第6期叡王戦五番勝負第4局。豊島将之vs藤井聡太

開始日時:2021/08/22 09:00
終了日時:2021/08/22 17:40
表題:第6期叡王戦五番勝負第4局
棋戦:叡王戦
戦型:相掛かり
持ち時間:4時間
消費時間:91▲218△240
場所:愛知県名古屋市「名古屋東急ホテル」
備考:昼休前47手目▲58分△120分\n
先手:豊島将之叡王
後手:藤井聡太王位・棋聖

*第6期叡王戦五番勝負第4局は2021年8月22日(日)、名古屋市中区の「名古屋東急ホテル」で行われる。主催は株式会社不二家、特別協賛はひふみ、株式会社SBI証券、協賛は中部電力株式会社。第3局までの成績は豊島将之叡王(竜王)の1勝に対し、挑戦者の藤井聡太王位・棋聖が2勝を挙げ、タイトル奪取まであと1勝と迫っている。持ち時間は各4時間(チェスクロック使用)。切れたら1手60秒未満の着手となる。先手は豊島で対局開始は9時。12時から13時が昼食休憩。本局の立会人は中村修九段、記録係は宮嶋健太三段(大野八一雄七段門下)がそれぞれ務める。
*対局日当日、現地は曇り空に覆われているが、雨は降っていない。雨の降る時間帯もあるようだ。最高気温は30度と予想されている。8時45分、豊島が先に入室。1分と間を置かずに藤井も続いた。駒を並べ終え、対局室を静寂が包む。
▲2六歩
*9時になり、対局開始。豊島は飛車先の歩に手をかけた。
△8四歩
*藤井も△8四歩と飛車先の歩を突き、追随する。
▲2五歩
*◆豊島 将之(とよしま まさゆき)叡王(竜王)◆
*1990年4月30日生まれの31歳、愛知県一宮市出身。桐山清澄九段門下。2007年、四段。2019年、九段。棋士番号は264。
*タイトル戦登場は15回。獲得は竜王2期、名人1期、王位1期、叡王1期、棋聖1期の計6期。棋戦優勝は3回。
△8五歩
*◆藤井 聡太(ふじい そうた)王位・棋聖◆
*2002年7月19日生まれの19歳、愛知県瀬戸市出身。杉本昌隆八段門下。2016年、四段。2021年、九段。棋士番号は307。
*タイトル戦登場は5回。獲得は王位1期、棋聖2期の計3期。棋戦優勝は5回。
▲7八金
*豊島の本年度成績は8勝8敗(0.500)。対局数ランキング15位タイ、連勝ランキング17位タイ。
*通算成績は521勝241敗(0.684)。
△3二金
*藤井の本年度成績は22勝4敗(0.846)。対局数ランキング1位、勝数ランキング1位、勝率ランキング5位、連勝ランキング1位、12位タイ。
*通算成績は235勝44敗(0.842)。
▲3八銀
*対戦成績は豊島8勝、藤井6勝(1千日手)。初対戦は千日手指し直しの末に豊島が制し、豊島はそのまま6連勝した。直近6局では藤井が5勝1敗と押し込んでいる。本棋戦での顔合わせはこれまでこの五番勝負のみで、藤井2勝、豊島1勝。3局とも先手が勝っており、豊島は本局、先手番で勝てなければ即失冠の正念場を迎えた。
△7二銀
*現地の棋士に戦型予想を聞くと、中村修九段は角換わり腰掛け銀を、大盤解説会解説の木村一基九段は相掛かり、叡王戦独特の見届け人のアテンドで訪れている戸辺誠七段は角換わり早繰り銀を、また、記録係の宮嶋三段は中村修九段と同じく角換わり腰掛け銀をそれぞれ挙げている。中村修九段は先手がある程度、戦型を決められるものの後手も研究を深められ、どちらがこれまでの前例から変化するかがポイントだと述べた。どうやら木村九段の予想が当たったようだ。
▲5八玉
*本局は新型コロナウイルス感染拡大防止に配慮したうえ、名古屋市中小企業振興会館7階メインホールで現地大盤解説会が開かれる。すでに募集は締め切られており、会場は対局場の名古屋東急ホテルではないことにはそれぞれ注意されたい。解説は木村九段、聞き手は脇田菜々子女流初段で13時開場、14時開始、終局まで。
△9四歩
*本局は8時30分からABEMAで動画配信が始まった。24時までで、解説は中村太地七段、杉本和陽五段。聞き手は本田小百合女流三段、塚田恵梨花女流初段。また、有料会員向けのマルチアングル放送では村田智弘七段、大石直嗣七段、増田裕司六段、室谷由紀女流三段、室田伊緒女流二段、山口絵美菜女流1級が出演する。
▲9六歩
*叡王戦は2015年に創設され、第2期まで優勝棋戦として決勝を三番勝負で戦った。タイトル戦に昇格した第3期から前期まで、タイトルを七番勝負で争ったが、2局ずつ持ち時間を変更して行った点が大きな特徴であり、ほかに類を見ない。これら番勝負は前期に初めてストレート決着を免れ、棋戦立ち上げから主催として尽力された株式会社ドワンゴとの別れを惜しむかのように、持将棋2局を挟んで第9局までの長丁場となった。千日手も1局あり(即日指し直し)、十番勝負などと呼ばれる。
△8六歩
*両者はこの五番勝負と並行して藤井の持つ王位のタイトルに豊島が挑戦し、七番勝負も進行中だ。そちらは第4局までが終わって藤井3勝、豊島1勝と藤井が防衛にあと1勝と迫っている。また、藤井は現在進行中の竜王戦決勝三番勝負で永瀬拓矢王座を破れば、秋から竜王戦七番勝負をみたび豊島と戦う。三番勝負は1勝0敗とし、こちらもあと1勝で挑戦が決まる。
▲同 歩
*豊島の本棋戦番勝負登場は前期に続いて2期目。前期の「十番勝負」では永瀬叡王(当時)から4勝3敗2持将棋でタイトルを奪取した。タイトル戦史上、最多のシリーズ総手数1418手を記録している。
△同 飛
*藤井は本棋戦、前期は段位別予選七段戦に出場するも、初戦で村山慈明七段に敗れた。複数のタイトルを獲得し、段位を八段に上げて迎えた今期は段位別予選八段戦で順に長沼洋八段、師匠でもある杉本昌八段、広瀬章人八段を破って本戦に進出。本戦では1回戦から行方尚史九段、永瀬王座、丸山忠久九段、斎藤慎太郎八段を連破して初の叡王戦番勝負に勝ち上がった。
▲8七歩
*名古屋市は愛知県の県庁所在地で、両者はともに愛知県にゆかりがある。豊島が一宮市、藤井は瀬戸市の出身であり、地元の盛り上がりは大きい。
△8四飛
*名古屋東急ホテルは名古屋の繁華街、栄に建つ結婚式場も備えたホテル。2005年と2007年には当時あった棋戦、朝日オープン選手権決勝五番勝負の対局会場となった。名古屋市で行われたタイトル戦の宿泊施設になったこともある。中には日本料理店や中国料理店もあり、対局者の昼食にはそうした店舗のメニューも用意された。
▲1六歩
*ノータイムで▲1六歩と突く。ありそうな手だが、現局面で前例を離れている。豊島の研究手か、藤井は手を止めた。
△1四歩
*6分考え、突き合いに応じる。現局面は3局の前例と合流した。両者の実戦経験はないが、後手を持って豊島の師匠、桐山九段が勝った将棋が含まれる。
▲7六歩
*昨日、両者は現地到着後、記念撮影、検分の順に臨んだ。その後は1人ずつインタビューに応じる。さらに夕食前、通常の前夜祭の一部を切り取ったような形で関係者による挨拶の会が催され、数人が壇上で挨拶し、両者は本局への意気込みを述べた。
△7四飛
*飛車を寄り、縦歩取りに進める。この飛車は3筋などにひねることになるか。両者は居飛車党で、これまでの千日手を含む15局の内訳は、角換わりが9局、相掛かりが4局、ひねり飛車と横歩取りが1局ずつだった。矢倉は指されていない。
▲2六飛
*飛車浮きで△7六飛を防ぐ。かつては▲7七金が主流だったが、形が悪い難がある。
△3四歩
*△3四歩と角道を開けた。現局面は再び前例を離れている。ここまで飛ばしてきた豊島、研究を外れたのか、時間を使う。
▲7七角
*8分を費やし、▲7七角と上がった。次に▲8八銀を用意し、銀を使いやすくしている。
*「先後逆でよくある形ですよね。本譜は後手が△5二玉と上がっていません」(木村九段)
*類型として、2017年6月の第75期名人戦七番勝負第6局▲稲葉陽八段-△佐藤天彦名人戦(肩書は当時)を挙げた。△5二玉が入って先後を逆にした形が指されており、本譜は後手が玉上がりの1手を省けている。
*
△3三角
*角を上がって追随した。▲3三同角成なら先手は角の動きで1手損する。13分の考慮だった。
▲同角成
*豊島はノータイムで、7七に上がったばかりの角を換える。すかさず、「さっぱり分かりません」と中村修九段。
△同 桂 ▲7七桂
*「先手の狙いに▲8二角がひとつあり、△8四飛は5一玉型なので、▲5六飛~▲6五桂と▲7五角を絡めた攻めが嫌らしいです。コンピューターなら△7一金とするのでしょうが、人間だと指しにくいですね。▲8二角に△9三香とする指し方もありますが、後手も気を使います」(中村修九段)
*本譜の進行について、4手前の▲7七角に代えて▲2二角成△同銀▲7七桂と進めていれば、現局面と比べて後手陣は3一銀・3三桂型が2一桂・2二銀型になる。その形を嫌ったのだろうが、どのように違いが出てくるかは難しいとしながらも以下の見解を示す。
*「先手は次に▲2四歩から歩を持ちにいくのでしょうね。歩を持てば後手は△2二銀と上がりづらくなります。▲1五歩△同歩▲1二歩△同香▲2一角の筋がありますから」(中村修九段)
*10時頃、▲7七桂までの消費時間は▲豊島10分、△藤井32分。藤井は15分ほど考えている。午前のおやつが両対局者それぞれの控室に出された。豊島は焼き菓子(瀬戸内大長レモンケーキ)とアイスレモンティー、藤井は熊本県産和栗のプリンショートとアイスコーヒー。
△8四飛
*17分考えて飛車を8筋に戻り、▲8二角を防いだ。▲5六飛~▲6五桂~▲7五角の集中砲火は対応できると見たか。▲8六歩~▲8八銀~▲8七銀のように銀冠に組む順も牽制している。
▲2四歩
*飛車先の歩を切りにいく。歩を手持ちにすれば△2二銀に▲1五歩△同歩▲1二歩の筋ができるなど、攻め幅が広がる。
△同 歩 ▲同 飛 △2三歩
*おとなしく歩を打ち、飛車にお引き取り願う。
▲2六飛
*浮き飛車を維持する。△5二玉が入れば先後同型だ。
△4二銀
*銀を中央に使い、手薄な5三の地点をケアする。
▲6八銀
*同様に銀を上がった。5七の地点は玉が利いているとはいえ、玉頭は急所だ。しっかり守っておく必要がある。藤井は前傾を深くした。どのように駒組みを進めるか、今後の方針を決める頃合いか。
△5二玉
*22分考え、△5二玉と立った。揮毫してしばらく進行から目を離していた中村修九段が驚く。
*「どう進んだの? (28手目)△8四飛? 戻れるんだ。で、先後同型。ひぇ~」(中村修九段)
*
*※局後の感想※
*後手は△8四飛と戻らずに▲8二角と打たせるわけにはいかなかった。△5二玉も省略しづらい。
*藤井「△5二玉あたりまで、仕方ない感じですかね」
▲7五歩
*▲7五歩と伸ばした。△7四歩から右の銀桂を使う展開を牽制し、ひねり飛車にする含みもある。
*
*※局後の感想※
*(1)△7四歩は▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲3四飛で後手陣のほうにキズが多い。(2)△3五歩が検討された。以下、▲8六歩△3六歩▲8五歩△3四飛▲3六歩△4四角▲3五歩△同飛▲8六飛に△8二歩と前もって手を入れられると先手の指す手が難しい。(A)▲8四歩は△5五角▲4六歩△6四角で「ちょっと嫌ですか」と豊島。(B)▲9五歩は△同歩▲8四歩△3六歩▲9二歩△同香▲5六角△7四歩▲同角△7五飛▲9二角成△7六歩で豊島は自信を持てない様子だった。先手としても具体案は難しいものの、(2)△3五歩は一局との結論に落ち着く。藤井はあまり成算の持てない変化だったようで、本譜もそうだが、先後同型から先手が1手先に指せることが生きやすい形だった点を強調する。
△9三桂
*端に桂を跳ね、△8五桂とぶつけられるようにした。
▲8六歩 △8五歩
*歩を合わせて動いていく。8筋が最初の争点になった。
▲7九金
*金を引いて後手の駒から遠ざかる。(1)△8六歩▲8五歩(A)△同桂▲8六飛△7七桂成のときに▲8四飛と飛車を取れるようにした。放置しても▲8五歩△同桂▲8六飛が狙い筋となる。金が7八にいては△7七桂成のあと△7八成桂で2枚換えになるところだった。日本将棋連盟会長として現地を訪れている佐藤康光九段は、(2)△8一飛を候補手に挙げる。
*「▲7九金はよさそうな手ですね。端桂のほうが負担になりやすいように見えますが、ともに自ら好んでこの形にしています。のっぴきならない局面ですね」(佐藤康九段)
*△8一飛以下の進行に▲7四歩△同歩▲9五歩△同歩▲9四歩△8六歩▲9三歩成△8七歩成▲6五桂△8八とは考えられそうだ。先手も▲7三桂打があり、こうなると一直線に激しくなる。とはいえ、バランスを取る順は難しい。(1)△8六歩▲8五歩(B)△4四飛▲8六飛に△2八角▲8二角の打ち合いは、飛車の働きの差で後手は自信を持てないという。
*11時頃、▲7九金までの消費時間は▲豊島21分、△藤井1時間25分。藤井は10分以上、考えている。佐藤康九段はここまで、豊島の決断のよさに驚きの声を上げた。
*
*※局後の感想※
*豊島「△9三桂~△8五歩なら▲7九金で受け止められる形なのかと思いました。それで潰されるとひどいので」
△8六歩
*25分近く考え、△8六歩と取り込んだ。▲8五歩に飛車を引くのは端の桂頭が、横にかわすのは▲8二角の打ち込みがそれぞれ気になる。
▲8五歩 △4四飛
*10分近い考慮で4筋にかわす。桂頭に利くが、▲8二角の隙ができた。
▲8六飛 △7一金
*金を寄り、▲8二角を防ぐ。中村修九段は▲8二角を許すと9三の桂まで取られそうだと指摘していた。後手からは△2八角が残る。
*「先手は飛車を引けば▲8四歩と突けるようになります。△2八角は、▲8四歩が先手で突けるなら考えません。△8五歩と受ければ▲9五歩もありますので、攻めていきます。ただ、どこに飛車を引くか……、8九なのか、8八なのか」(中村修九段)
*飛車が8六にいたまま▲8四歩は△8五歩が当たってしまう。また、▲3九金は形勢がよいと見れば考えられるが、現状はそこまででもなく、指しづらいようだ。
*この局面で定刻の12時になり、豊島の手番で昼食休憩に入った。ここまでの消費時間は▲豊島58分、△藤井2時間0分。昼食の注文は豊島が名古屋東急ホテル日本料理「なだ万」の鰻(うなぎ)ひつまぶしとアイスウーロン茶、藤井がホテル伝統の名古屋コーチンスパイシーカレーとアイスレモンティー。対局は13時から再開される。
*13時になり、対局再開。両者は定刻5分ほど前に戻ってきた。朝と同様に豊島が先で、1分とたたずに藤井が続く。再開からしばらくしても着手はない。休憩前に35分あまり考えた豊島、何度か天を仰ぐ。脳内盤で読みを進めているかのようだ。
▲9五歩
*昼食休憩を挟み、50分近くを消費して端に手をつけた。
△同 歩 ▲7四歩
*さらに7筋にも歩を突き出す。一時的に飛車の横利きを止め、▲9四歩を見せている。△7四同飛なら▲5六角で、飛車を逃げれば▲9二歩と香を狙う。
△同 飛
*5分の考慮で、飛車で歩を払った。▲9四歩は許さない。
▲6五角
*6五から角を打った。桂のヒモがついており、何かの際に8七や9八と自陣に格納できる。藤井は飛車をどこに逃げるか。飛車を渡すと▲2一飛が金香両取りになる。
*
*■ABEMA■
*杉本和陽五段>逃げるなら△7五飛だと思いますが、▲9二歩にどうするか。(1)△6五飛▲同桂△9二香は▲2一飛が痛打です。(2)△4四角▲6六歩△6四歩▲5六角△2五飛の局面をどう見るか。また、こう進むなら△4四角▲6六歩の交換は入れずに(3)△6四歩▲5六角△2五飛のほうがいいでしょうかね。いずれにしてもこうした変化をどう見るか。
△6四角
*13分考えて飛車取りに角を打ち返し、取り合いを挑む。
▲7四角
*8分の考慮で飛車は逃げず、取り合いに応じる。先手陣は金銀の連結がよく、飛車の打ち込みに強い。
△8六角
*飛車を取り合う。対しては▲5六角が自然に見えるが、6五から打ったことを考えると▲6五角も比較対象になりそうだ。
▲5六角
*安定感のある5六に引き揚げた。先手は▲9二歩や▲9四歩が楽しみとして残っている。どこかで▲8四歩も効果的に入るかもしれない。後手は忙しそうだ。
*
*※局後の感想※
*豊島「相手に手番が渡ってどのくらい厳しい手があるかですが、7九金型がしっかりしているので、ちょっと指せそうな気がしていました」
△9六歩
*14時頃の局面。△9六歩までの消費時間は▲豊島1時間27分、△藤井2時間28分。先手は9筋が薄い。△9六歩と伸ばしてと金作りを見せた。
*
*■ABEMA■
*中村太地七段>先手はまずは▲8四歩と突きたいですね。△8二歩ならいわゆる「利かし」で確実に得になります。
▲8四歩
*8分考えて歩を伸ばした。と金作りを見せて受けさせる。次の▲8三歩成は△9七歩成と比べて銀に当たる分、より厳しい。
△8二歩
*代えて△8二金と頑張るのは▲8三歩成△同銀▲同角成△同金▲8一飛で崩壊する。歩を受けるのは仕方ない。ABEMAの中村太七段は豊島がうまく指し回し、優位を築いていると見ている。
*
*■ABEMA■
*塚田恵梨花女流初段>先手がいちばん指したい手は何ですか。
*中村太地七段>▲9四歩ですね。△9七歩成▲9三歩成△8七と▲8二とと一直線で攻め合って勝ちなら分かりやすいです。優勢なほうは分かりやすく進めるのいいですね。不利なほうは相手に選択肢が増えるような手を指します。
▲9四歩
*7分の考慮で桂取りに歩を打つ。△9七歩成~△8七と~△7七とを恐れずに踏み込んだ。桂を取れば▲3四角~▲4四桂のような狙い筋もできる。着手した豊島が席を外すと、藤井は記録係から棋譜を受け取って目を通した。ABEMAでは△9七歩成▲9三歩成△8七と▲8二との順を解説している。次に▲7一とで金をボロッと取らせるわけにはいかないため△8二同金だが、▲8三歩成△同銀▲同角成△同金▲8一飛△7七と▲4一銀△6二玉▲8三飛成は後手玉に▲7二金△5一玉▲8一竜までの詰めろがかかり、先手玉は△6八とに▲4八玉で詰まない。この順は先手が勝つ。やがて豊島が戻ってきた。
△9七歩成
*10分近く考え、と金を作る。後手が攻めるならここよりない。
▲9三歩成 △同 香
*と金を取っておく。一直線の攻め合いは危なかった。
▲6五角
*5分の考慮で▲6五角と上がる。▲4四桂を見せながら△8七とを防いだ。控室に戻ってきた中村修九段は、代えて▲9一飛は△8一金▲9三飛成△8七とのときに先手の指し手が悩ましいと解説していた。歩を持っていれば▲7八歩だが、あいにくの歩切れだ。
*「▲6五角もあると思っていました。△3一金なら今度こそ▲9一飛~▲9三飛成で、すっきりと先手がよくなりますね」(中村修九段)
*後手は▲4四桂を食っては痛い。何らか受けをひねり出す必要がある。藤井は畳に左の手のひらを突き、前傾した体を支えた。
△4一玉
*16分考え、玉を引く。金にヒモをつけ、▲4四桂の狙いを防いだ。
▲9一飛
*ノータイムで金香両取りに飛車を下ろす。
*「△8一金しかありませんね。△6一金は▲8三歩成△同歩▲同角成があります」(中村修九段)
*15時、両対局者に午後のおやつがそれぞれの控室に出された。豊島は熊本県産和栗のプリンショートとアップルジュース、藤井はプレミアム生ミルキーとアップルジュース。▲9一飛までの消費時間は▲豊島1時間50分、△藤井2時間56分。藤井は10分以上、考えている。△8一金と飛車に当てる一手に見えたが、ひねる手順があるのか。
△8一金
*22分の考慮で飛車取りに金を寄った。
▲9三飛成
*駒割りは先手の桂香得。竜も作れており、先手に悪い要素は見当たらない。
△9八歩
*香取りに歩を打ち、駒損の軽減を図る。▲9八同香に△同とは▲同竜でさっぱりしてしまう。△9六歩とと金の種を残して相手に委ねるほうが後手はよさそうだ。しかし、歩を渡すと▲8三歩成△同歩▲8二歩の筋が生じる。ABEMAでは杉本和五段と本田女流三段が検討を進め、▲9八同香に△9六歩は打ちづらいとされた。
▲同 香
*6分考え、▲9八同香と応じる。歩切れを解消した。
△9九飛
*こじ開けた空間に飛車を打ち込む。ABEMAでは▲8三歩成△同歩▲8二歩△9二歩▲9七竜△同角成▲同香△8二金▲8八角で飛車を捕まえる順が解説されている。先手は飛車を取り、後手陣への打ち込みを狙うのが急所だ。豊島は盤上を凝視する。
▲8三歩成
*20分あまりの考慮で歩を成った。着手の少し前、豊島は首をひとつひねる。
△同 銀
*銀で応じ、▲8二歩とは打たせない。
*16時頃、△8三同銀までの消費時間は▲豊島2時間18分、△藤井3時間30分。着手から10分近くが経過した。中村修九段は(1)▲8三同角成(A)△同歩▲同竜△8二歩▲8六竜△9八飛成の変化を読み進める。
*「そこで▲6五角がスッキリしていそうですね。△8七角なら▲9九歩と打てます」(中村修九段)
*(2)▲8九香には△7五角▲9五竜△7四銀の変化に懸念を示した。豊島は前手▲8三歩成に続いて時間を使う。形勢よしと見られているが、ならば慎重に優位を拡大したくなるところか。ABEMAでは(1)▲8三同角成には(B)△8七とが挙がる。そこで先手の指し手が悩ましい。角は6五にいれば四方をにらんだ絶好の位置で、△8七とも防いでいる。(1)▲8三同角成が指しづらいとなればジレンマだ。中村修九段は(B)△8七とには▲8二馬△7七と▲8一馬△6八と以下、相当に深く読めそうな局面だと指摘した。
▲2四歩
*50分あまりの長考で▲2四歩と合わせ、将来のために利かせたようだ。相当に先まで読んだ雰囲気が出ている。中村修九段は△2四同歩なら3一~2二~1三~2四のルートが潰れ、寄せやすくなると指摘した。△9二歩には▲8三竜△同歩▲2三歩成△同金▲4六香で4三の地点を狙う。後手は飛車1枚では受けにくそうだ。16時50分頃、名古屋上空では稲光が見え、雷鳴がとどろく。大粒の雨が窓をたたいた。
*
*※局後の感想※
*豊島の長考もあり、藤井は「決めにこられる局面かと思いました」と明かす。本譜(1)▲2四歩で厳しいと見ていたようだ。△2四同歩は▲8三角成△8七と▲8二馬△7七と▲8一馬△6八と▲同金△6九銀に(A)▲4八玉△6八角成▲6三馬△3一玉▲9一竜で合駒請求される点を気にしたが、豊島はそこで△6一歩を指摘。▲同竜なら△5一金と竜に当てて受けられる。(B)▲6九同金だと△同飛成▲4八玉△5九金▲6三馬△3一玉▲9一竜△5一桂で、「結構、嫌ですよね」と豊島。ハッキリした見通しは立っていなかった。一方で藤井は、どこかで1手緩められても厳しそうだという。感想戦に立ち会った中村修九段は「明快には見えない」と断りながらも、コンピューターソフトが挙げた(2)▲8九香に言及する。△7五角に、(ア)▲8三香成がその読み筋だが、豊島は驚きの反応を示した。(イ)▲9七竜なら考えたという。しかし、△9七同角成▲同香△同飛成▲8三香成のあとがハッキリせずに断念した。藤井はその変化も駒損がひどく、相当に厳しいとの見解を示す。
△7七角成
*10分考え、△7七角成と今度は藤井が踏み込む。▲7七同銀には△7九飛成があり、馬は取りづらい。とはいえ、▲2三歩成でいつでも金を引き離されるため思いきった手といえる。
*17時頃、△7七角成までの消費時間は▲豊島3時間10分、△藤井3時間40分。着手から10分近くがたつ。
▲9七龍
*16分の考慮で、目障りなと金を取り払った。
*「▲2四歩があとあと利いてきそうな気がしますね。△2四歩と手を戻すようではつらいですし、かといって▲2三歩成もどこかで刺さりそうです。▲9七竜は△5五馬で後手を引くようですが、▲6六香から▲8八竜と飛車を取りにいく順があるのですね」(中村修九段)
△5五馬 ▲6六香
*香を打って角取りを受けた。馬筋を止め、次に▲8八竜を見せた手でもある。飛車を取れば▲6一飛が厳しい。▲2三歩成△同金▲2一飛の筋も生じる。
△6五馬 ▲同 香 △7六桂
*馬と角を刺し違え、銀取りに桂を打った。手順に▲8八竜も防いでいる。▲6三香成には一発△6六歩が嫌みか。とはいえ、後手玉近くに成駒を作れるのも大きい。
▲8八角
*飛車を捕まえるなら▲5五角や▲7七角もあったところ、あえて桂の利きに角を打つ。
*「ひぃえー、取れるものなら取ってみろ、と」(中村修九段)
*△8八同桂成には▲同竜で飛車が捕まる。
*
*※局後の感想※
*豊島「飛車を取れば厳しい手がたくさんあるので」
*手応えを感じたようだ。
△6八桂成
*銀のほうを取った。中村修九段は前手▲8八角は、△7九飛成に▲同玉の形を嫌ったのだろうと話す。本譜は△7九飛成に▲同角を用意した。
*「玉が下段にいくのは怖いですが、6八にいれば5八~4八と横に逃げていけますからね」(中村修九段)
▲同 玉 △7九飛成 ▲同 角
*この一瞬は角が働きにくいが、玉の位置をキープした。先手は▲2三歩成△同金▲2一飛、▲6一飛、▲6三香成と複数の攻め筋が残っている。
△7二銀
*じっと銀を引き、金銀の連結を高めながら▲6一飛の打ち込みを防いだ。
*「▲2三歩成△同金▲2一飛には△3二玉で頑張ります。以下、▲1一飛成には△2二銀や△2一金があり、先手はその竜の取られ方は嫌ですね」(中村修九段)
▲8四桂
*▲8四桂と打ち、引かれたばかりの銀を狙う。△6一銀なら▲2三歩成△同金▲2一飛△3二玉に▲6一飛成と銀を取れる。先手は竜の守備力が強く、後手から反撃に出るのは難しい。藤井は頭を垂れてうつむく。
△4五桂
*△4五桂と跳ね、△7五角を見せて5七の地点を狙う。
▲7二桂成
*受けずに銀を取った。先手は後手玉に詰めろのかかる形を作っておきたい。
*藤井はこの局面の考慮中に持ち時間を使いきり、1手60秒未満の秒読みに入った。
△7五角
*「もう、形作りですね。何となく」(中村修九段)
▲6一飛
*この手を見て藤井が投了した。△5一金には▲8一飛成と逃げておいて▲6二成桂など厳しい攻めがあり、後手玉は一手一手の寄り。先手玉は△5七桂成に▲7七玉で寄らない。終局時刻は17時40分(チェスクロック使用)。消費時間は▲豊島3時間38分、△藤井4時間0分(チェスクロック使用)。五番勝負はすべて先手が勝って2勝2敗となり、シリーズはフルセットに持ち込まれた。最終第5局は9月13日(月)に東京・将棋会館(東京都渋谷区)で行われ、先後は改めて振り駒で決定する。
*
*※局後の感想※
*37手目▲7五歩に対し、後手は△3五歩と伸ばし返せば一局とされた。豊島は中盤戦を「難しいながら途中からペースを握れた」と振り返る。長考で指した73手目▲2四歩にあまり成算を持てていなかったが、81手目▲8八角で飛車を取れる展開になり、手応えを感じたようだ。感想戦は30分ほどで終了した。
まで91手で先手の勝ち

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