第6期叡王戦五番勝負第5局。藤井聡太vs豊島将之

開始日時:2021/09/13 09:00
終了日時:2021/09/13 18:22
表題:第6期叡王戦五番勝負第5局
棋戦:叡王戦
戦型:相掛かり
持ち時間:4時間
消費時間:111▲240△240
場所:東京・将棋会館
備考:昼休前47手目▲84分△95分\n
先手:藤井聡太王位・棋聖
後手:豊島将之叡王

*豊島将之叡王(竜王)が初防衛を果たすか、藤井聡太王位・棋聖が初の三冠達成なるか。第6期叡王戦五番勝負はいよいよ第5局を迎えた。ここまで両者とも譲らず2勝2敗(豊島から見て●○●○)。シリーズを制するのはどちらか。
*9月13日(月)9時に対局開始。対局場は東京・将棋会館「特別対局室」。持ち時間は各4時間(チェスクロック使用)。切れたら1手60秒未満の着手となる。先後は改めて振り駒で決定する。12時から13時まで昼食休憩。本局の立会人は塚田泰明九段、記録係は宮原暁月三段(中川大輔八段門下)がそれぞれ務める。
*
*当日の朝を迎えた。対局室に塚田九段、関係者や見届け人らが荘厳な面持ちで両者の到着を待つ。
*8時45分、藤井が先に対局室に到着。巾着袋からタオルなどを取り出す。1分後、豊島も到着した。ややあって一礼。豊島が駒箱を手に取った。淡々と駒が並べられていく。
▲2六歩
*9時、定刻通り対局が開始された。豊島の振り歩先で振り駒が行われ、結果はと金が3枚。藤井の先手に決まった。藤井は初手を指す前にお茶をひと口。そして▲2六歩を着手した。
△8四歩
*◆豊島 将之(とよしま まさゆき)叡王(竜王)◆
*1990年4月30日生まれ、愛知県一宮市出身。桐山清澄九段門下。2007年、四段。2019年、九段。棋士番号は264。
*タイトル戦登場は15回。獲得は竜王2期、名人1期、王位1期、叡王1期、棋聖1期の計6期。棋戦優勝は3回。
▲2五歩
*◆藤井 聡太(ふじい そうた)王位・棋聖◆
*2002年7月19日生まれ、愛知県瀬戸市出身。杉本昌隆八段門下。2016年、四段。2021年、九段。棋士番号は307。
*タイトル戦登場は5回。獲得は王位2期、棋聖2期の計4期。棋戦優勝は5回。
△8五歩
*【豊島の公式戦成績】
*通算成績は523勝242敗(0.684)
*昨年度成績は33勝19敗(0.635)
*今年度成績は10勝9敗(0.526)
▲7八金
*【藤井の公式戦成績】
*通算成績は238勝45敗(0.841)
*昨年度成績は44勝8敗(0.846)
*今年度成績は25勝5敗(0.833)
△3二金
*叡王戦は株式会社不二家が主催する棋戦。特別協賛は「ひふみ」と株式会社SBI証券。
*第3期からタイトル戦に昇格。段位別によるトーナメントの予選が特徴だ。予選は各1時間、本戦は各3時間、五番勝負は各4時間(いずれもチェスクロック使用)。
▲3八銀
*本局は8時30分からABEMAで生放送されている。解説は深浦康市九段、高見泰地七段。聞き手は村田智穂女流二段、室田伊緒女流二段。
△7二銀
*両者の対戦成績は豊島9勝、藤井7勝。2017年の初手合いから豊島が6連勝していたが、じわじわと藤井が差を詰めてきた。相性はもう関係ないだろう。
*直近の対局は今年8月24日に行われたお~いお茶杯第62期王位戦七番勝負第5局。藤井が相掛かりの戦いを制し、王位を防衛した。
▲9六歩
*戦型は相掛かりになった。控室に戻ってきた塚田九段は「早いですね」と笑みを見せる。
△9四歩 ▲6八玉
*藤井は6八玉型を採用。現局面は手元のデータベースで調べてみると67局の前例があった。
△1四歩
*今シリーズは前述の通りフルセットになったが、藤井は初めての経験だ。これまで藤井はタイトル戦で敗退したことがなく、2敗を喫したのも初。豊島の強さが表れているといえよう。
▲3六歩
*本局を藤井が制すると、三冠を保持する。19歳での達成は史上最年少記録だ。
*それに豊島が待ったをかけられるか。前述の竜王戦も併せて豊島は正念場を迎えている。王位戦では敗退となったが、静かに闘志を燃やしていることだろう。
△8六歩
*豊島の本棋戦成績は24勝10敗(0.706)。前期に当時の永瀬拓矢叡王を4勝3敗2持将棋1千日手の末破り、初戴冠となった。
▲同 歩
*藤井の本棋戦成績は16勝5敗(0.762)。段位別予選からの出場で、八段予選で長沼洋八段、杉本昌隆八段、広瀬章人八段に勝ち、本戦に進出。本戦では行方尚史九段、永瀬拓矢王座、丸山忠久九段、挑戦者決定戦で斎藤慎太郎八段を破り、五番勝負の舞台にやってきた。
△同 飛
*豊島の直近10局の成績は3勝7敗。古い対局から順に●●●●○●○●●○。
*
▲3七桂
*藤井の直近10局の成績は8勝2敗。古い対局から順に●○○○○○●○○○。
*黒星は豊島によるものだ。
△7四歩
*現局面は前述の王位戦第5局と同じ進行をたどっている。以下▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲7四飛と進んだ。塚田九段はその進行を「△1四歩は△2三歩と打たないために突くものだと思っていたんですが、不思議な感覚ですよね」とコメント。
▲2四歩
*2筋で1歩を交換する。8筋は△8七歩に▲9七角とかわせるので問題ない。
△同 歩 ▲同 飛
*互いに2歩を持ち合った。
△2三歩 ▲7四飛
*7筋の歩をかすめ取って1歩得に。先手がひとつ主張を作る。
△7三銀
*後手は歩損の代償に右銀の活用を図る。手得で勝負の姿勢だ。
▲8七歩
*このタイミングで▲8七歩と打った。これまで5局の前例があったが、いずれも▲7五飛と引いている。新手といえそうだが、類型の将棋は多そうだ。
△8二飛 ▲7五飛
*現局面は2局の将棋と合流している。藤井は先手を持って経験している形だ。第71期ALSOK杯王将戦二次予選▲藤井聡太王位・棋聖-△石田直裕五段戦。その将棋は以下△3四歩▲2五飛△4二銀▲4六歩△6四銀▲4七銀と進んだ。結果は先手の勝ち。
△3四歩 ▲2五飛
*2筋に戻し、これで飛車が安定した。
△4二銀 ▲7六歩
*これまでの4局はすべて先手を持った側が制している。藤井にとっては心強い要素といえるだろうか。
△4四歩
*角道を止める。後手は角交換を避け雁木の構想が予想される。
▲4六歩 △4三銀 ▲4八金
*9時15分ごろの局面。ここまでは目立った長考はなく手を進めている。
△6四銀 ▲4七銀
*4筋を盛り上げていく。
△5四銀
*この局面で藤井が20分以上手を止めている。どうやら△5四銀が工夫の一着のようだ。代えて△5四歩と突く手が自然に見えたが、腰掛け銀はあまり見られない構えだ。ほとんど時間を使っていなかったことから、豊島の研究手であることは間違いない。この手で前例がなくなった。代えて△5四歩と△5二金が指されていた。
*控室の検討によると、△5四銀は△6五銀左の狙いとのことだ。▲5六銀と対抗する手が示され、△5二金▲6九玉△3五歩▲2六飛の進行が検討された。
▲2九飛
*30分弱の考慮。2五にいた飛車を2九に引いた。
*控室には斎藤明日斗四段と伊藤匠四段が継ぎ盤で検討している。ふたりは宮田利男八段門下だ。このあとはABEMAのマルチアングル放送に登場するとのこと。豊川孝弘七段も顔を見せ、検討に参加している。9時55分ごろ、見届け人のアテンドで野月浩貴八段が顔を見せた。▲2九飛は「強気」と斎藤明四段。6五に銀を出られてもいいという判断だ。継ぎ盤には△6五銀左▲4五歩△7六銀▲4四角△8七銀成▲2二角成△同金▲8四歩が並べられ、難解との評判だ。△6五銀左に▲7七金は△7五歩で後手の攻めに勢いがつくのでやりにくい。検討が進み、△6五銀左▲4五歩△7六銀に▲6六角がなかなかの手だという。そこで△5二金と上がる手など、曲線的な手が調べられている。豊島の考慮は40分を超えた。塚田九段が腕時計をちらり。「もうすぐ1時間ですね」。
*10時のおやつが運ばれた。食べ物は控室に提供される。注文は豊島が「アーモンドショコラ」、「紅茶(アイス・氷なし)」。藤井が「コロコロしばちゃん」、「アイスコーヒー」。
△6五銀左
*11時1分の着手。1時間6分15秒の長考だった。△6五銀左までの消費時間は、▲藤井聡45分、△豊島1時間15分。
*△5四銀と上がったからには攻め込みたいところ。控室の検討では▲4五歩を本線に検討していたが、▲7七金もあるようだ。以下△7五歩に▲同歩△同銀▲9七角△8六歩▲同金△同銀▲同角△4五歩▲同桂△9九角成▲5三桂成△8九馬という激しい変化が並べられた。こうなると「一気に終盤戦」(塚田九段)だ。
▲7七金
*少考で▲7七金と上がった。悪形になるうえに△7五歩が見えているが、それでも戦えると判断している。
*「部分的にはこういう攻めもあるんですけど」と斎藤明四段は△9五歩を挙げた。▲9五同歩に△9八歩▲同香△7六銀が狙い。▲7六同金は△8七飛成で金と香の両取りがかかる。しかし手順中の△7六銀に▲8六金が好手でうまくいかないようだ。以下△8七銀成なら▲8三歩△同飛▲8四歩△同飛▲8五歩で受け止められる。
△7五歩
*すかさず7筋を合わせた。午前中から盤上で火花が散っている。豊島の攻め、藤井の受けの構図だ。
*「かなり豊島叡王も前がかりにきていますね。すごい迫力ですね」とABEMAで解説を務める深浦九段。▲7五同歩△同銀▲2五飛△7六銀直▲同金△同銀▲5五角△6四金の変化を解説している。
▲同 歩
*22分ほどの読みを入れて▲7五同歩。
△同 銀
*2枚の銀が先手陣を襲う。△4五歩の筋もあるので破壊力抜群だ。時刻は11時30分。
*
*※局後の感想※
*ここで▲2四歩△同歩▲2五歩△同歩▲2四歩△7六銀直が並べられた。▲2五飛△1三桂▲2九飛△2六歩が並べられた。この変化は「怖かったです」と藤井。
▲9七角
*出てきた銀を目標に角を出た。△7六銀直なら▲5三角成と成り込める。反撃含みの手だ。
*
*
*※局後の感想※
*△8六歩▲同金△同銀▲同角△4五歩も触れられた。「桂跳ばれてまずそうな雰囲気」と豊島。以下▲4五同桂△9九角成まで触れられ「やられたらやなんですけど、何とも……」と藤井。
△6四銀
*11時49分の着手。
*一気に攻め込むのかと思いきや6四に撤退。△8六歩の変化は自信が持てなかったのだろうか。豊島はほとんど動かずに盤上を一点集中。そろそろ昼食休憩が近づいてきた。11時58分、藤井が身の回りを整えて席を立った。少し早めではあるが休憩に入ったようだ。豊島も続いて席を立つ。
*12時、この局面で藤井が11分使って昼食休憩に入った。ここまでの消費時間は、▲藤井聡1時間24分、△豊島1時間35分。対局は13時から再開される。昼食の注文は、豊島が「鰻重 桜」、藤井が「海老天重」。渋谷松川の品だ。
*
*昼食休憩中、塚田九段と豊川七段がABEMAに出演している。形勢をきいてみると、塚田九段は後手玉が薄いので先手持ち、豊川七段も先手持ちのようだ。深浦九段は定まらず、高見七段はいい勝負との見解。豊川七段のダジャレがさえわたり、和やかなムード。控室でも豊川七段の声に反応して笑い声が生まれている。
*両者とも早めに対局室に戻ってきた。藤井は扇子を手に、体を前傾させる。
▲6六歩
*13時になり対局再開。藤井の手はすぐに6筋に伸びた。
*もう1枚の銀を追い払おうと▲6六歩。△7四銀か△5四銀が予想されるが、これは穏やかな展開になるだろうか。
*「△7六銀も一瞬考えたんですけど▲7六同金△8七飛成▲6五歩△7三銀▲5三角成で馬の力が強いと思いますね」(塚田九段)。
*塚田九段は▲6六歩と突くと9七角が使いにくくなりそうと懸念している。△9五歩を先受けして▲8八角と引いても、角道が二重に止まってしまう。負担になりそうな角をどうさばいていくかが先手の課題といえそうだ。
△7四銀
*26分45秒の考慮。3一の銀がぐるぐると7四まで動いた。代えて△7六歩は▲6五歩△7七歩成▲同桂△5五銀▲5三角成の進行が予想された。
*控室に小高佐季子女流初段、水町みゆ女流初段、和田はな女流1級が訪れた。3人ともABEMAのマルチアングルに出演している。水町女流初段が豊島側に座り、小高女流初段と和田女流1級が藤井側に座って検討中。
*続いて日本将棋連盟常務理事の鈴木大介九段が訪れた。4八金・4七銀型が手厚いと見て先手持ちの見解だ。▲7八銀か▲5八玉を候補に挙げる。▲7八銀は8七に利きを足す手。▲5八玉は戦場から遠ざかる手だ。将来的に4九~3八まで逃げ込みたいという。
*「自分対自分なら相当先手持ちたいけどなあ。まだ(形勢の)差は開いていないんですね」(鈴木九段)
*時刻は14時を回っている。藤井が40分を超える長考で、消費時間が逆転した。
*「△5四銀だと思っていたのかもしれませんね」(塚田九段)
*
*※局後の感想※
*△5四銀は▲7四歩を藤井は示す。
▲7八銀
*14時12分の着手。▲7八銀と8筋を強化。△7六歩に▲同金と取れるようにした。このあと▲5八玉~▲6七銀~▲7八金まで指せば好形になる。時刻は14時30分。豊島はほとんど動かずに熟考中。藤井は飲み物を口にした。将棋はスローペース。「ここで間違えられないということでしょうね」と塚田九段。豊島の手が止まって30分が経過した。
*
*
*※局後の感想※
*△9五歩は▲同歩△同香▲6四角△同歩▲9五香△8八歩▲2八香△8九歩成▲2三香成△2八歩▲同飛△3九角▲9三香成で「負けそうですね」と豊島。藤井は手順中の△8九歩成に代えて△4一角を挙げる。以下▲9一香成△8九歩成▲8一成香△9二飛▲8九銀は「あんまりうまくいってない」(藤井)。さらに△9九飛成▲8八銀打△9二竜▲2四歩△同歩▲2三歩△同金▲2四香△同金▲同飛△2三歩▲2九飛まで進むと、豊島も「大変は大変ですか」とコメント。最初の△9五歩から▲9三香成までは無言で淡々と駒が並べられた。言葉を交わさずとも意思はぴったりだったようだ。
△3三角
*△3三角と上がった。手を渡したようにも見える一着。△2四角や△1五角を狙っているだろうか。△4五歩は▲同桂が角当たりになるので突きにくくなっている。
*「人間の目には苦しんでいるように見えますね。攻めていけなかったってことですから」(塚田九段)
*控室では▲1六歩とパスしたらどうかとの意見がある。手渡しには手渡しの姿勢だ。しかしほかの有効手もありそう。▲5八玉や▲6七金はどうか。比較は難しい。
*「こういう手(△3三角)のほうが相手は考えますよね」と塚田九段が盤上を見つめている。指されてみると先手も悩ましく、実戦的な一着のようだ。
*15時のおやつが運ばれた。豊島が「国産フルーツロール」、「リンゴジュース(氷なし)」。藤井が「プレミアムミルキーバターサンド」、「アイスレモンティー」。
*
*※局後の感想※
*▲8六金を示した藤井に、△4五歩を豊島が示す。すぐに元に戻された。
▲8八角
*先手も角の位置を整える。9七にいたままだと、いつでも△9五歩と角頭を狙われる恐れがあった。ここも27分以上の熟考で、両者の残り時間はほとんど差がない。豊島は斜め上をぼんやり見つめたり、小首をかしげたり。
△8五銀
*8五に銀を進出。左銀がここまで稼働するとは、銀も驚いているのではないか。次は△8六歩や△7五銀と圧力をかける手が狙いだろう。代えて△7五銀左だと▲7六歩と打たれて二の矢がなかった。
*「(▲8八角と)引くと銀出やすくなりますね」(塚田九段)
*15時42分、両者の残り時間が1時間10分で並んだ。指し手のペースも似ており、波長が合っているようだ。
*
*※局後の感想※
*ここで▲8六歩△同銀▲同金△同飛▲9七角が示された。
*(1)△8二飛▲7四銀△8六歩▲8三歩△6二飛▲8六角△8四金▲6四角△同歩▲7三銀打△7四金▲6二銀成△同玉▲8二歩成は「嫌ですか」と豊島。
*(2)△8四飛▲6五歩△同銀▲8五歩△7四飛▲5三角成△5二金▲7五歩△7二飛▲8三銀△7三飛▲7七桂も並べられた。藤井はわかりやすい方針を目指して次の手を指したようだ。
▲5八玉
*戦場から遠ざける自然な玉寄り。
*後手は手の流れ上攻めていきそうだが、△7五銀はやりにくいと塚田九段。「攻め100%」の異名を持つ塚田九段だが、後手陣の薄さが気になるという。左銀が4三にいれば雁木の構えになるのだが。
*「銀2枚で攻めていくのはねえ。1枚じゃないとやだ」(塚田九段)
△5二金
*自陣に手を戻した。△5二金は薄い上部を強化した手。
*「局面がこう着状態なのかもしれないですね」(塚田九段)
▲5六銀
*中央に銀を腰掛ける。▲6五歩と銀を追う手ができた。
△5四歩
*▲6五歩に△5三銀と引く手を作った。好戦的にいくなら△5五歩もあるだろうか。
*類を見ない力戦形に塚田九段の評価もなかなか定まらなかったが、現局面は後手を持ってみたいという。少しずつ後手の方針がわかりやすくなってきたとのこと。攻める場所が7~8筋とはっきりしており、先手は常に警戒が必要だ。
*時刻は16時を回った。豊島は不二家のチョコレートをひと口。
*16時15分、検討が進むにつれて塚田九段の見解も変わってきた。▲6五歩△5三銀で▲6七金と寄られると、思わしい攻めが難しいようだ。以下、(1)△8六歩▲同歩△同銀は▲6六角で空振り気味。(2)△7二飛は▲7五歩△同飛▲7七桂△7六銀▲6六金△7一飛▲7五歩。こう進むと先手が手厚く受けきれそうだ。
▲6五歩
*残り41分まで考えて▲6五歩。22分23秒の考慮だった。
*控室では豊島がすぐに指すのではと予想されていたが、いま一度時間を使う。豊島も残り1時間を切った。△5三銀以外には△5五歩、△7五銀も考えられるようで、それぞれ大きく展開が異なる。△5五歩は▲6四歩△5六歩と銀の取り合い。△7五銀は5八に玉が寄っているのでやや方向違いの感もあるが、猪突猛進の姿勢で7~8筋を攻めるのもあるようだ。
*「終盤はたたき合いになるかもしれませんね」(塚田九段)
*豊島は25分を超える考慮。少し前かがみになっているように見える。
*
*※局後の感想※
*(1)△5五歩▲6四歩△5六歩の取り合いも触れられた。以下▲6三歩成△5七歩成▲同金△6三金に▲6七金左を示し「これは……厚いですよね」と藤井。当初は豊島は「突けると思っていた」とのことで、本譜は予定変更だったようだ。
*(2)△5三銀は▲6七金で後手が思わしくないようで、あまり深く掘り下げられなかった。しかし「本譜を思えば」と豊島。これもあったようだ。
△7五銀
*「出た」と控室。続けて「ここで何を指すか」。
*26分54秒を使って△7五銀を選択した。控室ではABEMAに表示されている将棋AIの候補手を見て「これは指せないねえ」と声が上がる。その手は▲6七銀引。△7六歩には▲6六金という姿勢のようだ。継ぎ盤が動かされる。現局面から▲6七銀引△8六歩の局面で、塚田九段は首をひねった。
▲2四歩
*6分ほどの考慮で▲2四歩と打った。控室でこの手は予想されていなかった。
△同 歩
*取る一手。継続手は何か。
▲2五歩
*▲2五歩と継ぎ歩を放った。△2五同歩は▲同桂△2二角▲2三歩と手が続きそうだ。△2二角に代えて△2四角は▲1三桂不成が好手で先手優勢だ。継ぎ歩攻めの手筋だが、後手も取る一手とは限らない。時刻は17時。千駄ヶ谷に「夕焼け小焼け」のチャイムが鳴った。
*
*※局後の感想※
*ここで△3五歩が検討された。▲2四歩△2二歩▲3五歩△3六歩▲2五桂△2四角▲3四歩△2三金が並べられ、藤井は「これはあまりうまくいっていない」という。しかし△2三金に▲7六歩が示され「歩打たれるのは嫌ですね」と豊島。△7六同銀右▲同金△同銀▲4四角まで進み、豊島は自信がないとの見解だった。
△4三金右
*上部を厚くする△4三金右。▲2四歩と取り込まれるが△2二歩と収めてどうか。将来、後手が△8六歩▲同歩△同銀直▲同金△同銀と攻めた際に、▲2五桂△2四角▲4四角の飛び出しを防いでいる効果がある。
▲2四歩 △2二歩
*2筋を取り込んで通常は先手のポイント。銀を持てば▲2三銀と攻める筋があり、その銀は左辺で入手できそうだ。
▲6七銀引
*ここで▲6七銀引とした。2筋を詰めてから自陣に手を戻す。緩急のある指し回しだ。
*控室では△7六歩▲6六金△4五歩▲同桂△4四角▲5六歩が一例で並べられた。後手玉は△4三金右と上がったことでややバランスが悪くなっており、先手も攻め合いは歓迎のようだ。ABEMAで表示されている将棋AIでは△8四銀が候補手。とても、とても人間では指せない手が挙がっている。となると、後手が苦しくなっているのかもしれない。塚田九段は△3五歩を示した。
△3五歩
*桂頭に手を求めた。こちらのほうが「人間の手」とABEMAの高見七段。高見七段もこの手を挙げており、着手を見て安堵の様子。
*「しかし▲7六歩に△8四銀と引かされるのでは屈辱的ですね」と塚田九段。
▲7六歩
*7五銀を追い返した。△8六歩は▲7五歩△8七歩成▲同銀でびくともしない。7七金が威張っている。
△8四銀
*苦しい撤退。8筋に銀2枚が重たく残ってしまった。しばらく有効な使い道がなさそうでもある。
▲2六飛
*桂頭をカバーする飛車浮き。代えて▲4七金だとバランスが悪く、指しづらかった。
△3六歩 ▲同 飛
*席を外していた藤井、戻るとすぐに歩を取った。手順に飛車を3六に移動させ、3筋をにらむ。
△3四歩
*自分から崩れない。ここも辛抱を重ねる。代えて△2四角では何か嫌な手があったようだ。
▲6六金
*力強く進軍。カチリと高い駒音だった。じわじわと陣形を盛り上げて制圧しようとしている。藤井が自らの得意パターンに持ち込んでいるか。まだ歩以外の駒が駒台にのっていないのだが。
△2四角
*時間差で2四の歩を払う。豊島の残り時間はあと7分ほど。
▲5六金
*味のいい金寄り。いかにも絶品だ。角筋を通し、4六をカバーしながら▲4五歩と突く攻め筋を作った。
△3五歩
*飛車取りに△3五歩と伸ばす。▲2六飛には△1五角とさらに追うのだろう。飛車を持てば△2九飛と打つ楽しみがある。
▲1六飛
*当然渡さない。1六に逃げるのが大事で、△1五歩なら▲2六飛で角取りの先手になる。
*控室では△7三銀の辛抱が挙がっているが、いかにもつらい。「つらい手しか残っていない」と検討陣。
△8六歩
*「ひえー」と声が上がった。駒が下がるような手では勝てないと見たか、決死の踏み込み。豊島が苦しみながらもパンチを繰り出している。
▲4五歩
*豊島の思いに応えるように、▲4五歩と迎え撃った。△8七歩成とされても▲同銀でまだ8筋は破られない。攻め自体は先手のほうがはるかに厳しい。豊島の残り時間が削られていく。そろそろ持ち時間がなくなりそうだ。かすかに揺れながら盤上を見つめる豊島。踏みとどまれるか。
△8七歩成
*この手で豊島は持ち時間を使いきった。
▲同 銀
*藤井はすぐに指す。△8六歩なら▲7八銀左で何ともない。
△8六歩 ▲7八銀左 △3四金
*△3四金と上がった。△3六歩▲同飛△3五金を狙った勝負手。自陣が乱れるが、勝機を見いだすためになりふり構ってはいられない。「相手の嫌がることをしないと」と検討陣。藤井も手が止まる。10分以上残しているのは大きい。前傾姿勢で読みふけっている。
▲8三歩
*8三に手が伸びた。△8三同飛なら飛車の横利きが消えて守備力が格段に落ちる。「きつい」と検討陣の声。どうやら好手のようだ。
△同 飛
*逃げるのでは利かされだったか、△8三同飛と応じた。後手玉は居玉でいかにも危険な格好だが、歩だけならまだ寄らない。
▲4四歩
*大きな取り込み。▲4三歩成△同金▲2二角成や▲4五金などを狙っている。
△3六歩
*やや秒に追われた様子で△3六歩と突いた。△3三桂と受ける手も考えられたが、攻めてアヤを求めた。控室では▲4五桂が挙がっている。逃げながら手順に桂を使えて味がよい。藤井は時間を使う。扇子を鳴らし、時折残り時間のタブレットを確認する。
*
*※局後の感想※
*「桂でしたか」と藤井。▲4五桂△2五金▲5三桂成△6四歩が示される。▲3六同飛がまさっていたと塚田九段が告げると両者とも「ああ」と反応した。
▲同 飛
*残り4分ほどまで考えて▲3六同飛と応じた。
△3五金 ▲同 飛
*さっぱりと、金と刺し違える。
△同 角 ▲4五金
*じわりと。▲3六同飛からの一連の手順は控室でも触れられていたが、指しにくいといわれていた。▲4五桂ではなく、じわじわと金を使って追い詰めていく。
*
*※局後の感想※
*ここで(1)△4七歩▲同玉△1三角▲5四金△6二玉▲5五角(代えて▲4三歩成△同金▲同金は△4六飛)△5三歩▲4三金は「きついですか」と豊島。
*(2)△3六歩▲3五金△3七歩成▲同金も後手がつらいようだ。
△1三角
*当たりになりにくい1三に逃げる。
▲5四金
*7七にいた守備の要だった金が、攻め駒として光っている。驚異の大躍進だ。ABEMAの深浦九段と高見七段は「大活躍ですね」と驚いている。
*先手は▲4三歩成、▲5五角など攻め手に困らない。
△4七歩
*わずかな猶予を生かして△4七歩と反撃。
▲3八金
*取らないのがいいようだ。△2九飛には▲3九歩でしのげる。
△6二玉
*玉の早逃げ。8筋まで逃げ込めば2枚の銀が守りとして役立ちそうだ。まだまだ土俵は割らない。
▲4三歩成 △同 金
*この手で100手に達した。△4三同金までの消費時間は、▲藤井聡3時間58分、△豊島4時間0分。
▲同 金
*チェスクロック使用ということもあり、1秒も無駄にしないとすぐに着手。
△7二玉
*銀2枚の守り駒に近づいてきた。豊島は叡王戦第2局でも粘って逆転勝ちを収めている。再現なるか。
▲9七桂
*藤井もこの手で持ち時間を使いきった。控室では「跳ねられるのか」と感嘆の声。ABEMAの解説陣からも「おー」と声が上がった。
△3六歩
*とっさに▲9七桂に対応するのは難しいと控室。慌て気味に△3六歩と前に向かった。
▲8五桂
*そびえ立つ守りの銀1枚をはがす。8五桂がやや斜めに曲がった。
△3七歩成
*急いだ手つきで△3七歩成。豊島も必死だ。
▲6二金
*厳しい金打ちが入った。△6二同玉は▲4四角。控室は「ひえー」と声が上がっている。
*「指されればわかるけどね。ここまで読んでるんだ」(塚田九段)
△同 玉
*取った。これは後手玉に詰みがある。豊島は水を口にした。
▲4四角
*藤井の大記録が近づいている。
△7二玉
*「最終局にふさわしい熱戦でした」。
▲6一銀
*この局面で豊島が投了した。終局時刻は18時22分。消費時間は、▲藤井聡4時間0分、△豊島4時間0分。勝った藤井は五番勝負を3勝2敗で制し、叡王を奪取。史上最年少(19歳1ヵ月)で三冠を達成した。
*投了以下は△8二玉▲7一角成△9二玉▲8二金△同飛▲同馬△同玉▲6二飛△8三玉▲7二飛成までの詰み。
*
*※局後の感想※
*塚田九段は「7七金・7八銀がいい形でしたね」とコメント。逆形ながらこの場合はうまく生かした。豊島は▲5六銀を上がりづらいと見ており、△5五歩から銀の取り合いで先手が嫌なのではと見解だった。そこに誤算があったようだ。「あまり見たことない形だったので」とも。感想戦は19時10分ごろまで行われた。
まで111手で先手の勝ち

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