史指導棋士五段が執筆する。
*対局当日、掛川は快晴。明け方には気温が1度まで下がった。予想最高気温は13度。二の丸茶室に立会人の森内九段や日本将棋連盟会長の佐藤康光九段をはじめとした関係者が集う。藤井は8時44分、渡辺は49分に入室した。対局準備が整い、久保田崇・掛川市長が振り駒を行う。渡辺の振り歩先で、結果はと金が3枚。第1局の先手は藤井と決まった。
▲2六歩
*◆藤井 聡太(ふじい そうた)竜王(王位・叡王・棋聖)◆
*2002年7月19日生まれ、愛知県瀬戸市出身。杉本昌隆八段門下。2016年、四段。2021年、九段。棋士番号は307。
*タイトル戦登場は7回。獲得は竜王1期、王位2期、叡王1期、棋聖2期の計6期。棋戦優勝は5回。
△8四歩
*◆渡辺 明(わたなべ あきら)王将(名人・棋王)◆
*1984年4月23日生まれ、東京都葛飾区出身。所司和晴七段門下。2000年、四段。2005年、九段。棋士番号は235。
*タイトル戦登場は40回。獲得は竜王11期(永世竜王)、名人2期、王座1期、棋王9期(永世棋王)、王将5期、棋聖1期の計29期。棋戦優勝は11回。
▲2五歩
*【藤井の公式戦成績】
*通算成績は258勝50敗(0.838)
*昨年度成績は44勝8敗(0.846)
*本年度成績は45勝10敗(0.818)
△8五歩
*【渡辺の公式戦成績】
*通算成績は701勝357敗(0.663)
*昨年度成績は26勝15敗(0.634)
*本年度成績は18勝11敗(0.621)
▲7八金
*藤井の直近10局は8勝2敗。古い対局から順に○○○○○○○●●○。第42回将棋日本シリーズJTプロ公式戦で準優勝した。直近の対局は12月2日の第80期順位戦B級1組で近藤誠也七段に勝ち、リーグ内では現在単独1位。
△3二金
*渡辺の直近10局は5勝5敗。古い対局から順に●○○○●●●○●○。第29期銀河戦で準優勝した。直近の対局は12月24日の第35期竜王戦1組ランキング戦1組。豊島将之九段を相手に持将棋となり、指し直しを制した。
▲3八銀
*藤井の本棋戦成績は27勝8敗(0.771)。第67期から参加。第69期から3期連続で挑戦者決定リーグを戦った。前期はリーグ陥落となったが、今期は二次予選から勝ち上がって復帰すると5勝1敗で自身初の王将挑戦を決めた。
△7二銀
*渡辺の本棋戦成績は66勝43敗(0.606)。第51期から参加。七番勝負登場は7回(第62-64・68-71期)。王将獲得は5期(第62-63・68-70期)。今期は王将4連覇が懸かり、達成すればタイトル獲得の総数は30期になる。
▲9六歩
*冒頭に書いたように、三冠対四冠の対決は史上初。三冠対三冠は2013年の第84期棋聖戦五番勝負、羽生善治棋聖(王位・王座)-渡辺明竜王(棋王・王将)があった。羽生棋聖が防衛に成功し、三冠と三冠の勢力図は動かなかった。今回は渡辺が防衛する側である。(文中の肩書は当時)
△3四歩
*対戦成績は渡辺2勝、藤井8勝。渡辺の2勝は角換わりの後手番で挙げた。直近の対局は昨年9月14日(12月14日に放送)、第29期銀河戦決勝トーナメントで渡辺が勝った。タイトル戦は第91期と第92期の棋聖戦五番勝負があり、藤井が制している。
*2日制の七番勝負で当たるのは今回が初めて。渡辺の七番勝負は、王将戦で6回(今回で7回目)、竜王戦で13回、名人戦で2回あり、21回のうち18回でタイトルを獲った。通算120勝73敗と経験豊富だ。藤井は王位戦で2回、竜王戦で1回とまだ多くはないが、通算12勝1敗は圧巻。
▲2四歩
*両者の対戦では、さまざまな戦型が指されている。矢倉、角換わり、相掛かり、雁木を相居飛車の4本柱とすれば、渡辺が先手で指していないのは角換わり、渡辺が後手で指していないのは雁木だけ。本局は相掛かりになった。
*渡辺は戦前のインタビューで「(藤井とは)3回目のタイトル戦。過去2回を踏まえて戦う。4回目、5回目は自分の持つ材料が増えないので、ここから先は自分にとって条件が好転することはない。そういう意味では正念場」と話していた。
△同 歩 ▲同 飛
*王将戦は、スポーツニッポン新聞社と毎日新聞社が主催、ALSOKが特別協賛、囲碁将棋チャンネル、立飛ホールディングス、inゼリーが協賛する棋戦。一次予選と二次予選はトーナメント戦。予選通過者3人とシード棋士4人の計7人で挑戦者決定リーグが行われ、リーグ優勝者と王将が七番勝負でタイトルを争う。
*ALSOKは綜合警備保障株式会社のコーポレートブランド。立飛ホールディングスは不動産業や建設業を主軸とする。inゼリーは今期の七番勝負から協賛に加わった。森永製菓のゼリー飲料でキャッチフレーズは「10秒チャージ」。最近は一般のスポーツ選手・団体だけでなく、e-sportsの選手もサポートしている。本局の対局者にも提供される。
△8六歩
*協賛会社の囲碁将棋チャンネルは王将戦七番勝負を放送する。テレビの「囲碁・将棋チャンネル」は9日の8時45分~12時30分、13時30分~18時30分、10日の8時45分~12時30分、13時30分~20時00分の予定で放送。ネット上では「将棋プレミアム」が有料会員向けに、両日とも8時40分から動画配信する。1日目は藤森哲也五段と本田小百合女流三段、2日目は木村一基九段と観戦記者の内田晶さんが出演する。
▲同 歩
*主催社は冒頭で紹介したウェブサイト以外でも情報を発信している。ぜひご覧いただきたい。スポニチチャンネルでは、対局者の王将戦直前インタビュー(1月1日公開)を見られる。対局前日の記者会見の動画もアップされた。
△同 飛
*スポーツニッポンの事前特集記事をいくつか紹介する。両対局者の発言は興味深いものが多かった。掛川対局では恒例となった甲冑姿の撮影だが、今回は甲冑を取り寄せて事前に撮影された。
▲8七歩
*続いて毎日新聞の記事(一部有料)。森内九段や深浦康市九段の談話もある。森内九段は本局の立会人であり、第53期王将を獲得した経験を持つ。
△8四飛 ▲2八飛
*掛川市は静岡県西部の都市。東海道五十三次の26番目の宿場として知られる。特産品はイチゴ、キウイフルーツ、緑茶など。王将戦の掛川開催は13年連続13回目となる。第1局の協賛は、掛川市、島田掛川信用金庫、さらに地元経済人で構成される「ゼロの会」。後援は掛川市教育委員会、静岡新聞社・静岡放送。初回の第59期から官民一体で王将戦を盛り上げてきた。
△2三歩
*掛川城は、室町時代に駿河の今川氏が家臣の朝比奈氏に命じて築城させたのがはじまり。戦国時代に山内一豊が城主となった。現在の掛川城天守は1994年4月、日本初の本格木造天守閣として復元されたものである。二ノ丸御殿は江戸時代から現存し、国の重要文化財に指定されている。渡辺の掛川対局は過去6戦全勝と相性がよい。藤井は初めて指す。
▲7六歩
*現地の「大日本報徳社大講堂」では9日と10日に大盤解説会が開かれる。地元の子どもたちのための「対局見学会」は9日昼、10日朝昼に行われる。解説会と見学会は事前申込制で、すでに締め切られた。応募者多数で抽選になったそうだ。「第9回掛川こども王将戦」は8日に行われた。王将戦の対局者が観戦するのが恒例だったが、前回と今回は新型コロナウイルス感染拡大対策でオンライン対局になった。対局場近くの「二の丸美術館」では、王将戦を記念した特別展示が行われている。歴代王将戦の記念扇子、揮毫、第1局のポスターなどが1月16日まで展示される(11日は休館日)。
△4二玉
*対局者は昨日、東西から東海道新幹線で掛川入り。二の丸茶室で検分、揮毫、記者会見をこなし、夜は掛川グランドホテルで前夜祭に臨んだ。前夜祭には、静岡県焼津市出身の青野照市九段、賀茂郡出身の八代弥七段も出席した。神谷八段は浜松市の出身である。
▲3六歩
*関係者控室には森内九段と神谷八段がいる。佐藤康九段は控室をあとにした。現局面の前例は1局。昨年10月の本棋戦挑戦者決定リーグ、▲永瀬拓矢王座-△豊島将之竜王戦(肩書は当時)。148手で後手が勝った。
△6四歩
*今期七番勝負の記念扇子は、渡辺が「芸」、藤井が「技」と揮毫した。「芸」は渡辺の熟練した技術を感じる言葉だ。藤井の「技」の意味は以下の記事で報じられている。
▲3七銀
*先手は早繰り銀、後手は腰掛け銀模様。ここまでは23手目に記した▲永瀬-△豊島戦と同じだ。以下△6三銀▲4六銀△5四銀▲3七桂△5二金と進行した。
△7四歩
*4分の考慮。渡辺が前例(△6三銀)から手を変えた。前例は戦いが始まったあとの56手目に△7四歩と突いたので、本局はまた違う展開が予想される。
▲4六銀
*明日は成人の日で祝日。掛川市の成人式は本日9日に開催される。掛川会場は10時30分から12時30分までが前半の部となる。今朝は晴れ着の若者たちが掛川城で記念撮影をしていた。ちなみに藤井は今年7月19日に20歳になり、来年1月に成人式を迎える。
△7三桂
*森内九段にここまでの進行を聞いた。相掛かりは予想していたという。
*「後手は早めに△3四歩を突いてから△8四飛と構え、比較的穏やかな形にしました。先手が激しい戦いを選べば研究で対応し、このまま穏やかなら後手番らしく、先手についていく指し方にするのだと思います。渡辺王将の準備を感じる出だしです。藤井竜王は▲4六銀としました。後手の4二玉型には▲4六銀から▲3五歩がひとつの形です」
▲3七桂
*藤井は席を外した。渡辺は腕を抱え込むような姿勢で盤上を見ている。暖房設備は用意されているが、少し寒いのかもしれない。
*10時30分、おやつの時間。渡辺の注文はキウイジュースとホットコーヒー、藤井は抹茶と和菓子(ふくうめ)。飲み物は対局室に、お菓子は控室に出される。渡辺はキウイジュースを飲みながら考えている。午後のおやつは15時。
△6二金
*神谷八段は(1)▲4八金△6三銀▲5八玉△8一飛▲2九飛を示すと、「後手は自然だけど、先手の意図がよく分からない。こういう形に組んではいけないと教わったんだけどな」とつぶやいた。3五で歩を交換すると△3六歩と打たれてしまう。3八金・5八玉型に組んでから▲3五歩△同歩▲2六飛とするのも、飛車先交換から▲2八飛と引いた本譜ではそぐわない感じがする。(2)▲4五銀は△8六歩と後手も動いてくる可能性がある。
▲4八金
*▲5八玉よりも▲4八金のほうが価値が高いだろうか。桂にヒモが付いたため、次に▲4五銀としても△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△7六飛▲3四銀に△3六飛が銀桂両取りにならない。渡辺はひざ掛けをしている。藤井はまだ使用していない。
△8八角成
*11時17分の着手。△8八角成までの消費時間は、▲藤井45分、△渡辺1時間15分。
▲同 銀
*先手は手順に銀を上がれた。この先の構想としては▲7七銀から▲6六銀が考えられる。
△2二銀
*後手の指し手は分かりやすい。△6三銀から△8一飛と形を整える。戦機はまだ先だと思えば△9四歩も入れたい。鳥の声がよく聞こえる、穏やかな午前のひととき。ただ、盤上はいつ嵐が起きるかも分からない。森内九段と神谷八段は、先手玉が5八と6八のどちらに上がるべきか、▲1六歩を入れるのは得かどうかなど、細かい点を話し合っている。「わからん。羅針盤がない」と神谷八段。先手は手将棋模様で構想力が問われる。
▲7七銀
*相掛かりの理想形のひとつに銀冠があるが、この形で▲8六歩は△同飛で1歩損になる。今回は▲7七銀で矢倉の形に組んだ。
△6三銀
*序盤は渡辺が誘導したようなところがあり、じっくりと穏やかな展開を目指しているのではないか、と森内九段は推測していた。ここまでは目論見どおりの展開だろうか。
▲2九飛 △8一飛
*将棋プレミアムでは、藤森五段が▲4五角や▲5六角を解説している。ただ、渡辺は大丈夫と判断しているのだろう。△8一飛は「やるならどうぞの手」だと藤森五段。
▲6八玉
*まだ動かない。藤井は窓外に目を向けた。視線の先には二の丸茶室の庭園が広がる。後手の候補手は△3三銀や△9四歩だが、△9四歩には▲4五角がくるかもしれない。▲6八玉を入れたので、攻めたあとの反動が軽減されている。△3三銀も▲9五歩との交換をどう見るか。
△9四歩
*このタイミングで9筋を受けた。1筋はどうなるか。先手は▲1六歩から1筋攻めも手札に加えたいが、▲5六角~▲3四角~▲1六角の含みはなくなる。森内九段が対局室に入った。もうすぐ昼食休憩に入る。
▲8六歩
*「ええ?」と神谷八段は目を丸くした。「▲8七金から▲7八玉ということだと思うけど、▲8六歩がいい手だというなら、私が習ってきたことは、すべて間違いだったことになる」と話す。普通は後手が△8六歩▲同歩と突き捨てることで生じる形だ。それを自分から▲8六歩とは驚く。しかし、藤井はこの手を休憩に入る数分前に指したので、特別な手だとは思っていないのかもしれない。金冠は評価が高まっている形でもある。
*
*ここで渡辺が6分使って昼食休憩に入った。休憩時間は12時30分から1時間。消費時間は▲藤井1時間24分、△渡辺1時間44分(持ち時間は各8時間)。藤井の注文は「天ぷらうどん」、渡辺は「しあわせ卵のオムライス」。
*
*13時30分になり、対局再開。地元の子どもたちが対局室に入り、その様子を見守った。定跡の駒組み段階であれば、渡辺も指す姿を子どもたちに見せたかっただろうが、いまは攻めるか待つかの重要な岐路である。二度三度と首をひねり、見学時間内に指すことはなかった。
*「すぐに後手が攻めるのは無理だと、藤井竜王は言っているわけです」と神谷八段。(1)△7五歩▲同歩△6五桂▲8八銀△8六飛▲8七歩△8一飛は▲6六歩で桂を取られそう。(2)△5四銀▲8七金△6五歩▲7八玉△6四角▲5六歩も後手が攻めていけるか不明だ。(3)△3三銀は先手の攻めに対して当たりが強くなる恐れがある。徹底的に待つなら(4)△5二玉か。
△1四歩
*昼食休憩後の指し手。14時55分の着手。1時間31分の長考で端歩とは難しい。現地では14時から大盤解説会が始まっている。参加者には深蒸し掛川茶がふるまわれた。▲8六歩を対局室で目撃した森内九段が、解説の1番手で登壇した。
*「何が起きたのか、すぐには分からないくらい衝撃的な手でした。7七銀が7三桂に狙われそうな駒でしたから、▲8七金~▲7八玉から7七銀を動かすのが▲8六歩の狙いですが、もしこれがいい手なら、藤井竜王は未来の感覚を持っていますね」(森内九段)
*15時になり、午後のおやつが出された。藤井は「掛川紅ほっぺのショートケーキ」と「パイナップルジュース」、渡辺は「いちごジュース」と「ホットコーヒー」。「紅ほっぺ」はブランドいちごだ。渡辺はいちごジュースをあっという間に飲み干した。
*
*※局後の感想※
*「▲8六歩としたからには▲8七金だと思いました。ならばこちらは端でも詰めておこうかと」と渡辺。しかし、その思惑は外された。藤井は▲8七金ではなく▲5六角を軸にした駒組みを考えていた。
▲6六歩
*47分の考慮。前手の1時間31分に対する「半分返し」である。
*▲6六歩も予想しづらい。しかし、先手の方針は見えてきた。▲6六歩を突いてから▲8七金では6筋の守りが薄いため、▲5六角や▲4五角から攻めるつもりだろう。後手は1手前の△1四歩でいったん攻めを諦めたが、▲6六歩でまた攻めるか待つかを決めなければならない。△7五歩▲同歩△6五桂は▲7六銀で少し無理攻めのようだ。
△3三銀
*26分の考慮。消費時間の通計は、渡辺のほうが1時間以上も多い。決断よく指す渡辺、じっくりと時間を使う藤井というイメージが強く、本局の時間の使い方は少し意外だ。
*16時からスカパー公式YouTubeチャンネルでイベント放送が始まった。藤井猛九段、斎藤慎太郎八段、戸辺誠七段、香川愛生女流四段が出演する。
▲1六歩
*角を打たなかった。この将棋の骨格は、いつ決まるのか。16時30分を回り、そろそろ封じ手に絡む駆け引きも始まりそうだ。神谷八段は△4四歩を検討している。以下(1)▲3五歩△同歩▲同銀△3四歩▲2四歩△同歩▲同銀は、△2八歩▲同飛△3九角▲3三銀成△同桂▲3八飛△4八角成▲同飛△2一飛。これは後手の調子がよい。(2)▲5六角△6五歩▲3五歩△5四銀は考えられる。17時になり、掛川の街にチャイムが流れる。「遠き山に日は落ちて」だった。
△4四歩
*八代七段、高野智史六段、加藤桃子清麗が指導対局を終えて関係者控室を訪れた。大盤解説会にも出演する予定だ。高野智六段に現局面について聞いた。
*「つかみどころのない将棋です。どちらがいいのか分かりません。ただ、開戦した時点で形勢に差がつく可能性もあるため、対局者としては慎重になります。現局面では▲5六角が見えますが、△6五歩▲同歩△5四銀から逆用されるかもしれません。角を打つとすれば決断の一手になります」(高野智六段)
*
*渡辺は前日の記者会見で、年下の棋士と戦うことの難しさについて問われ、「技術的にも新しいものが出てきて、自分がやってきたことが古くなり、対応が難しくなっていく」と答えた。バランス型の後手陣は近年の主流なのだが、先手陣はその少し先を行こうとしている。先手陣は好形か、それとも愚形か。評価が定まるには数ヵ月、あるいは数年かかるかもしれない。
*
*17時40分、藤井は考え続けている。盤上から視線を外す時間はわずかで、封じ手時刻をただ待っているという雰囲気ではない。18時になった。対局室に動きはない。有力な候補手は▲5六角と▲3五歩。この2手の比較は難しく、「どちらも捨てがたい」という意見もあった。
*18時5分、藤井が封じ手の意思表示をした。47手目の考慮時間は1時間3分。1日目の消費時間は、▲藤井3時間36分、△渡辺4時間5分(持ち時間は各8時間)。封じ手に▲5六角を予想したのは、森内九段、高野智六段、藤森五段、福田三段。▲3五歩は、神谷八段、八代七段、加藤桃清麗。▲3五歩△同歩▲同銀△3四歩には▲4六銀が加藤桃清麗の予想手だ。
▲3五歩
*対局2日目も快晴に恵まれた。今朝のスポーツニッポンは王将戦が1面を飾った。1日目終了後の対局者のコメントも出ている。▲8六歩について藤井は「相掛かりでは部分的に出る手。やってみようと思いました」、渡辺は「どうなっているのかがちょっと分からなかったです」。
*8時44分に藤井、48分に渡辺が入室した。福田三段の読み上げで1日目の指し手を再現していく。59分に森内九段が封じ手を開封した。▲3五歩だった。
*
*
*※局後の感想※
*「▲5六角でしたか」(藤井)
*「角もよくわかりませんでした」(渡辺)
*▲5六角△6五歩▲同歩△5四銀▲6四歩△7五歩▲同歩△6五桂▲7六銀が検討された。
△同 歩
*渡辺は1分で△3五同歩と応じる。▲3五歩は予想していたようだ。
▲同 銀
*△3六歩は▲2五桂が銀に当たる。ただ、それも簡単ではない。2日目の現地解説会には、定員80人に対して633人の応募があった。今期王将戦の注目度の高さを感じる。
△3四歩
*両者とも想定どおりの進行と思われる。読みの蓄積があるので進行が速い。△3四歩に▲2四歩は45手目に書いた(1)の変化で先手がまずい。3筋の歩を切ったことに満足して▲4六銀が無難だ。
▲4六銀
*△2四歩なら互いの玉の左側は同じ形になるが、先手が2歩を持っているのでさすがにないか。控室では△2四銀が予想されている。銀を上がれば▲2五桂が銀取りにならない。また、▲1五歩△同歩▲1三歩△同香▲1四歩△同香▲3六角といった攻めもない。最後の▲3六角は1四の香取りだけでなく、▲6三角成△同金▲7二銀の狙いもある。
△7五歩
*31分の考慮。控室の予想とは真逆の手が指された。反撃に転じる△7五歩。森内九段は「思いきった手」と言う。先手の▲3五歩(47手目)とは違い、本腰を入れた攻めは反動も大きくなる。一例は▲7五同歩△6五歩▲同歩△同桂▲7六銀△8六飛▲8七金△8一飛▲8二歩△同飛▲8六歩だが、後手の攻めは続くだろうか。9時53分、八代七段、高野智六段、加藤桃清麗が関係者控室に到着した。
*
*
*※局後の感想※
*「攻めさせられている感もあるけど、待つ手もあまりない」(渡辺)
▲同 歩
*46分の考慮。消費時間の差が詰まってきた。
△6五歩
*将棋プレミアムでは木村九段が解説中。▲6五同歩以外に▲2五桂、▲5五銀、▲5六角も候補に挙げている。
▲5六角
*「4六銀と3七桂の配置に違和感があったのですが、▲5六角でまとまりつつあります。銀が5五を守っていますし、▲3五歩△同歩▲同銀と攻めたときも3四に角と銀が利きます。△6六歩には▲7四歩です」(木村九段)
*将棋ソフトの示す手のうち、木村九段は△2四歩を取り上げて解説した。主な狙いは2つ。▲3五歩△同歩▲同銀のあとに▲2三角成を消している。また、▲3五歩△同歩▲同銀△3六歩▲2五桂を△同歩と取れる。問題は▲2五歩を絡めた攻めに対応できるかどうかだ。木村九段は「違和感のある手」としつつも、長考の結果として△2四歩を選ぶ可能性はあると話す。2筋と8筋の歩突きは本局を象徴する手だ。
*午前のおやつは、藤井が掛川の茶畑をイメージした「CHABATAKEケーキ」とアイスティー。渡辺はキウイジュースとホットコーヒー。10時38分、藤井は羽織を脱いだ。暖かいこともあるのだろうが、勝負の熱も高まっている。
*
*
*※局後の感想※
*▲6五同歩は△5四銀▲6四歩△6五桂▲7六銀△8六飛▲8七金に△6七歩を藤井は気にした。
△5四歩
*先手の角に圧力をかけた。どこかで△5三金も考えているだろうか。八代七段は次のように話す。
*「1日目の流れを考えると△7五歩(52手目)は意外でしたが、渡辺王将らしい積極的な手でした。筋としては昨日から考えていたのかもしれません。この△5四歩はプロ好みの柔らかい手です。▲6五歩には△5三金だと思います。先手が角を手放し、6二金型を維持する必要がなくなりましたので、上部に厚い形を目指せます。後手は△8五歩▲同歩△同桂の筋ではなく、先手が▲6六銀と上がりにくいこと(8六歩が浮く)をとがめるように指したいですね。先手玉の上部に少しずつ嫌みをつけ、相手の指し手を難しくさせるイメージです」
*
*
*※局後の感想※
*△8四飛もあった。「本譜の構想は悠長だったかもしれない」と渡辺。
▲6五歩
*▲5六角を打った効果で△6五同桂はない。渡辺は扇子を開いてあおぐ。使用しているのは今期七番勝負の記念扇子である。
△5三金
*先手は持ち歩が多いので攻めようと思えば攻められる。たとえば▲1五歩△同歩▲1二歩△同香▲1三歩△同香▲2五桂だが、後手も6~8筋に歩が立つ。歩を渡す攻めは反撃も覚悟しなければならない。
*ここで藤井が34分使って昼食休憩に入った。休憩時間は12時30分から1時間。消費時間は▲藤井5時間43分、△渡辺5時間22分(持ち時間は各8時間)。藤井の昼食は「しあわせ卵のオムライス」。渡辺は「うな重」でごはん少なめ、サラダ抜き。
▲1五歩
*対局再開。14時1分の着手。森内九段は先手持ちだ。2日目昼食休憩の局面で、「先手は攻めと受けのどちらを指しても少しいいと思います」と話していた。藤井もどちらでいくか方針を定めるために時間を使ったのだろう。▲1五歩以外では、▲8七金や▲7六銀△8六飛▲8七金で手厚くする指し方も考えられた。
*
*
*※局後の感想※
*▲3五歩△同歩▲1五歩は△2四歩で▲2五桂を消され、△3六歩から桂を取りきられるかもしれない。そこで本譜は▲1五歩を先にした。手順前後は許されない。
△同 歩
*(1)▲3五歩△同歩▲1二歩△同香▲1三歩△同香▲2五桂△2四銀▲1三桂成△同銀▲3四香が継ぎ盤に並ぶ。「この攻めはそこそこか」と神谷八段。3筋の突き捨てを入れない場合は(2)▲1二歩△同香▲1三歩△同香▲2五桂△2四銀▲3三歩△同桂▲1三桂成△同銀▲3五歩になるが、△6七歩で先手の評判はいまひとつだった。
▲3五歩
*検討された順に進むだろうか。ちなみに△3五同歩に▲2三角成は△2八歩▲3二馬△同玉▲2八飛△3九角で先手大変。
△2四銀
*「なるほど、(検討では7三桂を使うために)どこかで△6四歩を考えていたけど、もっとスパッといこうというんだ」(神谷八段)
*▲3四歩△3六歩▲2五桂△4五歩に(1)▲4五同角は△6五桂と跳ねられる。(2)▲4五同銀も△3七歩成▲同金△5五歩▲6七角△6五桂。先手の駒を呼び込んでから攻める、カウンター攻撃である。
▲3四歩
*藤井は左腕を脇息にのせ、少し楽な姿勢になった。王将戦七番勝負は各8時間もある。それぞれ一分将棋になるまで指せば夜戦は必至。最後まで戦い抜く体力も求められる。渡辺の考慮中に15時。最後のおやつは飲み物だけの注文だった。藤井はパイナップルジュースとアイスティー。渡辺はいちごジュース。
△3六歩
*互いに間合いを詰めてきた。
▲2五桂 △4五歩
*▲4五同角が本命視されているが、後手の応手は絞りきれない。△6五桂以外に△4四金もある。△8八歩や△3七歩成をどこで利かしてくるかも分からない。そのすべてを精査するなら長考にならざるを得ない。
▲2二歩
*手筋の歩がきた。
△同 金
*ノータイム。△4六歩▲2一歩成と取り合うのは▲3三歩成が厳しく残り、後手が勝てなかったようだ。「ただ、▲2二歩△同金の効果はすぐには分かりません」と森内九段。後手も持ち歩が増えるのは大きい。
▲4五角
*△4四金は依然としてあるが、「渡辺王将は△6五桂と跳ねそうです」と森内九段。△4四金は自玉を薄くする面もあるため、渡辺調ではないという見立てだ。
△8八歩
*今度は後手が手筋を使う。しかし、▲8八同銀と応じられると△6五桂が銀に当たらなくなる。
*「▲8八同銀△2五銀▲同飛△7六桂▲5九玉△8八桂成▲同金は、7三桂も使えずに残りますし、後手が少し無理をしているように思います。先手は駒が前に出ていますし、先手ペースに見えます」(高野智六段)
▲同 金
*▲8八同金だった。▲8八同銀と比べると上部の守りが厚い。ただし、いいことばかりではなく、△6五桂に▲6六銀は△8六飛が金銀両取りになり、▲7六銀は△4四角が怖い。高野智六段が▲8八同銀を予想したのは、△6五桂の問題もあったからだ。藤井はクリアしたのだろうか。ちなみに神谷八段は1日目から一貫して後手持ちである。
*
*※局後の感想※
*▲8八同銀は指しづらいようだ。渡辺も「▲8八同銀は△8六飛から飛車の位置を調整できるので」と話していた。
△3七歩成
*3六歩は先手玉が右に逃げてきた際に働く可能性もあった。成り捨てるのは決断の一手でもある。先手はまた▲同銀と▲同金の2択だ。基本的には▲3七同金をまず考えたい。4六銀は戦線を支える役目がある。
*
*※局後の感想※
*△4四金は▲3六角△3五歩▲4五角という順がある。そこで渡辺は歩を取られる前に成り捨て、有効活用した。角が金の前に戻るのは奇異に映るが、▲4五角に△同金▲同銀は後手も危ない。守りの金が消え、さらに先手の駒を呼び込んでいる。
▲同 銀
*16時42分の着手。▲3七同銀までの消費時間は、▲藤井7時間19分、△渡辺6時間49分。
*「△3七歩成に▲同銀なら、渡辺さんは『いいタイミングで歩を成った』と思っているかもしれません。藤井さんは▲3七同金だと嫌な変化が見えたのだと思います」(木村九段)
*
*※局後の感想※
*▲3七同金には△4四金。前手の感想戦コメントにも書いたが、後手は△4五金を指しづらいため、先手は角を逃げる必要がない。しかし、角を逃げずに何を指すかというと難しい。「うまい待ち方が分かりませんでした」と藤井。
△4四金
*藤井、渡辺と相次いで残り1時間を切った。△4四金は駒音が少し高かった。71手目▲8八同金を生かして▲7八角は、△6五桂▲7六銀△5七桂成▲同金に△5五角が金銀両取り。途中の△5七桂成を▲同玉は△2五銀がある。以下▲2五同飛は△7九角が王手金取り。
▲5六角
*△5五歩なら前手コメントにある△5五角の変化が消える。神谷八段は△5五歩に▲6四歩△同銀▲7四角を指摘した。
*
*※局後の感想※
*(1)▲7八角△6五桂▲7六銀△5五角▲6六歩△同角▲9八金△8八歩▲6五銀△8九歩成▲同角もあった。これも簡単ではないが、後手の5筋の歩は伸びてこない。
*(2)▲4六銀△6五桂▲7六銀には、△4五金▲同銀と角を取れる可能性がある。以下△6七歩でどうか。
△5五歩 ▲7八角
*ここは素直に撤退した。どちらもねじり合っている。70手目△8八歩以降、後手の攻めが続いているが、先手も受け流すように指していてハッキリしない。藤井が席を外すと、渡辺は「うーん」と声を漏らした。
*
*※局後の感想※
*▲6四歩△同銀▲7四角には△5四角の受けがあった。
△6五桂
*△6五桂は積極的だ。おそらくリスクも承知で跳ねている。力をためる△5四銀も有力と見られていた。森内九段は▲7六銀△4三角▲8七金△6六歩の変化を考えている。かなり難しいようだ。以下▲4六銀△5四銀の交換は、後手が厚みを築く。
▲1二歩
*検討では先手の思わしい変化が見つからず、森内九段が「時間がない」とつぶやいた直後に▲1二歩が指された。藤井は残り12分まで考えた。渡辺は残り26分。
*森内九段は▲7六銀△4三角▲8七金△6六歩のあとに▲1二歩を検討していた。本譜は△7七桂成を避けていない。「苦肉の策という感じがします」と森内九段。7七銀を取られるのは痛いし、1筋から攻めても後手玉の右側が広い。いまは渡辺に流れがきているようだ。
△同 香
*後手の持ち歩が増えていく。
▲1三歩
*▲1三歩には手抜きもある。△7七桂成▲同金△7六歩が有力だ。以下▲7六同金△6七歩▲同角△6六歩▲同金△8六飛は後手がよい。
△同 香
*渡辺はさらに面倒を見る。
*
*※局後の感想※
*(1)△6七歩▲同角△6六歩は▲8五角と逃げられる。後手は6筋に拠点を作り、8五角も質駒ではあるものの、△8五飛を絡めて寄せにいくことになるのでリスクが高い。「いきなりこれはやりづらい。▲8五角が見えて読むのをやめた」と渡辺。
*(2)△7七桂成▲同金△7六歩▲同金△6七歩▲同角△6六歩▲同金△8六飛は有力で後手よし。森内九段が指摘した順で、「これは気持ちいいですね」と渡辺も納得した。歩がぴったり足りている。途中の△6七歩に▲5八玉なら利かしと判断し、△1三香と手を戻して後手十分だ。
▲同桂成
*角と歩以外では初めての駒交換だ。先手は香と手番を得ることになる。
△同 桂
*後手も桂を手にした。
▲4六香
*藤井は残り10分になった。渡辺も時間に余裕があるわけではない。濃密な序盤を展開し、ねじり合いの中盤を超え、たたき合いの終盤戦になりそうだ。
△4五歩 ▲同 香 △5六桂
*香をつり上げた効果で▲5六同歩は△4五金と取れる。
▲同 角
*攻めをつなぐには角で取るしかない。▲4四香に期待。
△同 歩
*角を取りつつ、先手玉のコビンに歩が伸びる。非常に強力な手。
▲4四香 △4三歩
*先手は駒損で攻めている。その戦力は決して豊富ではない。ただ、中央の戦いに持ち込めば、1~3筋の後手の駒も働きがなくなる。
▲同香成
*4分の考慮で飛び込んだ。
△同 玉
*▲5五桂に玉の逃げ方は悩ましい。
▲5五桂
*味方の駒を頼るなら△3二玉だ。上に逃げるなら決め手が必要になる。△4四玉▲6三桂成△5七歩成から勝ちまで持っていけるか。△5四玉は▲5六歩で難しい。
△5四玉
*渡辺も秒読みに入っている。記録係が発した「残り4分です」の声に首をひねり、やがて△5四玉を指した
*
*※局後の感想※
*「△3四玉は▲6三桂成△5七歩成▲同金△同桂成▲同玉△5六歩に▲6七玉が分かりませんでした」(渡辺)
▲5六歩
*6三の銀取りが残り、後手も切羽詰まっている。渡辺はさらに時間を使う。
*
*※局後の感想※
*▲6三桂成△5七歩成▲同金△同桂成▲同玉△5六歩▲6八玉も検討された。そこで後手は△6三玉か、それとも△5七角か。渡辺は「最後の下駄の預け方が分からない」と言う。
△6七歩
*▲6七同玉△6六歩▲同玉が最も強い対応だ。バランス型の陣形は左右どちらにも逃げられるのが長所だが、歩の拠点は残したくないし、左に逃げるのは8一飛、右に逃げるのは1三桂が働いてくるかもしれない。
*
*※局後の感想※
*△5二銀は▲6六歩で後手自信なし。
▲同 玉
*※局後の感想※
*藤井は▲7八玉も考えていた。「それには(6三)銀を逃げます」と渡辺。
△6六歩
*18時47分、渡辺は一分将棋に入った。藤井は残り3分。▲6六同銀には△8六飛で勝負する。
▲同 玉
*△7七桂成は王手ではないので▲6五金を打ちたい。玉の接近戦は厚みが特に重要になる。攻防両面で得るものが大きい。
△7七桂成
*△6四銀は▲2四飛から▲4三銀で寄せられる恐れがあった。
*
*※局後の感想※
*△6四銀は▲2四飛△7五銀▲同玉△9三角▲7六玉△7二香▲7五歩△同香▲8七玉……。「このあたりまで読んだけど分からなかった」と渡辺。
▲6五金
*この手が入れば先手は少し楽になる。ただ、後手玉も広いため、勝利をつかむまでの道のりは長い。
*
*※局後の感想※
*「単に▲7七同玉もありましたか」と藤井。本譜は6五金を取られてしまった。▲7七同玉△6六銀▲同玉△6四香といった変化になるが、先手がしのげていた可能性はある。
△4四玉 ▲7七玉
*互いの玉が戦場から遠ざかった。▲7七金もあっただろう。
△5四銀打
*今度は後手が玉周りを厚くしようとしている。
▲6六歩
*18時56分、藤井も一分将棋に入った。金を失うことになったが、▲3六桂が実現すれば銀は手に入る。
△6五銀 ▲同 歩 △5四銀
*「これで負けなら仕方ないという指し方です」(木村九段)
*形勢は揺れているようだ。対局者も確信のないまま、指しているのではないか。
▲7六銀
*自玉の安全を求める。いまは踏みとどまる手が必要と判断した。
△6二香
*後手は寄せを目指している。
*
*※局後の感想※
*「香を打たれてきついです」(藤井)
▲5七桂 △5三玉
*先手に駒を使わせてから自玉に手を入れる。
*
*※局後の感想※
*「意味のない手だった。かえって(先手の攻めが)速くなったかも」と渡辺は悔やむ。先手の次の手も大きかった。代えて△9五歩なら後手がよかった。渡辺は△5三玉を指したあとに気づいたという。
▲4六銀
*右銀を活用。先手は手駒を使い果たしたが、盤上は手厚くなってきたように見える。木村九段は「先手が盛り返してきた」と言う。合計七冠の頂上決戦は大熱戦になった。
△9五歩
*▲9五同歩△同香▲同香は△9九角。9九は先手の下段飛車が利かない唯一の場所だ。
▲同 歩 △同 香
*渡辺は脇息を斜めに引き寄せている。
▲1四歩
*△2五桂には▲2六歩で駒を取りにいく。115手目▲4六銀は△2五桂を避ける手でもあった。それにしても△9九香成がある状況からの攻め合いは、なかなか思い浮かばない。数手前の△9五歩に▲1四歩もあり得た。
△9九香成
*1三桂や2二金は取らせる方針か。取られることで働く駒もある。相手に手をかけさせたという考えだ。
*
*※局後の感想※
*「6六か6七に歩を打つのが普通だった」と渡辺。ただ、△6六歩は▲1三歩成△6七金▲8七玉となり、そのあとの迫り方が難しいようだ。藤井は歩を打たずに△2五桂を指摘していた。
▲1三歩成 △9六金
*△8六金の狙い。▲8五銀は△同飛で危ない。▲8五歩も8六の空間を利用されそうだ。
▲9七金
*▲9七金は8九桂を利用した対応。「駒は取られる直前が最も働く」という教えもある。
△8九成香 ▲9六金
*「△9九角のいやらしさは残っています」(木村九段)
*
*※局後の感想※
*「9六金を取らせる間に何かしようとしたのですが……」(渡辺)
△9九角
*先手玉を広いほうに逃がす攻めではあるが、△3六桂があるので先手もまだ油断できない。
▲6八玉
*41手目に突いた8六歩は、いまも盤上に残り、飛車の侵入を防いでいる。
△6六香 ▲5八玉
*先手の持ち歩は駒台の上で、孤を描くように並べられているが、その曲線はでこぼこだ。金は上向き、桂は下向きに置かれている。藤井といえども余裕はない。
△7七角成
*△7六馬以下の詰めろ。「後手は△7六馬から△7五馬で入玉も考えていると思います」と木村九段。
▲4五桂
*自玉に目がいきそうな局面で、藤井は敵玉を見ていた。
*
*※局後の感想※
*見事な切り返し。渡辺は▲4五桂が見えてなかった。▲4五桂に△5二玉は、▲4九玉△7六馬▲3八玉△3六桂に▲2四飛が詰めろで先手勝ち。以下(1)△2四同歩も▲6四桂△4一玉▲5二金△3一玉▲2二と△同玉▲3三歩成△1三玉▲1五香△1四銀▲2三金が一例で詰む。1筋のと金と香が詰みに働く。(2)△4八桂成は▲2八玉で大丈夫だ。
△同 銀
*59秒まで読まれた。木村九段は後手玉が詰む可能性を指摘。詰みがあるなら藤井は逃さないだろう。詰ますことに関して、藤井ほどの名手はいない。
*
▲4三金
*渡辺は頭に手をやり、天を見上げる。いつどこで逆転したのか。
△5四玉
*藤井は盤上しか見ていない。渡辺は上を見たり、下を向いたりと動きが多い。
▲4五銀
*追い方を誤ると打ち歩詰めに陥る可能性もある。
△同 玉 ▲4六歩
*4七にいた歩が後手玉を追い詰めるとは。不動駒は1九香の1枚だけになった。(1)△3四玉は▲3五歩△同玉▲3六歩△同玉▲4七金△3五玉▲3六歩△3四玉▲4五銀。(2)△3五玉は▲3六銀△同玉▲4七金△3五玉▲3九飛△2五玉▲3六金△3四玉▲2六桂。いずれも詰み。つまり3筋には逃げられない。
△5六玉
*渡辺は替えのマスクに手を伸ばした。
▲5七金
*ここで渡辺が投了。玉が向かい合う形を投了図とした。頂上決戦にふさわしい大熱戦だった。
*終局時刻は19時27分。消費時間は、▲藤井7時間59分、△渡辺7時間59分(持ち時間は各8時間)。投了以下は△5五玉▲4四銀△5四玉▲5三銀成△5五玉▲4七桂で詰み。第2局は1月22、23日(土、日)に大阪府高槻「山水館」で行われる。
*
*
*※局後の感想※
*終盤は抜きつ抜かれつの壮絶な戦いが繰り広げられた。藤井は「秒読みだったので分からないままやっていた」と言う。渡辺は114手目に△9五歩を逃したことを悔やんでいた。感想戦は20時47分に終了した。
まで139手で先手の勝ち

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