第6期叡王戦五番勝負第3局。藤井聡太vs豊島将之

開始日時:2021/08/09 09:00
終了日時:2021/08/09 17:39
表題:第6期叡王戦五番勝負第3局
棋戦:叡王戦
戦型:角換わり腰掛け銀
持ち時間:4時間
消費時間:121▲215△240
場所:愛知県名古屋市「か茂免」
備考:昼休前72手目▲126分△51分\n
先手:藤井聡太王位・棋聖
後手:豊島将之叡王

*豊島将之叡王に藤井聡太王位・棋聖が挑戦する第6期叡王戦五番勝負は、1勝1敗のタイで第3局を迎えた。2021年8月9日(月)に愛知県名古屋市「か茂免」で指される。
*先手は藤井。対局開始は9時、昼食休憩は12時から13時。10時と15時におやつが出される。持ち時間は各4時間(チェスクロック使用)、使いきると1手60秒の秒読み。立会人は久保利明九段、記録係は齊藤優希三段(深浦康市九段門下)。現地大盤解説会(8月4日までの事前申込制)には、中村太地七段と山根ことみ女流二段が出演する。
*昨日の名古屋市は気温が37.8度まで上がった。今朝は台風9号が接近しているため、風が強く雨も降った。いまは晴れている。8時47分、藤井、豊島の順に入室した。対局者の手元には、不二家のお菓子が置かれている。53分には対局準備が整い、対局開始の合図を待つのみとなった。
▲2六歩
*◆藤井 聡太(ふじい そうた)王位・棋聖◆
*2002年7月19日生まれ、愛知県瀬戸市出身。杉本昌隆八段門下。2016年、四段。2021年、九段。棋士番号は307。
*タイトル戦登場は5回。獲得は王位1期、棋聖2期の計3期。棋戦優勝は5回。
△8四歩
*◆豊島 将之(とよしま まさゆき)叡王(竜王)◆
*1990年4月30日生まれ、愛知県一宮市出身。桐山清澄九段門下。2007年、四段。2019年、九段。棋士番号は264。
*タイトル戦登場は15回。獲得は竜王2期、名人1期、王位1期、叡王1期、棋聖1期の計6期。棋戦優勝は3回。
▲2五歩
*【藤井の公式戦成績】
*通算成績は231勝44敗(0.840)
*昨年度成績は44勝8敗(0.846)
*本年度成績は18勝4敗(0.818)
△8五歩
*【豊島の公式戦成績】
*通算成績は520勝239敗(0.685)
*昨年度成績は33勝19敗(0.635)
*本年度成績は7勝6敗(0.538)
▲7六歩
*藤井の本棋戦成績は15勝4敗(0.789)。第3期から出場。今期が初めての挑戦権獲得。
△3二金
*豊島の本棋戦成績は23勝9敗(0.719)。第1期から出場。第5期は挑戦者となり、当時の永瀬拓矢叡王との激戦を制して叡王を獲得した。
▲7七角
*対戦成績は豊島8勝、藤井4勝。豊島の6連勝から始まり、今年に入ってからは藤井が盛り返している。直近の対局は本棋戦の第2局で豊島が勝った。
△3四歩
*両者の対戦は4局連続で角換わりが続いている。本局で5局連続になる可能性が高い。
▲8八銀 △7七角成
*叡王戦は株式会社不二家が主催する棋戦。特別協賛は「ひふみ」と株式会社SBI証券。「ひふみ」はレオス・キャピタルワークス株式会社が運用する投資信託である。
*2015年に創設され、第3期からタイトル戦に昇格した。予選は段位別にトーナメントが組まれる。持ち時間はすべてチェスクロック使用で、予選は各1時間、本戦は各3時間、五番勝負は各4時間と増えていく。
▲同 銀
*第3局のスポット協賛には、豊田自動織機と豊田通商が名を連ねる。愛知県を代表する2社だ。豊島は同県一宮市、藤井は同県瀬戸市の出身であり、第3局はオール愛知の趣がある。なお、8月22日の第4局も愛知県名古屋市「名古屋東急ホテル」で行われる。第4局の見届け人は8月15日まで募集している。
△2二銀
*昨日の両対局者は対局場で合流し、記念撮影、検分、インタビューとスケジュールをこなした。使用される棋具は連盟で用意したもの。駒は大竹竹風作の昇龍書が選ばれた。第3局の見届け人の方は女性で、検分から立ち会った。見届け人のアテンドは谷合廣紀四段と安食総子女流初段。
▲1六歩 △1四歩
*名古屋市は愛知県の県庁所在地、東海地方の中心地。将棋も盛んで、棋士を輩出した。加藤博二九段、大村和久八段、吉田利勝八段、板谷進九段、西村一義九段、杉本昌隆八段の出身地である。2020年12月、同市と日本将棋連盟は「文化振興に係る連携協力に関する協定」を締結している。
*か茂免は、同市の「白壁」と呼ばれる地区にある。近隣の主税・橦木地区も含めて町並み保存地区に指定されている。江戸時代の武家屋敷の面影がいまも残る。明治期には名古屋財界人の住宅街となり、和洋折衷のモダンな邸宅が建てられた。か茂免にも和館(客座敷)と洋館(応接間)がある。か茂免は各部屋を映した動画を公開している。対局室は「すずか」の間。
▲3八銀
*か茂免は名古屋市の老舗料亭。「かもめ」と読む。1928年(昭和3年)に水炊き専門店として開業した。移転や戦災を経て現在に至る。敷地は約1000坪もあり、大小9室の座敷を回廊で結ぶ。懐石料理、ふぐ料理、すっぽん料理などが名物だ。タイトル戦の開催は本局で2回目である。初のタイトル戦は2019年の第60期王位戦七番勝負第1局、豊島が木村一基九段に勝った。
△3三銀
*東京2020オリンピックの円滑な運営のため、2021年はいくつかの祝日が別日に移動となる。本来なら8月11日である「山の日」も8月8日になった。本日9日は振り替え休日となる。オリンピックは昨日閉幕し、日本は金27個、銀14個、銅17個のメダルを獲得した。計58個は過去最多。パラリンピックは8月24日から9月5日にかけて開催される。
▲3六歩
*藤井は忙しい。3日後の12日には、竜王戦挑戦者決定三番勝負第1局がある。三番勝負を制すれば、叡王戦、王位戦、竜王戦と合わせて、豊島と十九番勝負を戦うことになる。16日には王将戦二次予選があり、8月後半も王位戦と叡王戦が続く。第4回ABEMAトーナメントの本戦もどこかで入るかもしれない。
△6二銀 ▲7八金
*すぐに▲3七銀から早繰り銀を目指す将棋もある。本譜は▲7八金と囲いに一手入れたので、腰掛け銀にする可能性が高くなった。
△6四歩
*序中盤は時間の使い方にも注目したい。特に豊島は研究範囲までは早指しで飛ばすことで知られる。研究を外れた局面で長考することが多い。
▲6八玉
*佐藤康光九段が日本将棋連盟会長として帯同している。控室で観戦中だ。中村太七段、谷合四段、山根女流二段、安食女流初段も控室にいる。
△6三銀
*淡々と手が進む。「午前中に50手はいくか」の声もある。両者の想定局面が同じなら、ありうる話だ。
▲9六歩 △9四歩 ▲4六歩
*▲4六歩と突いたことで早繰り銀(▲3七銀~▲4六銀)の可能性は消えた。
△4二玉
*風がかなり強くなってきた。か茂免の庭の木々が大きく揺れている。角換わりは激しい戦いになりやすい。いまのところは穏やかだが、いずれは嵐が訪れるはずだ。
▲3七桂
*▲3五歩△同歩▲4五桂の速攻含み。
△5二金
*△5二金は▲4五桂対策として最も手堅い。先手としては、後手に△6二金を放棄させたことになる。
▲4七銀 △7四歩 ▲4八金
*先手は右金を4八に上がる。後手とは違う構えになった。
△7三桂
*現局面の前例は4局。先手が3勝1敗と勝ち越している。
▲2九飛
*4八金・2九飛型は現代角換わりの定番だ。
△8一飛
*次に△5四銀を指すと▲7二角を与えるのが5二金型の課題。
▲6六歩 △6二金
*6二金型にした。この金の動き自体は手損だが、角換わり腰掛け銀の後手番は手待ち戦術も多い。手損が響きにくい戦型である。
▲5六銀 △5四銀 ▲7九玉 △5二玉 ▲8八玉 △4二玉
*手待ち戦術が始まった。
▲4五桂
*「午前中に50手はいく」とは甘い見通しだった。開始から31分で43手目が指された。
△4四銀
*豊島、藤井ともに公式戦で経験している形だ。特に藤井は先手で3勝、後手で1勝と負けなしである。
▲2四歩
*▲4五桂の目的のひとつは2筋の歩を切ること。
△同 歩
*2018年の第49期新人王戦記念対局(非公式戦)、▲藤井-△豊島戦がこの形だった。89手で藤井が勝っている。
▲同 飛
*△1三角は▲2九飛△4六角▲4七金△2八歩▲4九飛△2四角。この変化は5二玉型なら有力だが、4二玉型では2四角が狭い。本譜では指しづらい変化だ。
△2三歩 ▲2九飛
*次は▲7五歩から▲7四歩が先手の狙い筋だ。後手はじっとしていても主張がないので攻めることになる。
△6五歩
*定跡の進行が続く。
▲同 歩 △7五歩
*△6五歩から△7五歩の順番は大事で△7五歩▲同歩△6五歩では▲7四歩がある。本譜で▲7五同歩は△6五桂と跳ねられる。
▲2二歩
*▲2二歩で△同金を強要する。すぐに攻めるというよりも、後手の攻めを牽制する意味合いがありそうだ。後手も壁金で攻めると反動が大きい。
△同 金
*前例は先手の9勝1敗。意外なほど差がついている。
▲7九玉
*▲6四歩は△8六歩▲同銀△7六歩▲7七歩△同歩成▲同金と形を乱される。▲7九玉に△8六歩なら▲同歩と取りやすい。
△8六歩
*前例は△3二金が多く、△8六歩は1局しかない。もっとも△3二金から△8六歩という順もあるので、再合流するかもしれない。
▲同 歩 △8五歩
*継ぎ歩まで決めるのは珍しい。前例はなくなった。
▲同 歩
*先手はまだ8筋を手抜いて攻められるほど攻撃力が高まっていない。▲8六同歩と自然に相手をした。△同桂には7九玉型を生かして▲8六銀や▲6六銀で問題ないだろう。8八玉型では8一飛の利きが強力で、こういった対応はできなかった。
△3二金
*豊島の消費時間の通計は13分39秒。まだ研究範囲内だろう。藤井は手を止めている。現局面について中村太七段に聞いた。
*「55手目▲7九玉に△3二金▲2二歩△同金▲3五歩△8六歩▲同歩△8五歩とした将棋(今年7月9日の竜王戦、▲梶浦宏孝七段-△羽生善治九段)もありましたが、▲3四歩と手抜かれてしまいました。△8五歩を先に指すことで▲同歩と取らせ、△3二金と戻したのが豊島叡王の工夫です。藤井二冠は△8五歩の打ち捨てをとがめる順がないかと考えているはずです」
*10時のおやつ。豊島は「瀬戸内大長レモンケーキ、氷なしのアイスレモンティー」、藤井は「プレミアムショートケーキ(国産苺)、アイスコーヒー」。ケーキは不二家の提供だ。豊島のケーキは広島県産大長レモンのピューレを使用。レモンピールのさわやかな風味と食感がアクセントになっている。藤井のケーキは国産苺を使用したオリジナルのショートケーキ。口どけのいいシャンテリークロームと苺を二段サンドした贅沢な一品。
▲2二歩
*39分の考慮で指された。2度目の▲2二歩。いかに壁金が大きいかわかる。
△3三桂
*「さきほどの▲2二歩(55手目)とは違い、現局面は激しくなっています。同じように△2二同金で壁形になると、自玉の右側から攻められたときに耐えきれませんでした。本譜も相当な斬り合いになりそうです」(久保九段)
▲同桂成 △同 銀
*△3三同金の前進守備はリスクが高い。△3三同銀は比較的穏やかな応手である。
▲8四角
*角換わりでは定番の角がいくつか存在する。しかし、▲8四角はあまり見ない。△6五桂を消しつつの歩取りだが、角を手放すことに見合うのか。
△2二銀
*11時2分の着手。豊島はいまだに長考がない。△2二銀までの消費時間は、▲藤井1時間41分、△豊島19分。
*「将棋AIは65手目▲8四角を示していました。△6五桂に▲6二角成を用意した受けの手です。それでいいのかなと思っていたのですが、藤井さんは指しましたね。さすがです。対して我々は△6三金を予想していたのですが、豊島さんの△2二銀もAIの推奨手でした。間違いなく研究手順です」(広瀬八段)
▲6六桂
*「あー、打った!」と佐藤康九段。▲6六桂は筋が悪いと話していたところだった。「いかんな、一から勉強しないと」と苦笑いをする。狙い筋は△6三銀▲7五角から▲6四歩のようだ。以下△5二銀や△7二銀には▲5四桂△同歩▲6三歩成が開き王手になる。
△6三銀
*▲7五角から▲6四歩は2手かかる攻めだった。先に銀を引いて対応する。この手は11分の考慮。豊島も想定を外れつつあるのかもしれない。
▲7五角
*先手はあくまで▲6四歩を狙う。
*
△3一玉
*11時40分、70手に到達。△3一玉は67手目に記載した▲5四桂の筋を緩和している。
▲6四歩
*駒を中央に使うなら△5二銀だが、△7二銀から△5二金も考えられる。控室では「先手はどうまとめるのか」の声もある。前線に投入した角と桂は頭を攻められると弱い。たとえば△7二銀▲3五歩△6五歩▲7四桂△5二金▲8四歩に△8五角や△9二角とすれば後手は桂を取れる。
*ここで豊島が16分使って昼食休憩に入った。休憩時間は12時から1時間。消費時間は▲藤井2時間6分、△豊島51分(持ち時間は各4時間)。藤井の昼食は「名物ぽんきし、鱧寿司」。か茂免の「ぽんきし」は、きしめんのスッポンスープ仕立てだ。豊島は「一色産鰻のコーチン玉子とじ丼、壬生菜と海老のとびっこ和え、抹茶鱧すまし仕立て」。
△7二銀
*対局再開。昼食休憩後の指し手。△7二銀には(1)▲9五歩が検討されていた。(2)▲3五歩△同歩▲9五歩と勢いをつけられればよいのだが、▲3五歩は前述の△6五歩が気になる。(3)▲8四歩(△8五桂の防ぎ)は△5二金で指し手が難しい。
▲8四歩
*先手は盤の左に手をかけてきた。▲8四歩もその流れで、7四に桂を跳ねたあとに△8三銀から桂を取りにこられる順を消している。手渡しの意味合いも強い。ただし、8筋の歩を伸ばしたことで、▲9五歩△同歩▲9二歩△同香▲9三歩の筋は遠のいた。藤井は羽織を脱ぎ、丁寧にたたむ。
*
*※局後の感想※
*「▲8四歩を突いた意味があまりなかった」と藤井。代わる手段としては▲3五歩△同歩▲9五歩になりそうだ。
△5二金
*勝又七段は△2一玉も挙げていた。広瀬八段は「7筋や8筋はお互い攻めにくい」という。
▲3五歩
*13時44分、藤井はついに盤の右側へ手を伸ばした。△3五同歩は▲3三歩や▲3四歩が生じる。後手も持ち歩が増え、△3六歩から△3七歩成と逆用できる可能性もあるため、一方的に利かされるわけではない。
△同 歩
*14時3分の着手。△3五同歩までの消費時間は、▲藤井2時間21分、△豊島1時間40分。
*
*※局後の感想※
*△6五歩も検討された。以下(1)▲7四桂△8五角は先手自信なし。(2)▲3四歩△6六歩▲同角△4二金右で「この図がわからなかった」と豊島。しかし、有力ではあったようだ。
▲9五歩
*▲8四歩と突いてから▲9五歩は難しい。△9五同歩にどう攻めるのか、すぐにはわからない。△9五同歩に(1)▲4五銀は△9二角や△6五角が飛車取り。5六銀を動かすのはリスクをともなう。
*手順を凝らせば9筋攻めもまだあるようだ。たとえば(2)▲9三歩△同香▲7四桂。次は▲8三歩成△同飛▲8二桂成△同飛▲9三角成で香を取れる。名古屋は不安定な天気だ。晴れていたかと思えば、いまは土砂降りの雨。その雨も短時間で上がった。
△6五歩
*△6五歩は駒を呼び込む手。▲5四桂は△7四歩があるので▲7四桂が有力だ。
*
*※局後の感想※
*「▲9五歩がぬるすぎた」(藤井)
*「△6五歩がおかしかったですかね。▲7七桂(85手目)まで進むとまずそうな」(豊島)
*「1手待って▲9四歩に△9七歩でも……」(藤井)
*△6五歩に代えて△4四歩▲9四歩△9七歩▲8三歩成△同飛▲9七香△9二歩▲8四歩△8一飛が並べられた。以下▲4五歩では「自信がない」と藤井。「ちょっとわからないですけど、このほうがよかったですか」と豊島。
▲7四桂 △8五桂
*呼び込んでから前に進む。局面が大きく動いた。▲8六銀に(1)△7七歩▲同桂△同桂成▲同銀△8五桂のおかわり攻めは、▲8六銀に△7七歩と打つ歩がない。2度目の△8五桂に代えて△6六桂は▲同銀△同歩▲4五桂で先手の調子がよい。(2)△4四角が調べられている。
*15時のおやつ。藤井は「瀬戸内大長レモンケーキ、富士すりおろしアップルジュース」、豊島は「プレミアムチョコ生ケーキ、氷なしのアイスレモンティー」。プレミアムチョコ生ケーキは、ココアスポンジにチョコクリームとビターな味わいのチョコガナッシュを重ね、サンドの餡かけしたクルミがアクセント。チョコ好きにはたまらないワンランク上のチョコレートケーキだ。
▲8六銀
*▲8六銀で桂を取りにいく。△4四角を恐れていない。
△4四角 ▲8五銀 △9九角成
*▲7七桂と▲6八玉のどちらもある。前者は馬を止めながら駒を活用できるし、後者は馬から玉が遠ざかる。
▲7七桂
*「先手は手の流れがいいですね」と検討陣。先手持ちの声が上がっている。駒の働きがよい。飛車は▲6八玉で馬に当たるし、7五角と7七桂は▲6五桂から▲6三歩成△同銀▲5三桂成の連係攻撃がある。対局者の形勢判断はどうだろうか。豊島が手を止めてから、かなりの時間が経過した。
△6六香
*△6六香は意外だ。ここに打つ駒は桂だと思われていた。▲6八玉を消しているが、次に後手の手番でどう攻めるかは難しい。先手は攻めも受けもありそうだ。その意味では相手を迷わせる手といえる。広瀬八段は▲6五銀に△8七桂▲同金△6七香成を解説している。△8七桂は見えにくい。
▲3三歩
*藤井の選択は攻め。8分の考慮で指した。残り時間は▲藤井57分、△豊島1時間17分。藤井は普段より時間を多く残している。
△同 銀 ▲4五桂
*藤井は自玉周りには一切手を入れず、攻めてこいの態度で指している。▲6六角を切り札にしているようだ。藤井将棋はギリギリまで引きつけてからカウンターで斬る展開も多い。
*「この局面はひと目はいい勝負と思ったのですが、調べてみると先手よしとわかってきました。あらためて藤井二冠の大局観はさすがだと思います」(谷合四段)
*(1)△4二金右は▲3四歩△同銀▲3三歩が痛打。(2)△4四銀は▲3四歩。これは(1)の変化で▲3四歩に△4四銀と逃げたようなもので苦しげだ。
*攻めも思わしい順がない。(3)△9八馬は▲8八金△8七桂▲7八玉で寄らない。(4)△7三桂▲9六銀△9五歩▲8七銀△9六歩は、▲3三桂成△同金▲3四歩△3二金▲6六角△同歩▲3三香。この変化は▲6六角がぴったりの手になる。
△2二玉
*△2二玉は受けの勝負手か。玉の力で3三の守りを強化している。谷合四段は▲3三桂成△同金▲8八銀△9八馬▲8七銀△9九馬▲6五銀を示した。次に▲6六角が2二玉を直撃する。この手順は86手目に記載した△8七桂の変化も消している。
*
▲6三歩成 △同 銀 ▲6五銀
*▲6三歩成△同銀▲6五銀は、検討されていた順と思想がまったく違う。90手目に記載した順は▲3三桂成から▲8八銀で△8七桂を消し、万全を期してから▲6五銀だった。本譜はむしろ△8七桂▲同金△6七香成を誘っている。
△8七桂
*△8七桂はかねてからの狙い筋。
▲同 金
*5六銀が動いたので6七が空いている。
△6七香成
*藤井が6筋の歩を成り捨てたのは、▲6八歩で催促するためだと推測される。▲6八歩の前に▲3三桂成を決める手もある。
▲3三桂成
*▲3三桂成を決めた。後手玉を薄くしつつ、最終的には▲6八歩△7七成香▲6六角が狙い筋になりそうだ。
△同 金
*後手玉のコビンをこじ開けるには▲3四歩か▲4五桂。▲3四歩なら確実に入る。▲4五桂は手抜きも考えなければならない。
▲4五桂
*藤井はあまり時間を使わずに指している。思いどおりに進んでいるのか。
△3四金
*▲4五桂を手抜けないというのは両者の共通認識だったようだ。
*
*※局後の感想※
*△4二金▲3三桂成△同金▲3四歩△同金も検討された。以下、本譜と同じように▲6八歩(101手目)から▲2六香(110手目)まで進めたときに△2四桂と受けられる。△2四桂▲同香に△同金は▲7八玉、△同歩は▲2六桂で先手よしだが、本譜よりはアヤがあった。
▲6八歩 △8六歩
*△8六歩が急所のたたきか。▲8六同角に△6六歩▲6七歩△同歩成▲6八歩△6六歩▲6七歩△同歩成▲6八歩△6六歩は千日手になる。先手はどこかで6七の駒の追い方を変えなければならない。△6六歩の前に△9八馬もあって複雑だ。
▲同 角
*第2局は藤井が一分将棋になったあと、豊島が勝負手を連発して逆転した。本局で藤井が時間を残しているのは、第2局の影響もあるかもしれない。
△9八馬
*▲8八金は△7八歩が痛い。▲9六銀しかないか。
▲9六銀
*△9五歩や△7八歩で勝負するか。いったんは△6六歩か。この最終盤で選択ミスはできない。
△7八歩
*豊島は残り10分を切った。
▲6九玉 △3六桂
*左右挟撃を目指す。しかし、▲6七歩で先手が勝ちそうだ。以下△4八桂成▲2七香△8七馬で必至をかけると、▲2三香成△3一玉▲3二銀△4二玉▲3三成香△同金▲同桂成△同玉▲2二飛成△4二玉▲3三金△5一玉▲3一竜で後手玉が詰む。
▲6七歩
*詰む詰まないの変化が生まれ、控室がざわつき始めている。
△4八桂成 ▲2六香 △1二金
*虎の子を受けに使った。詰みを逃れるためとはいえ、辛抱の一手。同じ受けでも△3二金では▲3三歩があった。
▲7八玉
*藤井はすぐに指す。余して勝つ方針か。
△3八成桂
*飛車を受けに使うのか、攻めに使うのかを問う。
▲2七飛
*▲2七飛は攻めの姿勢だ。横利きによる守りは消えた。△9五歩には▲2五銀で押し切れそう。
△9五歩
*豊島は残り時間が少ない。まもなく一分将棋に入る。
▲9九歩
*9五歩が消えたことで▲9九歩が生じた。手堅い一着だ。△9九同馬と取らせれば△9六歩も甘くなる。
△同 馬 ▲2五銀
*形勢は先手勝勢。
△4五金
*豊島は持ち時間を使いきり、一分将棋に入った。
▲3四銀
*△3六金は▲2三香成△3一玉▲3三銀成△2三金▲同飛成で必至。
*この局面で豊島が投了、藤井がシリーズ成績を2勝1敗とした。終局時刻は17時39分。消費時間は、▲藤井3時間35分、△豊島4時間0分(持ち時間は各4時間)。第4局は8月22日、愛知県名古屋市「名古屋東急ホテル」で行われる。
*投了以下は後手から速い攻めがなく、2筋を受けるくらいだが、△3一桂は▲4五歩から▲3三金、△2四桂は▲4五歩から▲2四香で先手勝勢は動かない。
*
*※局後の感想※
*「▲3五歩(75手目)から▲9五歩(77手目)のあたりで対応を間違えてしまった」と豊島。感想戦は手短に20分ほどで終えられ、両対局者は名古屋観光ホテルの大盤解説会場に向かった。以下はホテルに移動する前に行われた藤井のインタビュー。
*
*――本局の振り返っての感想。
*
*藤井 角換わりの定跡形から中盤は手が広くて難しい展開になりました。本譜は後手の攻めを緩和できたのですが、少し駒を使ってしまって、うまくいっていないのかなと思いました。そのあとの攻め合いでこちらの玉もかなり攻め込まれたのですけど、なんとかしのぐことができました。
*
*――中盤の角や桂の使い方は、控室の棋士もうなるような指し回しでした。
*
*藤井 ▲8四角から▲6六桂と打って、自玉が手厚くなるかと思って指していたのですが、進んでみるとこちらの駒が伸びきってしまっているような感じもしました。
*
*――昼食の「ぽんきし」はいかがでしたか。
*
*藤井 きしめんは名古屋メシのひとつですけど、すっぽんは初めて食べた気がします。おいしくいただきました。
*
*――叡王獲得まであと1勝です。
*
*藤井 第4局はタイトル獲得が懸かる一局ですが、そのことは自分が意識することではないかなと思うので、次局もこれまでどおりの気持ちで臨めればと思います。
まで121手で先手の勝ち

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