第34期竜王戦挑戦者決定三番勝負第2局。藤井聡太vs永瀬拓矢

開始日時:2021/08/30 10:00
終了日時:2021/08/30 20:18
表題:第34期竜王戦挑戦者決定三番勝負第2局
棋戦:竜王戦
戦型:相掛かり
持ち時間:5時間
消費時間:77▲242△263
場所:東京・将棋会館
備考:昼休前35手目34分・夕休前59手目19分\n
先手:藤井聡太王位・棋聖
後手:永瀬拓矢王座

*豊島将之竜王への挑戦権を懸けた第34期竜王戦挑戦者決定三番勝負。第2局の永瀬拓矢王座(1組優勝)-藤井聡太王位・棋聖(2組優勝)戦を中継する。第1局を制した藤井が勢いそのままに竜王初挑戦を決めるか、永瀬が1勝を返して踏みとどまるか。
*対局は8月30日(月)10時から、東京・将棋会館「特別対局室」にて行われる。持ち時間は各5時間。藤井の先手番で開始される。
*9時29分、藤井が先に姿を見せた。40分、永瀬も到着。両者とも入念に手を消毒したあと、藤井が駒箱に手を伸ばして対局準備が進められた。
▲2六歩
*◆藤井 聡太(ふじい そうた)王位・棋聖◆
*2002年7月19日生まれ、愛知県瀬戸市出身。杉本昌隆八段門下。2016年、四段。2021年、九段。棋士番号は307。
*タイトル戦登場は5回。獲得は王位2期、棋聖2期の計4期。棋戦優勝は5回。
△8四歩
*◆永瀬 拓矢(ながせ たくや)王座◆
*1992年9月5日生まれ、神奈川県横浜市出身。安恵照剛八段門下。2009年、四段。2020年、九段。棋士番号は276。
*タイトル戦登場は7回。獲得は王座2期、叡王1期の計3期。棋戦優勝は2回。
▲2五歩
*藤井の今年度成績は23勝5敗(0.821)。
*昨年度成績は44勝8敗(0.846)。
*通算成績は236勝45敗(0.840)。
△8五歩
*永瀬の今年度成績は11勝6敗(0.647)。
*昨年度成績は44勝23敗(0.657)。
*通算成績は405勝163敗(0.713)。
▲7八金
*両者の対戦成績は藤井5勝、永瀬1勝。
△3二金
*竜王戦は読売新聞社が主催する棋戦(特別協賛:野村ホールディングス株式会社、協賛:東急グループ、株式会社UACJ、旭化成ホームズ株式会社、一般財団法人あんしん財団)。1組から6組に分かれてトーナメントを行い、各組の上位者計11名による決勝トーナメントで挑戦者を決める。
▲3八銀
*本局の観戦記は高野秀行六段が担当する。今日の読売新聞朝刊に掲載されている観戦記は、決勝トーナメント3回戦の佐藤天彦九段(1組5位)と梶浦宏孝七段(4組優勝)による一戦。大川慎太郎さんが執筆した。
△7二銀
*読売新聞社では、Twitterで竜王戦の情報を随時発信している。写真撮影は決勝三番勝負第1局に引き続き、若杉和希記者が担当。対局中の緊迫した表情や、印象的なシーンを捉えるためにリモートカメラも導入している。
▲9六歩
*藤井の竜王戦成績は31勝4敗(0.886)。
*今期は2組ランキング戦で阿久津主税八段、広瀬章人八段、松尾歩八段、八代弥七段を破って5期連続ランキング戦優勝を達成。続く決勝トーナメントでは山崎隆之八段(1組3位)、八代弥七段(2組2位)をくだして決勝三番勝負に進出した。
*
*
△5二玉
*永瀬の竜王戦成績は54勝18敗(0.750)。
*今期は1組ランキング戦で澤田真吾七段、羽生善治九段、稲葉陽八段、久保利明九段を破り、1組優勝を果たした。決勝トーナメントでは梶浦宏孝七段に勝って決勝三番勝負進出を決めている。
▲4六歩
*本局の模様はABEMAの将棋チャンネルで動画中継された。解説は北浜健介八段、近藤誠也七段、及川拓馬六段、聞き手は貞升南女流二段、安食総子女流初段。
△9四歩
*第1局は先手番の永瀬が意表の三間飛車を採用したが、本局は相掛かり模様に落ち着いた。
▲2四歩
*飛車先交換を目指す自然な一手だが、データベース上では代えて▲4七銀(11局)の前例しかなかった。
△同 歩
*対局開始後からは、両者とも上着を脱いでワイシャツ姿になっている。
▲同 飛 △2三歩 ▲2八飛
*引き飛車に構えた。▲2六飛と四段目に引く指し方もあるが、4六歩型で飛車の横利きが通らない形なので相性が悪い。
△8六歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲7六歩
*9六歩型を生かして▲4七銀(△8七歩なら▲9七角)も考えられるところだったが、先に角道を開けた。
*
*※局後の解説※
*長谷部浩平四段>9筋の突き合いを生かして非常に意欲的な一手。
△同 飛
*藤井の積極策に対して永瀬も強気に応戦した。△7六同飛は17分の考慮。
*
*※局後の解説※
*長谷部浩平四段>真っ向からとがめにいく。
▲8二歩
*狙いの反撃。午前中から激しい展開になった。代えて▲4七銀は△8六飛と戻られて、先手の1歩損が残ってしまう。
△9三桂 ▲9五歩
*9筋の歩をぶつけて桂頭をこじ開けにいった。
△同 歩 ▲8一歩成
*歩を成り捨てて後手陣を乱す。早めに成り捨てを決めておかないと、△8六飛▲8一歩成△同飛の変化が生じる。
△同 銀
*対局開始からしばらくして、両者はプリーツ型マスクから立体型マスクに付け替えた。呼吸が少し楽になるのかもしれない。盤外でも用意周到だ。
▲2五飛
*フワリと飛車を浮いて9五歩を狙った。△8五桂も防いで一石二鳥だ。
△3四歩
*角がにらみ合う形となり、局面が複雑化してきた。先手は長期戦になると歩損が響く展開になりそうなので、うまく9三桂を負担にさせてポイントを稼ぎたい。
▲2二角成 △同 銀
*11時3分の着手。消費時間は、▲藤井10分、△永瀬39分。
▲7七桂
*左桂を活用して△8八歩のタタキを防いだ。藤井はここまでわずか10分しか使っていない。観戦記を担当している高野秀六段は、「まだお互い想定内です」と話している。
△7四飛
*11時25分の着手。
*▲9四歩を取り返せる位置に飛車を引いた。(1)▲8三角△8四飛▲5六角成なら△8九飛成と侵入できる。以下▲9四歩なら△8六歩の垂らしが厳しく、後手の速度勝ちが見込める格好だ。及川六段は上記の変化を踏まえて、現局面で(2)▲8八銀を候補に挙げている。
*12時、この局面で藤井が34分使って昼食休憩に入った。消費時間は、▲藤井44分、△永瀬1時間0分。昼食注文は、永瀬が「肉豆腐(キムチ)弁当(具はきのこと糸こんにゃくからきのこを選択)」(鳩やぐら)、藤井が「和風山椒ポークカレー」(鳩やぐら)。対局は12時40分から再開される。
*昼食休憩が明けたが、藤井は引き続き時間を使っている。その後のABEMAの解説で、(1)▲8三角△8四飛に▲6一角成△同玉▲9五飛の強襲があることが分かった。以下△8九飛成なら▲8八金打で竜を捕獲できる。攻めるか受けるか、重要な分岐点を迎えているようだ。
*
*※局後の解説※
*長谷部浩平四段>▲9四歩を防いで自然な一手。△8六飛や△3三桂、△2四歩など有力な手が多く非常に難しい局面だった。
▲4八玉
*13時23分、再開後の一手は戦場から遠ざかる▲4八玉だった。右辺の金銀を守り駒に見立てている。反面、△8四飛▲8八銀に△6九角の飛車金両取りが生じるデメリットはある。
*ここで永瀬の手が止まった。現局面で(1)△7二銀は▲9二歩△同香▲5六角が気になるし、(2)△8四飛は▲9四歩△同飛▲5五飛(再度△8四飛なら▲7五角の狙い)が一例で後手がまとめづらい。
*
*■ABEMA■
*及川拓馬六段>読みにくい手が指されましたね。
*
*※局後の解説※
*長谷部浩平四段>一手で非常に安定した形になった。
△8八歩
*前手▲4八玉を逆手に取った一着。▲8八同銀なら△6九角の両取りが実現する。とはいえ、△8四飛~△8九飛成とダイレクトに竜を作れなくなったマイナス面はある。
*「自陣の手の入れ方が難しいので、後手から動いたということですね」と高野秀六段。対して▲8八同金が予想されるが、そこで△1四角の筋を軸にして手を作れるか検討が進められている。
*△8八歩は14時15分の着手。消費時間は、▲藤井1時間28分、△永瀬1時間52分。
*
*※局後の解説※
*長谷部浩平四段>技をかけにいく。
▲同 金 △1四角
*事前に7九銀を浮き駒にした効果で、後の△6九角成が銀取りになる。ここで控室の本命は▲6五飛。以下△6九角成▲7八銀△7九馬▲8三角が並べられ、先手がおもしろいと見られている。△8八馬なら▲6一角成△同玉▲6三飛成△7一玉▲8三歩で後手玉は寄り形だ。7筋に歩が利くのが大きい。
▲6五飛 △6九角成
*△7二銀と手を戻すのは▲7八銀と馬作りを防がれて後手変調。いきおい△6九角成とした。
▲7八銀
*▲7八銀を入れるのが細かいようで大事。すぐに▲8三角は△7二銀▲7四角成に馬を取らず△7九馬の攻め合いが気になった。▲7八銀△7九馬の交換を入れてから▲8三角とすれば、△7二銀▲7四角成(1)△8八馬に▲6三馬△同銀▲8二飛の王手馬取りの切り返しがある。▲7四角成に(2)△同歩も▲8九金で先手優勢。後手は飛車の打ち込みに強い陣形に見えるが、▲7三歩△同銀▲8一飛であっという間に崩すことができる。そこで▲8三角には△6二金が改良案だが、以下▲7四角成△8八馬▲7五馬△7八馬に▲6六馬が絶品と高野秀六段。こちらも先手よしは疑いのないところだ。
*「永瀬さんだから何かあると思うんですが……」と高野秀六段は首をかしげるが、後手有望の変化はまだ発見されていない。
△7九馬 ▲8三角
*代えて▲8九金は、△同馬▲同銀△7七飛成と2枚替えに持ち込まれて先手が悪い。
*
*※局後の解説※
*長谷部浩平四段>金取りを受けずにカウンター。激しい攻め合いになった。
△6四歩
*玉のコビンが開くが、背に腹はかえられない。▲6一角成△同玉▲6三飛成の筋を防いだ。一方の先手は(1)▲7四角成△同歩▲6四飛と進めて△8八馬に▲8三飛を用意するか、あるいは(2)▲5五飛と寄って▲6一角成△同玉▲5三飛成の筋を見せるか。
▲7四角成
*藤井は、シンプルに飛車を取る順を選んだ。
△同 歩 ▲6四飛
*着手後、藤井は席を立った。後手は△6三歩と補修しても、▲6五飛△8八馬に▲8三飛であまり効果がない。永瀬はうつむく動作が多くなってきた。
△7五角
*△5七角成以下の詰めろと飛車取りの両狙い。部分的には厳しい一手だが、▲6一飛成△同玉▲6六歩で後手が苦しいと見られている。
▲6一飛成 △同 玉
*「先ほどは(現局面で)▲6六歩を検討していましたが、▲5八金がまさりますね。次に▲8九金と引けば馬が取れます」(高野秀六段)
▲5八金 △8八馬 ▲8三飛 △8二飛
*馬銀両取りを防ぐこの一手の受け。ここで▲6三飛成△5一玉▲8三歩といった手順も目につくが、現局面で▲8二同飛成△同銀▲6三金が明快と見られている。
▲同飛成 △同 銀 ▲6三金
*「美しい組み立て」と高野秀六段。▲6二飛以下の詰めろになっている。後手はいきなり受けが難しい状況に追い込まれた。ここで△6二歩▲8一飛△7一金は、▲同飛成△同銀▲5二金打までの詰み。
*
*※局後の解説※
*長谷部浩平四段>この▲6三金で後手の受けが難しい。すばらしい読みの深さと大局観だと思います。
△7一銀
*17時40分の着手。
*自陣の駒を活用して詰めろを防いだ。8八馬が狙われる格好だが、やむを得なかったようだ。先手はここで▲8一飛、▲7二歩のどちらを選ぶか。すでに控室では検討が行われる雰囲気ではなくなっている。
*18時、藤井がこの局面で19分使って夕食休憩に入った。消費時間は、▲藤井3時間41分、△永瀬3時間13分。夕食注文は、永瀬が「豚キムチ弁当、納豆オムレツ+キムチ」(鳩やぐら)、藤井が「五目炒飯」(紫金飯店)。対局は18時40分から再開される。
▲8一飛
*18時40分、対局再開。藤井は飛車を打ち下ろして寄せに入った。馬取りを受ける△7八馬には、▲7一飛成△同玉▲7二銀△8二玉▲8三歩△9二玉▲7三金で後手玉は受けなしとなる。
*19時27分、永瀬は残り1時間になった。
△7九馬
*△7九馬は油断ならない一手。▲7一飛成△同玉▲7二銀△8二玉▲8三歩△9二玉▲7三金ならば、△5七馬▲同金△同角成▲同玉△5九飛▲5八歩△5四飛以下、先手玉にトン死筋がある。
*
*※局後の解説※
*長谷部浩平四段>簡単には土俵を割らない粘り強い手。▲7一飛成から必至をかける順は先手玉がトン死してしまう。
▲6五桂
*桂跳ねが冷静な一着。▲7一飛成△同玉▲7二銀△8二玉に▲7三桂成以下の詰みを見ている。
△7二金
*反発力のある受けで粘る。▲7二同金は△同玉が飛車当たりになる。高野秀六段は、現局面で▲7一飛成△同玉▲7三桂成△同金▲6二銀△8一玉▲7三銀成を指摘した。後手玉は必至なので、そこで先手玉に詰みがなければ明快な勝ち方だ。
▲7三桂成
*▲7三桂成は自然な迫り方。(1)△6三金は▲同成桂、(2)△7三同金は▲同金で詰めろが続く。
△同 金 ▲同 金 △5二玉
*△4二玉~△3三玉のルートを頼りに逃げ込もうとする。
▲7一飛成
*▲6二竜△4一玉▲5二金△3一玉▲5一竜までの詰めろ。
△4二玉 ▲6六銀
*▲6六銀とは手堅い。藤井といえば詰む、詰まないを読みきって鋭く踏み込んでいくことが多いが、本局では絶対に負けないという手を選んでいる印象だ。代えて▲7四金でも勝ち筋といわれていたが、5七の地点が寒い。
*「ものすごく大事にいってますね」(高野秀六段)
*
*※局後の解説※
*長谷部浩平四段>石橋をたたいて渡るような手堅い一手。角を持てば速い。
△6四角
*▲6二竜で王手角取りをかけられてしまうが、△3三玉▲6四竜△7八馬でもうひと粘りするつもり。
▲6三金 △4六角 ▲2一龍
*21時13分頃、離席していた永瀬は、着座すると上着を羽織った。
△3一金
*竜が捕まっているが、決め手がある。
▲4五桂
*△2一金は▲5三金△3二玉▲4二金打までの詰み。
△5一飛 ▲3二金
*この局面で永瀬が投了した。終局時刻は20時18分。消費時間は、▲藤井4時間2分、△永瀬4時間23分。勝った藤井は挑戦者決定三番勝負を2連勝で制し、竜王初挑戦を決めた。七番勝負第1局は10月8日、9日に東京都渋谷区「セルリアンタワー能楽堂」で行われる。
*投了以下は△3二同金▲5一竜△同玉▲5二飛△4一玉▲5三桂不成△3一玉▲5一飛成までの詰みとなる。
*
*※局後の解説※
*長谷部浩平四段>藤井王位・棋聖の21手目▲7六歩が非常に意欲的な一手で、永瀬王座も△7六同飛と応じて激しい戦いになりました。
*57手目▲6三金まで進めば先手よしだとハッキリ分かると思うのですが、先手はこの順に踏み込むためには相当前から決断しなければなりません。49手目△7五角や、54手目△8二飛が▲6三飛成に対応しているなど、それらをクリアして踏み込む藤井王位・棋聖の読みと大局観のすばらしさがとても印象に残りました。
まで77手で先手の勝ち

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